第2話
読んで頂きありがとうございます。
今回、少し短めです。すみません。
「トレイアよ。皇子が正気にもどった今が潮時かもしれんな。神教団は国王に寄ることなく、あるべき形に戻るべきできないか」
グレイシア総神官が、私を見つめる。
神教団はグレン国王の庇護のもと拡大してきた。国王に取り入るために費やしてきた金は莫大だったが、国民に多大な喜捨を要求することで賄ってきた。
ラインドア国民には重税が課せられ、神教団からは喜捨を要求され大変なことだ。
「総神官がそんな弱気になられては、得られるものも得られませんし、国民の信を得ることもできませんよ。多くの民の幸福のためではないですか。教団が拡大できれば、辺境の地まで教えが伝播し民は正しき道を進むことができるのですから」
今更、方針を変えたところで国民の信頼など得られないだろう。しかし、ここで歩みを止めるわけにはいかない。教団はもっと拡大し、喜捨を得て王族や貴族が繁栄するために寄与するべきだ。
「それはそうだが、私たちは道を違えたのではないか。民の信など、もう・・・・」
「とにかく、皇子は政治に関わることなどありませんよ。マリアンヌ皇女が女王になるのも間近です。そして、私は彼女の夫となるのです。その暁には神教団を手厚く庇護しましょう」
私は、総神官の言葉を遮って断言し、彼に背をむけた。もう、ここに用はない。
「トレイアよ。それはどういう意味・・・・」
私は、彼の言葉に応えることなく総神官室を退去した。
「トレイア様。間諜や暗殺部隊のほとんどがやられて使い物なりません」
総神官室から出ると、間諜をまとめている神官が寄って来た。
まぁ、想定内だ。あの皇子と皇子の影たち、それに守られている禍つ人を簡単に抹殺できないことは重々承知だ。
「“青き闇”とは連絡がついたか」
「はい。連絡はついているはずなのですが、返事はありません。直接、トレイア様に接触してくるかと」
「まぁ、いい。報酬を弾めば動くはずだ」
暗殺集団“青き闇”は、高額の報酬で貴人の暗殺を請け負っている。仕事を選ぶと言われているが、かなり高額を提示したから接触してくるだろう。
私は苦笑し、待たせていた馬車に乗り込んだ。
もう少しだ。もう少し。
伯爵家に生まれたとはいえ三男の私は家を継ぐ権利もなく、成人してからは神官位を得て神殿に在籍するようになった。
もう少しだ。もう少し。
私を見下す父や兄や友人たち、貴族を見返してやる。そのために、私を邪魔するものはすべて排除する。
王城へと向かう馬車の中、僅かに眠気を覚える。うつらうつらとしたその時、馬車の上から声がした。
「お前がトレイアか」
女? 若干高めの声だ。馬車の上を見ようと立ち上がると
「動くな。余計な詮索はしないことだ」
「わかった」
私は、声の主を確かめることを諦め席に着いた。
「対象は皇子と禍つ人でいいんだな」
「あぁ、報酬は弾む。よろしく」
「トレイア、お前の望みはなんだ」
「望み・・・・」
「あぁ、お前は皇子と禍つ人を亡き者にしてどうするのだ」
なぜこのような問いをするのだろう。答えによっては仕事を断るのだろうか。
「なぜ、そんなことを聞くのだ」
「答えろ」
冷静な声音で返される。
「私の望みは、この国の頂点に立つことだ。国を思いのままに統治する。それが、望みだ」
マリアンヌを思いのままに操り、国を動かし、領土を拡大し富を得る。父を兄を、他の貴族たちを見返してやる。
「・・・・わかった」
軽い振動で暗殺者が馬車から去ったことがわかった。
“青き闇”はしくじることなく、皇子と禍つ人を殺すだろう。そうでなくてはならない。
☆
街歩きから戻るとニナさんが温かいお茶を淹れてくれた。
皇子とスレイさんと一緒にお茶を飲んで一息つくと、ニナさんが王城からの案内状だって薄い桃色の封筒を差し出す。
「私に?」
ニナさんが頷く。
中を開くが流暢な文字で記されていて全く読めない。苦笑しながら皇子に読んでもらうようお願いした。
「あぁ、姉上からお茶会の招待状だね。3日後の大舞踏会の前に衣装や髪型についてお話しませんかとあるねぇ」
「今、この時期にか」
皇子もスレイさんも微妙な顔をしている。
やっぱり暗殺目的なのかな。ただ意地悪や嫌味を言いたいだけじゃないのかな。
「お断りのお返事を届けましょうか」
ニナさんも心配顔で皇子に聞いている。
「そうだね。目上の人からの誘いを断るのは失礼とされているけど、ミオリは迷い人だから慣例に従うことはないよ」
皇子は早速返事を書き始めた。
「待って皇子。断ったら皇子が悪く言われることない? 禍つ人に操られているとか言われたりしない?」
「まぁ、そういうこともあるかもしれないけど、気にならないな」
皇子は用紙に文字を書きつけながら、なんでもないことのように話している。
でも、私は嫌だ。皇子が悪く言われたり、私に人を操る力があるように言われるのって。
「私、お茶会に行きます」
「ミオリ!」
皆、私の発言に対して眼を見開いている。
「大丈夫。飲んだり、食べたりしないし。スレイさん、天井裏とかで待機してて下さい」
「ミオリ、無駄に敵に接触することないよ」
「そうだぞ。敵の数がかなり減ったからといっても、まだまだ手練れは残っているんだからな」
皇子やスレイさんが反対するのもわかるけど、なんだか私も譲れない。
「行きます」
私は両手を握りしめ断言した。




