第3話
なぜか私は異世界に迷い込んだらしい。
目が覚めると、茶色い髪に茶色い瞳の、私と同じくらいの歳の女の子が私を覗き込んでいた。
あぁ、また外国人だ。まだ、戻れていない。絶望と一緒に、私はゆっくりと半身を起こした。
「母さん!」
女の子は部屋から飛び出して行き、すぐにふっくらとしたおばさんを連れてきた。
「起きたんだね。気分はどうだい」
「・・・・少し頭が痛いです」
ズキズキと頭の両脇が痛む。
「それはいけないね。リィナ、階下からセデの実をお湯に入れて持って来とくれ」
「うん」
女の子が、また部屋からすごい勢いで飛び出して行った。
「あの、ここは」
「金色亭っていう宿屋兼居酒屋だよ。詳しいことは、あとで隊長さんに聞きな。今は頭痛をなんとかしようじゃないか」
おばさんは、私ににっこりと笑顔を向けた。その笑顔を見て、少しホッとした。知らない物や人に囲まれた中で、おばさんの笑顔は私の心を少しほぐしてくれた。
「はい、母さん」
女の子がカップを持って戻ってきた。
おばさんが、何かの木の実が入ったお湯を私に飲むように勧める。頭痛薬らしい。口にすると思ったより飲みやすく、スッとするミントのような香りがした。
また、少し気分が落ち着いた。
「隊長さんが来る前に、湯あみと着替えを済まそうか」
おばさんは、私の全身を見て言った。
ブラウスとスカートは所々汚れていて、なんだか埃っぽかった。皺もすごい。身体もなんだかべたべたして気持ち悪かった。
「あたしの服着てね」
女の子が薄い青色のワンピースを広げて見せてくれた。
金色亭には温泉があった。疲れによく効くっておばさんが教えてくれた。
浴室には広い湯船もあって、思い切り手足を広げてみるととても気持ちが良かった。何年か前に家族旅行で行った温泉を思い出してツンと鼻の奥が痛くなった。
「あたし、リィナ。あなたは?」
おばさんの娘は、私を心配してくれて脱衣所まで付き添ってくれていた。外から声をかけてくる。
私は石鹸のようなもので身体と髪を洗いながら答えた。
「佐川美織です」
「サガワミ オリ?」
発音しにくいのか変なところで区切っている。思わず笑ってしまった。
「ミオリでいいです」
「ミオリね。何歳なの?」
「15歳」
「えぇーっ! あたしより二つもお姉さんなの!」
脱衣所からリィナの叫ぶような、驚いた声が聞こえる。私も驚いた。同じくらいの年だと思ってた。それが13歳だなんて。
お風呂からあがって、ワンピースを着てみるとあつらえたかのようにピッタリだった。思わず苦笑いする。
私は、クラスの中でも一番小さかった。身長150cm、体重はモゴモゴ・・。ここの人たちはみんな大きいのかな。昨日私の頭を撫でてくれた、空色の眼の男の人も大きかったな。話すのに少し上向かなきゃならなかった。
テレビで身長差のあるカップルをみたことがあるけど、女の子が149cmで、彼が185cmで、並んだら凸凹してた。あの男の人もそのくらいあるかもしれない。
「ぴったりだね」
リィナがワンピースを着た私を見て言った。
「そうだね。ありがとうリィナ」
私がリィナに微笑むと彼女も微笑み返してくれた。
部屋に戻るとスープとパンが用意されていた。
「食べて元気になろうね。ダンの、私の夫の自慢のスープだよ」
スープからは湯気が出て、部屋中にいい香りがした。おばさんが、私が戻るのを計って用意してくれたのがわかる。
スープはとてもおいしくて、温かくて、少し家のことを思い出して、涙がこぼれた。
おばさんとリィナは、なにも言わずに私の両脇に座って肩や背中を撫でてくれた。それがとても優しく心に響いてくる・・・・。
「おーい。アン、隊長さんがいらしたぞ」
階下から男の人の声が聞こえた。
「ミオリ、あんたを保護してくれた。トリア砦の国境警備隊の隊長さんだよ」
「隊長さん?」
「青い眼にアッシュグレイの髪の渋いイケメンだよ」
リィナが口を挟んだ。
「あ!」
私が声を上げるとおばさんとリィナが笑った。
「ははは、やっぱり隊長さんはミオリから見てもイケメンなんだね」
「行こう」
リィナが私の手をとった。
昨日の男の人だよね。すごく優しく頭を撫でられて、安心したような・・・。それで、そのまま寝ちゃったような・・・。うぅ、恥ずい・・・。