閑話「皇子と小さな迷い人」
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はじめは興味だった。
親友が辺境の地で保護した「禍つ人」と呼ばれている少女。
容姿は子供のようで、言い伝えのような力は持っておらず、やはりただの人間なのだと思った。
しかし、離宮に来て侍女として働いているうちに、私が気の触れた状態を装っていることに気付かれた。
食事に毒が盛られているのも、それを使用人たちが口にしないようと、奇行を装い処理していたのにも気付かれた。観察力のある、勘の鋭い子だと理解した。
朝食を処分してしまい空腹を感じていた時に、そっと差し出された彼女の料理は温かく美味しかった。
徐々にこの子はどういった子なのか観察するようになった。
よく働く、よく笑う、侍女や料理人ともうまくやっているようだ。
気が触れた状態を装い、彼女の言葉になんの反応も返さないのに丁寧に話しかけてくる。
その様子には好感がもてた。
深夜にスレイとの会話を聞かれた。
人に対し距離を置くスレイが彼女と親しげに話すのを見て驚いた。おまけに自分のことをぺらぺらと話していたらしい。なんでも彼女の前では素に戻ってしまうとか。“影”としてはどうなんだと叱責するべきなんだろうが、わからないでもない。土産まで持参していることに更に驚かされた。
スレイに、禍つ人を連行する神殿騎士団のなかに紛れ込むよう指示したのは私だ。
道中の彼女の様子を聞いた。老婆の命を救った様子が見事だったと顔を綻ばすスレイに苦笑する。
それは私も見てみたかった。
その翌日、親友が戻って来た。
彼女に対しての過保護ぶりにとても驚いた。こんな奴だったか。
多くの令嬢に言い寄られても、サラリとかわして女性には無関心な風だったのに。
彼女の体調を心配し、傍から離れたがらない。優しく声をかける。彼女をみつめる表情が甘い。他の男からのプレゼントに寒気を覚えるほどの不機嫌を表す。なにもかもに驚かされた。
そして、旅立ち間際のキス。とても優しく、大事そうに額に触れていた。
それを見た時になぜか、胸がチクりと痛んだ。
彼女の傍には親友が、親友の傍には彼女にいてほしいと思ったはずなのに。なぜだろう。
彼女を守るために、1日中傍で過ごすようになった。
読み書きがまだ不得手である彼女に文字を教えた。彼女の記憶力はとても良く、瞬く間にラインドア国語を吸収し児童書であればすぐに読めるようなった。
彼女の容姿で児童書を抱えている様子をみるとおかしくて侍女と笑いあう。
そうすると彼女は拗ねた様子を見せるのだ。まったく、可愛らしい。
侍女から令嬢の嗜みだと刺繍も習い始めた。
誰に贈るつもりか、暖炉の前で黙々と作業している。
私はその傍らで読書する。真剣な表情で一針一針模様を作っている彼女につい笑みが浮かぶ。
穏やかだ。こんなに穏やかな時間を過ごすのは久しぶりだ。
気が触れた状態を装っていた時には焦燥ばかり感じていた。なにかしなくてはと、常にせかされていたように思う。
今のこの時間が長く続けばいいのに。
絶対、口にはできない言葉だ。
ねぇ、ミオリ。私がトリア砦に左遷されていれば良かったよ。
私が、君を先に見つければ良かったよ。
次回から、隊長さんの向かった東の領土の話が少し続きます。
宜しくお願いいたします。




