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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第3章
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第3話

 王城から帰ってきてから、皇子がずっと一緒にいてくれるようになった。


「離宮の中は安全だと思いますし、危険を感じたらすぐ逃げますから、ずっと一緒にいてくれなくても大丈夫ですよ」

 皇子に手間や時間をかけさせてしまうのが悪くて、思いきって言ってみた。

「スレイが戻ったら交代するから、それまでは気詰まりだろうけど一緒にいるよ」

 皇子は苦笑しながら返してくれた。気詰まりではないけど、皇子の方が守られるべきじゃないのかな。襲われたら戦えるのかな。皇子の“影”って何人いるんだろう。


「私も剣はそこそこ使えるんだけどね」

 私の考えを読んだように、皇子が少し不機嫌そうに苦笑いしながら言った。

「ごっ、ごめんなさい」慌てて謝ると、皇子は時々スレイさんを離宮に呼んで剣の練習をしていたって話をしてくれた。

 王城で語られている『離宮の深夜の奇声』ってそれだったのかな。

 でも、皇子の剣の腕前を見ることなく過ごせるといいんだけど。



 侍女の仕事が出来なくなって、時間を持て余していたけど、皇子が私にラインドア王国の文字や文法、単語を教えてくれた。文字はトリア村でおばさんから習ったけど、生活するのに困らない程度のものだったからとても嬉しい。

 私はこの世界で会話に困ったことはないけれど、読み書きがほとんどできない。

 だから、文字を覚えて本を読むことができるようになった時はとても嬉しかった。皇子は教えるのがとても上手で、児童書くらいならすぐに読めるようになった。

 最近の楽しみは離宮の書庫に行って本を選ぶこと。幼い衣装を着て児童書を読んでる私を見て、ニナさんは爆笑する。その傍で皇子も笑ってる。えぇ、本当に子どもみたいですよ!



 ニナさんの手が空いている時は刺繍を習った。令嬢の嗜みなんだって。手芸はあまり得意じゃない。家庭科の成績悪かったし・・・・。

 ハンカチに刺繍して、想っている相手に送るのが、令嬢たちの間で長く続いている流行だって聞いた。日本でいうバレンタインチョコみたいなものなのかな。

 頑張ってキールさんに贈ろうと練習してるけど、なかなかうまくならない。


 ぽかぽかの暖炉の前に座って刺繍をしていると、皇子も傍で本を読んで時間を潰す。

 時々、皇子の視線を感じて見返すけど、皇子はニッコリ笑うだけで何も言わない。特に話があるわけではないみたい。針で指を刺さないか心配してくれてるのかな。

 こんなにゆっくりした時間を過ごしたのは、この世界に来て初めてだと思う。

 

 夜は、さすがに一緒に眠るわけにはいかないから、皇子の隣の部屋で休んでいる。

 スレイさんほどじゃないけど、手練れの影さんを付けてくれているので安心して眠ることができている。


 この3日間での被害は、廊下の壁に3本のナイフが刺さったこと、毒で2匹の鼠が死んだこと、手練れの影さんの擦過傷。皇子は笑って「意外に少ないなって」言ってたけど、これで少ないって・・・・。




 今日は王城で夜会が開催される日。


 今朝、スレイさんが地方での仕事を終えて戻ってきた。

 スレイさんは相変わらずで「なんだミオリ。だいぶ可愛い感じになってんな」って私の頭をグリグリした後で、またお土産の焼き菓子をくれた。

 それを見たニナさんが、物凄い勢いで目を見開いた。王都の有名なお菓子屋さんのものなんだって。そんなに有名で手に入りにくいのかな? 味は日本のお菓子屋さんのクッキーとあまり変わらないけどな。

 ニナさんがとっても食べたそうにしてたから、彼女の提案通りハンナと3人でお茶会をして食べちゃった。ニナさんはすごく満足そうだった。ハンナも髪にラッピングの濃桃色のリボンを結んであげたらとても喜んでくれた。

 そういえば、リボンをつけたハンナをみてスレイさんが脱力してたな。どうしてだろ。



 夕方から夜会のために、ニナさんにフリフリのドレスを着せられ、薄く化粧されて、頭に大きなリボンを結ばれる。

「あーあ、年相応に着飾ればきれいな令嬢なのにな。13歳設定とは。まぁ、これはこれで可愛いけどな」

 スレイさんが私を上から下まで見回して言った。

「スレイさんはどこにいてくれるんですか」

「言えないな。言ったらそこばかり見るだろう」

「あっ、そうかもしれない」

「大丈夫だよ。必ず守るから」

 スレイさんが珍しく真剣な表情で言ってくる。私は黙って頷いた。




「うわーっ、映画みたい」

 王城の会場に着くと思わず声が漏れた。

 ガラスをふんだんに使ったキラキラと輝く照明。テーブルには細かい装飾がされた燭台があって、飾られた花々や食事を照らしている。国民の多くが慎ましい暮らしをしているなんて、まったく感じることができない・・・・。連行される時に立ち寄った町々の人々の様子が頭をよぎる。

 招待されている人たちも、貴族とか神殿の上層部の人なんだろうな。豪華な衣装に身を包んでいる。婦人や令嬢たちは、みんなキラキラしてる。すごいすごい。私は口をぽかんと空けたまま、キョロキョロと会場を見続けた。

 

「エイガって何」

 皇子がクスリと笑って聞いてくる。あっ、恥ずかしい。すごくキョロキョロしちゃった。

「えっ、映画ですか。うーん。説明がちょっと難しいです。離宮に戻ったら絵を描いて説明しますね」

 私は、顔と耳が真っ赤なまま、苦笑いして答えた。

「楽しみにしておこう」

 私は皇子に頼まれて、日本の社会とか文化とか産業などの話をよくしていた。皇子は色々質問してくるけど、私には思うように答えられないことが多い。あぁ、もっと勉強しておくんだったっていつも思う。


 

 皇子に手を取られ国王の席まで進んだ。

 国王は皇子に気付くと立ち上がって、私たちを迎えて周囲に皇子が気の触れた状態から元に戻ったことを告げた。私については、皇子を治した迷い人とだけ説明された。周囲が少しざわめいたけどすぐに収まった。


 

 皇子の傍にはすぐに人が集まって来た。

 みんな口々に皇子が元の状態に戻ったことを祝っている。隣にいる私には、視線はくれるけど特に言葉はかけてこない。視線は冷たいものじゃないけど、好意的でもない。なかには不躾にジロジロと眺めてくる人もいる。そうだよね。怪しい事この上ないものね。

 そういった状況にちょっと疲れて、皇子の手が離れた隙に、庭園に続いているバルコニーに出て一息ついた。

 ちょっと危ないかな。でも、スレイさんがいるから大丈夫だよね。











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