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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第4章
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第4話

 喉元にナイフがあるってすごい怖い。ちょっと動いただけで刺さりそう。

 スレイさん、怖いよ。


 そう思ったとき、侍女が横跳びした。

 瞬間、彼女の頭があったあたりをナイフが掠める。スレイさんだ。


「“影”よ。禍つ人を傷つけたくなければ攻撃などしないことだ」

 侍女は壁の方に向かって声をかけると、私を抱えたまま扉を開け廊下を走り出した。


 えっ、どこに行くの? この人がナイフを持っている限り、スレイさんは手出しできないってこと。

 どこかに連れ去られて殺されちゃうの。別にあの場所で殺してもいいんじゃないの? この人は皇女が命じた暗殺者じゃないの? 


 バタバタと四肢を動かして、彼女から逃れようともがくけど、私に回された暗殺者の腕はびくともしない。

「禍つ人よ。無駄に動かない方が身のためだぞ」

 耳元に低い声で囁かれる。うっ、はい、そうですね。


 この人、力はあるけど女性だ。男の人が侍女に変装していたわけじゃないんだ。腕は細いのに筋力がすごい。

 運動能力もとても高い。私を抱えたまま結構な速さで近衛兵たちの間を駆け抜け、彼らの剣を身軽に躱す。なんだか、スレイさんみたい。


 彼女は王城内を走り抜け、尖塔に向かった。

 塔内の階段を駆け上る頃には追っ手は見えなくなっていた。塔の出窓から外に出て、細い足場をスイスイと屋根に向かう。

 キャー、怖い、怖い。こんなに高いところ、嫌いだよ。

 私はしっかり目を瞑って恐怖をやり過ごそうとしたけど、頬に当たる風やその音が否が応でも高所にいることを実感させてくれた。



「禍つ人よ」

 暗殺者が静かな声で語りかけてくる。

 ゆっくりと眼を開いた。

 私が座らされているのはヒューヒューと寒風が吹く、尖塔の屋根の上だった。あぁ、街がミニチュアのよう。もう、これだけで気を失いそうなのに目の前にはキラリと光るナイフがある。二重の恐怖だよ。


「禍つ人。お前の望みはなんだ」

 望み? どうしてそんなこと聞くんだろう。

「殺さないでください」

 涙目、震える声で返答する。

 私の答えを聞いて彼女は溜め息をついた。

「そういうことではない。お前はどう生きたい、何を願う」

 生き方? 願い? でも、私あなたに殺されるんだよね? 変な質問。

 彼女の瞳を見つめ返した。静かな瞳に殺意は感じられなかった。



「できるなら日本に還りたい」

「無理だな」

 彼女の即答に黙って頷く。

 充分わかってます。なにか知ってるかなと思って聞いてみただけ。


「皇子の作った平和で豊かな国を見てみたい」

「そうか」

「それからずっとキールさんといたい」

「そうか」

「キールさんとトリア村に帰りたい」

「そうか・・・・」

「それから、キールさんと一緒にこの国のいろんなところをみてみたい」

「そうか・・・・」

 暗殺者は相槌を打ちながら聞いている。私は落ち着くと同時に面白くなってきた。だって殺されちゃうかもしれないのにいろいろとやりたいことが浮かんでくるんだもの。


「えっと、この国の料理をうまく作ってキールさんに食べてもらいたい。刺繍もうまくできるようになりたい。文字もすらすらかけるようになりたい。それから・・・・」

「あはは」

 彼女は私の言葉を遮って笑い始めた。

 えっ、おかしなこと言った?


「お前は、普通の女の子だな」

 私は首を傾げて彼女を見た。

 彼女の眼はどこか遠くを見ているようで、ひどく寂しげだった。

 この人にも望みがあるんだろうか? 


「あなたの望みはなんですか」

 心に浮かんだ疑問を思わず口にする。


 彼女は驚いた表情を浮かべ、眼を見開いた。

「そんなことを私に聞いたのはお前が初めてだな」

 彼女はうっすらと口元に笑みを浮かべた。

 でも、それも一瞬で、その表情はすぐに厳しいものになった。


「・・・・殺さずにすむ国」

 彼女はポツリと呟いた。

「殺さずにすむ?」

「あぁ、あの皇子と宰相の息子、それにお前と東の伯爵がいればできるのかもしれない。私も見てみたい皇子の作る平和で豊かな国」

 彼女は視線を遠くに向けたまま続けた。

 東の伯爵って誰? 私にはたいしたことはできないと思うけど、皇子にできるだけ協力したい。


「見られますよ。もうすぐです」

「そうだな」

 彼女はナイフを懐に収めて立ち上がった。


 一瞬の強風が彼女の髪を撫で、彼女が被っていた金髪を飛ばす。

 ショートカットにされたオレンジ色の髪が現れ、意思の強そうなグリーンの瞳が私を見下ろす。

「“青き闇”はお前のことが気に入った。皇子と共に望みをかなえてくれ。影ながらみている」


 彼女はそう言うと、身を翻して塔の下に飛び降りていった。

 えーっ、死んじゃうよ! 私が慌てて下を覗き込んだ時には、もう彼女の姿は見えなかった。


「この国の人たち凄すぎるよ」

 私は溜め息をついた。

「殺されなくて済んだんだよね・・・・。えっ、ちょっと待って! 私はどうするの。降りられないよ」


 スレイさんが、屋根の上で喚いている私を助けに来たのはそれからすぐだった。



     ☆



「トレイア様、神官様が外に」

 賊に入られたと騒ぐマリアンヌを宥めていると、侍女から部下の来訪を告げられた。

 マリアンヌに一時的に退室することを告げて応接室に入いる。

 “青き闇”は禍つ人を連れ去ったそうだ。禍つ人の死体でも見つかったか。やっと消せたか。



「“青き闇”が報酬の前金を返却してきました。『契約は解消する』と伝言が添えてあります」

「・・・・なんだと」

 部下が伝言を記してある紙を差し出す。

 瞬間、握りつぶした。


 どういうことだ。“青き闇”は禍つ人に魅入られたのか、操られたのか。そんな馬鹿な。小娘にそんな力などないはずだ。


 役立たずばかりだ!

 待っていろ、禍つ人。




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