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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第2章
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第10話

読んで頂きありがとうございます。

なんとか頑張って書き続けています。これからもよろしくお願いします。


隊長さんがやっと王都に入りました。


 やっと王都に入った。

 ミオリの動向については、あれきり知ることができなかった。

 馬車での長旅はつらかっただろう。きっと初めてのことばかりで身体にひびいたはずだ。

 無事でいるだろうか。顔が見たい。声が聴きたい。

 9日間、ずっとその想いだけを抱き走り続けてきた。



 人目につくのを避けるため、日が沈み周囲が闇に包まれた頃に実家の門を叩いた。

 家に戻るのは3年振りだ。


「キール様!」

 執事が俺を確認すると驚き慌てて中に招き入れた。

「セバス、久しぶりだな。息災だったか」

「えぇ、えぇ、もちろんです。みなさん、お変わりなくお過ごしですよ。今、旦那様をお呼びして参ります」

「あぁ、頼む」

 俺は客間のソファに身を沈めた。

 旅の疲れが溜まっている身体にこの柔らかさと、暖炉の温かさが眠気を誘ってくる。瞼が重いが、ミオリがどうなったか確かめねばならない。



「帰ったか、愚息よ」

 3年ぶりに見る父の頭には白いものが多くなり顔の皺も増えていた。姿勢も若干だが前屈みになったようにみえる。あの王の元で苦労しているのだろう。

「王都に戻るにはまだ早いと思いましたが、気になる懸案があり帰って参りました」

「禍つ人のことか」

「はい」

「あの娘を匿っていたようだな。トレイアに嫌味を言われたぞ」

 父は溜め息をついた。トレイア大神官のことだ、執拗に父を責めたのだろう。

「申し訳けありません。しかし、彼女には禍つ人と言われるような悪しき力はありません。ただの小さな迷い人です。国に厄災など起こせるわけなどないのです」

「だろうな。王の前で震えておったからな」

「震えて・・・・。ミオリは! ミオリは無事なのですか」

 父の言葉に冷静を失う。国王が彼女に何を言ったのか、何をしようとしたのか。


「まぁ、そう怖い顔をするな。あの娘なら、離宮に幽閉扱いとした」

「離宮に」

 ディーン皇子と共にか。

「仕方がないだろう。王は殺すといって聞かなかったのだからな」

 殺す・・・・? ミオリが殺されてしまう可能性も考えてはいたが、禍つ人としての知識を調べてからだと思っていた。こんな早々に利用価値がないと判断されるとは。父がその場にいなかったらミオリは殺されていたのか。

「ありがとうございます」

 俺は安堵のため息とともに父に礼を言った。

「ほう、なぜ礼を」

 父が訝しんで聞いてくる。

 しかし、その顔は楽しそうだ。おそらく、勘づいているはずだろうに、言わせるつもりか。



「あなた、理由を聞くなんて野暮なことなさらないで下さい」

 扉が開いて、母が入って来た。

 昔から美しい人ではあったが、3年ぶりに会うとやはり年を重ねているのが見てとれる。

「そうそう、あの辺境からこんなに短期間でその娘のために戻ってきているのよ。キール頑張ったわね」

「姉さん」

 姉は3人目の子を出産するために実家に戻ってきていると、だいぶ前に砦に手紙が届いていた。

「リリアのお友達がおじさんの結婚式に出席したのをとても羨ましがってたの。キールおじさんも早く結婚しないかなって言ってたのよ。良かったわぁ」

「そうね、そうなるわね。まぁ、どうしましょう。ドレスはどこの店に頼めばいいかしら」

 姉の言葉に母が急にそわそわし始めた。頭の中はすでに俺の結婚のことでいっぱいになっているようだ。

 ミオリにはまだ求婚していないし、今はそれどころじゃないんだが。

「母様、落ち着いて。とりあえず、評判の店の情報を集めなくちゃ」

「そう、そうね」

 家の女性たちには、国の状況よりも身近な出来事の方が大事らしい。俺は溜め息をついた。

 ミオリは皇子のところに居るとはいえ、まだ国王の手の内にあるのだ。



「禍つ人をトラウト家の嫁にするのか」

 父が若干眉根を寄せている。

「あら、禍つ人なんて信じてないくせに。キールがやっと選んだ娘なのよ。この機会を逃したら、この子は絶対に結婚できないわよ」

「父様、宰相なんだから、あんな国王何とかして迷い人が平穏に暮らせる国にしたらいいのよ。勿論、民もよ。民の暮らしが充実しないとラインドア王国は沈むわ」

 母と姉が父に詰め寄った。

 我が家は母と姉、妹2人という女系家族だ。

 特に母との姉の発言力は強く、この2人に組まれたら父と俺などぐうの音も出ない。

「わかった、わかった。儂とて手をこまねいているわけではないわ。まったく」

 父は2人に向かって嘆息した。


「しかしまぁ、あんな可愛い娘が我が家に来てくれるのなら、もっと頑張ってみるのも悪くないな」

 父は顎を撫でながら俺を見た。瞳の奥には楽し気な感情と、国の変革にむけての熱い感情が踊っているように見える。

「あら、可愛い娘なの?」

 母が意外そうに問う。

「小柄で、クリクリした黒い瞳が愛らしい、子栗鼠のような娘だったな」

「まぁ、子栗鼠! キールったら綺麗な娘より、可愛い娘が好みだったのね。どうりでわたくしが用意した縁談が無駄に終わったわけだわ。わたくし、あなたの好みがわかっていなかったのね」

 母が項垂れると姉がその肩を抱いた。

「母様、終わったことはもういいじゃない。あぁ、子栗鼠! 早く、会いたいわ。離宮に行ってみようかしら」

「あら、サリーずるいわ。わたくしも」

 母よ、姉よ。止めてくれ。父が国の正常化に向けて水面下で様々に工作しているだろうに無駄にしないでくれ。


「お前たち、私の立場も考えてくれんかね。子栗鼠のことはキールに任せて、紹介されるまで我慢しようじゃないか」

「わかったわ。でもずるいわ、あなたばかり。そうだ、あなた姿絵は描けない?」

「おいおい、儂が絵を描けないのは知っているだろう」

「そうよ。母様。きっと得体のしれない動物が描きあがるはずよ」

 姉の言葉にみんなで吹き出す。

 問題はまだまだある。ミオリをこの腕に取り戻せるのもまだ先だ。

 なのにこの家族は強くて優しい。


 3年前の事件の時もそうだった。

 俺がディーン皇子と共に国王に諫言した後、皇子は幽閉、俺は左遷となった。

 諫言は俺単独の行動でトラウト家が絡んでいないことは証明されたが、トラウト家の取り潰しは避けられないと思われた。しかし、父の宰相としての能力が失われることを議会が良しとせず、トラウト家は存続し父は宰相職を続けている。

 母や姉、妹たちも王都や王城で嫌な思いをしただろうに一言も俺を責めることはなかった。


 ふと、ここにミオリがいたらと思う。

 本当の家族には及ばないかもしれないが、この家族ならミオリに寄り添えるのではないかと思った。


 ミオリがこの国で幸せに暮らせるようにするために、俺にはまだしなければならないことがある。

「キール、皇子の元に行け」

 父が命じ、俺は頷いて暖かい部屋を後にした。

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