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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第2章
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第11話

 日付が変わる頃に離宮に忍びこんだ。


 執務室を小さくノックするとすぐに扉が開かれ、ディーン皇子が現れた。俺の気配に気づいてすでに扉のところまで移動していたのだろう。

 

 3年ぶりに会う親友は若干痩せており、以前のような快活さや血色の良さがなかった。

「やぁ、長旅お疲れだったね。少しやつれたかな。まぁ、あの辺境で3年も頑張ったんだから仕方ないか。それに、その地から無理して9日間で戻って来てるんだからね」

「ディーンも無理しているんじゃないか。顔色があまりよくないぞ」

「気が触れたふりも疲れたよ。鍛錬はできないし、筋力は落ちる一方だしね」

 ディーンは溜め息をついた。彼は王族のわりには剣が使え、その腕はかなりのものだ。だが、3年もの長い間剣を持たない生活は彼の身体から引き締まった体躯を奪っていた。活動的なディーンのことだ、じっとしているのはかなりの苦痛だろう。


「誰にも見られなかったかい」

「鼠が1匹ウロウロしていたが、避けて入らせてもらった」

「ミオリが離宮に来てから鼠が増えたよ。まったく、のぞき見とは趣味が悪いね」

 ディーンの口からミオリの名が出て心臓が波打つ。そうここにはミオリがいるのだ。


「ディーン、ミオリは・・・・」

 俺は確認したくてたまらなかった言葉を発する。彼女がこの離宮に居ると思うと居ても立っても居られなくなった。

「今朝から高熱を出して・・・・」

「なんだって! どこだ、ミオリはどこにいる。熱なんてトリア村では出したことなかったのに、やっぱり長旅の疲れか。薬は、薬は飲ませたのか」

 俺はディーンの言葉の途中で立ち上がった。


「キール、落ち着け。熱は徐々に下がってきている。今日は侍女も傍につけてあるんだ。まったく、私がなにもしないわけがないじゃないか」

 ディーンの言葉にハッとする。そうだここは王城内じゃない。ディーンはミオリを大切に保護してくれるはずだ。

「すまない。ミオリのこととなると、つい」

 俺の言葉にディーンは苦笑いしている。


「ミオリに会いたいところすまないが、お前にやってもらいたいことがある」

 ディーンの言葉がしんとした執務室に響く。


 ディーンの話は国王を退位に追い込み、神教団をあるべき形に正すために中央、北、南、西の大領地を治めている領主の協力をとりつけたが、最も広大な領地を持つ東の領主の協力が得られずに計画が進んでいないとのことだった。

 東の領主は禍つ人だと噂されているらしい。圧政のなか、領地の疲弊はなく領民はそこそこの暮らしを維持できているというのだ。その理由として挙げられているのが、今まで試されたことのない農法や作物の収穫、鉱物の発見などだそうだ。東の領主は着々と財を増やし、その知識を活かして国を乗っ取るつもりだと密かに囁かれているらしい。


「禍つ人?」

「あぁ、カレンドア伯爵はそう噂されている。しかも、この国と異世界とを自由に行き来することができるそうだ」

「自由に!?」

「まぁ、すべて未確認だがな。だが、カレンドア伯爵の協力は取り付けたい。キール、カレンドア領に行ってくれないか?」

「俺が」

「そう、ミオリと半年過ごしたお前なら、カレンドア伯爵が本当に禍つ人か見抜けるだろう。それに、伯爵が本当に禍つ人なら、ミオリの存在は無視できないはずだ。同胞である彼女に会いたいと思うだろう。ぜひ、伯爵を離宮に連れてきてほしい」

 ディーンが期待のこもった瞳を俺にむける。


「せっかく、ミオリに追いついたのに・・・・」

 思わず心の内が漏れた。体調を崩している彼女にこのままなにも言えずに出発なんてつらいじゃないか。せめて彼女の体調が落ち着くまで傍にいたい。

「だがな、キール。異世界を自由に行き来できるなんて問題じゃないか。それを知ったらミオリはどう思うだろう」

 ディーンの言葉が心に刺さる。ミオリはニホンに大好きな家族や友人がいるといって還りたがっていた。国に還れると知ったら戻ってしまうだろうか。離したくない、でも彼女の悲しむ姿は見たくない。

「きちんと確かめたほうがいいね」

「そうだな・・・・」

「そうとなれば、すぐに出発した方がいい。東の都までは7日かかるからな」

「5日だ。5日で行って10日目には帰ってくる・・・・。出発前に少しでいいからミオリの顔を見せてくれないか」



 ディーンがミオリの部屋をノックすると侍女が扉を開けた。背後にいる俺を見て驚いている。まぁ、そうだろう。左遷された宮廷騎士団の副団長がこんな時間にここにいるんだからな。

「ミオリはどう?」

「まだ、少し熱が高いようです」

「少しいいかな。彼はトリア村でミオリを保護したんだ」

 侍女はディーンと俺を部屋に招き入れた。



 やっと、やっと会えた。俺はベットサイドに屈みこんだ。抱きしめたい、強く抱きしめたいが、彼女の眠りを妨げてしまうため、我慢して頭を撫でるにとどめる。

「う・・・ん。隊長さん・・・・」

 俺の手がミオリの頭に触れると、彼女は小さく声を発し薄く目を開いたが、その焦点は合っていない。熱のため朦朧としているのだろう。俺は彼女の手をとった。小さな手はとても熱い。

「大丈夫だ。ミオリ、傍にいる」

 ミオリに声かけると、背後でディーンの息をのむのがわかった。俺が女性に優しく接しているのをみて驚いているのだろう。記憶にある限り、ディーンの前で女性にこんな風に声かけたり、触れたりしたことはなかった。



「キール、そろそろ出発しないと」

 ディーンがしびれを切らしたのか出発を促してくる。あぁ、離れたくないのに。

「わかった」

 ゆっくりと立ち上り、歩き出そうとしたがコートがなにかに引かれる感覚を受け立ち止まった。ふと、コートの裾を見て身体が動かなくなる。


「ディーン。やっぱり行けない」

「はっ?」

 ミオリの手が無意識ながらも俺のコートの裾を握っているのだ。

「こんなに可愛いミオリを残して行けない」

 行けるわけないじゃないか。俺が真顔で言うとディーンは思い切り呆れた表情を浮かべた。

「ミオリは私がちゃんと守るから大丈夫だ」

 それはそうだろうが。だめだ、可愛すぎて残してなんかいけない。俺はミオリの手を握った。

「いつからこんなになったんだ。多くの令嬢の秋波をかわしてきたお前が」

 ディーンがため息をついている。

「特別なんだ。可愛くて仕方ない。ずっと一緒にいたい」

「あぁ、なんてことだ。冷静沈着、職務に忠実な国一番の騎士はどこに行った」

 ディーンは頭を抱えて溜め息をついている。



「だがな、キールよ。カレンドア伯爵の協力が得られなければ国はこのままだ。ミオリも禍つ人のままだぞ。人々に忌避され続けるだろう。例え、お前が盾になったとしても彼女の立場はなにも変わらない」

「禍つ人のまま・・・・。それは嫌だな。ミオリも悲しむ」

「そうだろう。少しの間じゃないか。カレンドア伯爵と共に帰って来られれば、国を変えることができる。そうなればミオリは禍つ人なんて呼ばれることもなくなるんだぞ」

「そうだな」

 うまく言いくるめられている気がしないでもないが・・・・。仕方がない。

 俺はミオリの手をコートから外し、額に軽くキスをして立ち上がった。

 早く、1日でも早く帰ってこよう。


 

 退室すべく扉に向かうと、侍女が鏡台の隅に置かれていた小袋に目にとめた。

「これってグラン・バーズのですよね。しかも赤いリボン。一体誰がこれを」

「リボンの色が気になるのか」

 俺は侍女が指している菓子の小袋を見た。なぜかディーンが息を詰める。

「えぇ、このお店はリボンの色にメッセージを込めているんです。赤は『あなたが好き』、黄色は『感謝』、緑色は・・・」

「ちょっと待った。これは『赤』だな」

 つい、低い声が出た。誰がミオリに『好き』などと。俺が考えこむと侍女が震えているのが見えた。何だ、急に冷え込んだのか?

「まぁまぁ、いいだろう。好きったって幅が広いしな」

 ディーンが上ずった声で答える。

「ディーン、お前。なにか知ってるな」

「いや知らない。本当に知らない。まったく知らない。ぜっ、全然知らない」

「あぁ、そっそういえば、いっ今思い出ました。リッチーの子どものハンナがミオリのこと大好きで、この間お土産に持ってきてたんだ。そうだった。そうだった」

 侍女が芝居がかってた言い訳をしてくる。

「あーっ、ハンナか。そういえば来ていたな」

「そっ、そうですよ」

 ディーンと侍女の笑顔は引きつっている。侍女はともかく、ディーンが何かを知っているのは明白だ。

「まぁ、いい。東の都に行くのが先だ。ディーン、俺はお前がミオリの傍にいるだけでも嫌なんだ。この意味がわかるな。それと、腹芸の一つもきちんとできるようにしておけ。これから狸どもと渡り合うんだからな」

「はい・・・・」

 ディーンは項垂れて返事した。

 若干、しおらしくなってしまった親友に別れを告げ、東の都に向かうべく離宮を後にした。

 一日でも早く帰ってこなくては。





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