第1話
読んで頂きありがとうございます。
すみません。1週お休みしてしまいました。待って下さっていた方々には申し訳ありませんでした。
ペースを崩さないように頑張りたいと思います。
第4章です。舞台は王都に戻ります。
「わっ、きゃっ!」
「しっかり掴まってろよ」
「はっ、はい」
私がスレイさんの首にしがみつくと、彼は私を抱きかかえて態勢を整え、向かって来る暗殺者たちに対峙する。傍らにはディーン皇子もいて、剣を構えている。
「役得だな。スレイ」
「ほんとに気分いいな」
皇子の言葉にスレイさんが笑顔で答えてるけど、なんのことだかよくわからない。
私は、今から始まる本日3回目の暗殺者と皇子たちの戦いが怖くて、ギュッと眼をつぶった。
事の始めは、私の退屈そうな顔を見た皇子がお忍びで街に降りることを提案してきたこと。
ただでさえ、周囲には間諜がいたり狙われていたりするのに、街に出るなんてこと考えられなかったから最初は断ったんだけど。
「まぁ、待ってばかりもなんだし、こっちから仕掛けて間諜や暗殺者の数を減らしたいっていうのもあるんだよね」
皇子が、あまりにも爽やかな笑顔を浮かべて言うものだから「スレイさんもいるし大丈夫かな」なんて気が緩んじゃったんだと思う。王都も見てみたいって気持ちも大きかったし。
ニナさんが心配しつつも、町娘の衣装を着付けてくれて、カラコンも入れて禍つ人だってことがわからないようにした。
皇子は町の若者に扮してるけど、気品がダダ漏れで・・・・。
ニナさん、スレイさんと一緒に「どう見ても町人じゃないね」って溜め息をついた。
王都の中央広場には、多くの人が行き交い、露店も出て賑わっていた。
露店が扱っているものは野菜や果物、雑貨や食べ物と種類が多くて、色とりどりで見ているだけでも楽しい。国は疲弊しているって聞いたけど、余力が感じられる。
私は自分たちが狙われていることも忘れて、露店のスイーツを手に皇子とスレイさんと広場を散策していた。
「結構いるね」
「まず、1回目いくか」
皇子とスレイさんは、言葉を交わすと突然私の手を引いて走り出した。
「ミオリ、走るの遅いね」
皇子は走りながら苦笑してる。2人が早すぎるんだよ!
私の足の遅さに呆れて、スレイさんが抱き上げてくれた。すごい、早い! 私を抱えてるのにこんなに早く走れるなんて。スレイさん、すごいよ!
「ミオリ、落ちないようにしっかり掴まってろよ」
「はい!」
皇子とスレイさんは、敵を袋小路に誘い込み、彼らと向き合った。
敵が、スレイさんに抱きかかえられた私をめがけて突進してくる。こっ、怖い!
スレイさんが、半身をひねってそれをかわすと、皇子が剣を鞘にいれたままで敵の喉元を思い切り突いて、その胸を蹴った。敵はグッて変な声を上げて地面に倒れ込む。
それきり動く様子もないので、私が皇子を見ると「殺してないよ。気を失ってるだけ」って言いながら、敵の腕を思い切り捻った。嫌な音が周囲に響き渡る。暗殺者の利き手の骨を折ったみたい。
うぅ、怖いよ。私は生まれて初めて見る戦いや聞いた音に対して、ただただ目や耳を塞ぐしかなかった。
「ほら、次だ」
スレイさんは私を抱えたまま素早く動いて、敵をあっという間に気絶させ、彼らが当分の間仕事が出来ないような傷を負わせていく。
皇子もスレイさんも表情一つ変えずに淡々と作業するように敵を倒していく。
すごすぎる・・・・。
こんなことを2回、3回と繰り返した。
「もう、だいぶ数を減らすことができたぞ」
スレイさんが周囲を見回して言った。袋小路には5人の敵が物言わず倒れている。
「そうだね。もういいかな」
皇子の言葉に、私はやっと地面に足を着くことができたけど、なんだかフラフラしてスレイにさんに支えられてしまった。
「ミオリ、びっくりしたね。こんなこと初めてだものね」
皇子は私の頭を撫でながらを声をかけてくれた。
怖かったって言いたかったけど、皇子の表情が辛くて寂しそうでなにも言えずに黙って頷く。
皇子だって、敵とはいえこんな風に、人に傷を負わせることは望んでいないに決まってる。
私たちが大通りに戻ると、神殿の前に人だかりが見られた。
なんだか騒がしくて、神殿の中からは子どもの泣き叫ぶような声が聞えた。
「子どもだからって許されることではないなぁ」
「お願いです。許してください。この子は昨日ほとんど食事をとってなくて」
「そんなことは関係ないね」
3人の神官が、親子に向き合っていた。
1人の神官が5~6歳くらいの子の手首を掴んでいて、時々その手首を強く握りしめるみたいで、その度に子どもが苦痛に顔を歪めて声を上げ叫んでいる。
子どもが神殿の供物に手を出したらしい。
親子の衣服は煤けて、所々破れひどく汚れていた。皇子から、地方から中央への流民が増えているって聞いていた。この親子も職を求めて王都にやって来たのだろうか。
「この悪い手は斬り落すか、それとも鞭打ち100回か。どちらがいいかな」
子どもの手を握っている神官が薄ら笑いを浮かべてその手を捻った。子どもの叫ぶ声が、通りに響き渡る。母親が子どもを助けようとするけど、別の神官に遮られてしまった。
「鞭打ち100回にしよう」「交代で1人約30回ずつだな」「わかった」
神官たちはニヤニヤと話している。
周囲の人々は「可哀想に」「やりすぎだ」って小声で話している。でも、神官たちを恐れているのか誰も彼らの横暴を止めようとはしない。
確か、神殿ではなんの力を持つかわからない禍つ人を忌避しているって聞いた。
私の足は自然と動き、気づくと子どもの手を掴んでいる神官の前に立っていた。
「なんだ小娘」
神官は私に訝し気な視線を向ける。
「こんなに小さな子を鞭で叩く必要はないですよね。十分に反省しているようです」
私は、できるだけ声が震えないようにと願いながら、ゆっくりと力を込めて話した。
「生意気な。では、お前を鞭打ち100回にするか」
神官の瞳に僅かに怒りが灯ったのが見える。
私は、黙ったままカラコンを外した。私の瞳の色が急に変化したことに神官と周囲の人々がざわめいく。
「おっ、お前は」
「禍つ人だ! やばいよ。こいつはあの皇子を正気に戻したって言われてるぞ」
「どんな術を使うのか」
神官たちが動揺している隙に、子どもの手を取り返した。
その時、神殿前に馬車が止まってトレイア大神官が降りてきた。
「なんの騒ぎだ」
「トレイア様」
神官が手短に現状について説明している。私は子どもと母親の前に立ってトレイア大神官を見据えた。
「また、お前か」
トレイア大神官が私に向かって来る。どうしよう、彼は私に力なんてないのを知っているはず。
焦る私の前に皇子が現れ、トレイア大神官から守るように間に立ってくれた。
「すまないね。ミオリは小さな子をほおってはおけないんだよ」
「そのようですね」
トレイア大神官は皇子が現れたことに一瞬目を見開いたけど、すぐに冷淡な表情で皇子の言葉に答えていた。
「私に免じて許してくれないかな。君もこれ以上神官たちの悪行を晒すわけにはいかないよね」
皇子の言葉にトレイア大神官は苦虫を潰したような顔をした。
「道中、ひっそりと殺しておくんだったよ」
トレイア大神官は私を睨むと神官たちを促して神殿に入っていった。
「お姉ちゃん、ありがとう」「本当になんとお礼を言ってよいのか」
神官たちが去ると、親子は私たちに何度も頭を下げて大通りの人ごみの中に消えていった。
いつになったら親子の暮らしは楽になるんだろう。
隣に立つ皇子を見ると遠い眼をして人ごみを見つめていた。
私はそっと皇子の手を握った。「頑張りましょう」って想いを込めたけど伝わったかな。
「ミオリ! またやったな!」
背後からスレイさんの大声が聞えた。うわっ、またお説教。
「そうだね。無謀だよ。ミオリ」
あれっ、さっきまで遠くを見つめていた皇子の眼が今は静かな怒りを湛えて私を見てる。
だって、あんな小さな子が鞭で打たれるなんて嫌だったんだもの。
私が、眼を瞑って首を竦めると2人が同時に吹き出すのが聞えた。
「突拍子ないだろ。たいした考えもなく飛び込んでいくんだぜ」
「本当に、子どもに向かって行った時は驚いたよ。普段あんなに早く動くミオリを見たことがないからね」
皇子とスレイさんの笑い声が通りに響き渡る。
2人ともひどい・・・・。




