第9話
読んで頂きありがとうございます。
視点が様々に変更して読みにくいと思いますが、お付き合い下さると嬉しいです。
「ごほっ」咳が出て目覚めた。
あーっ、喉が痛い。身体も熱っぽいな。
昨日の夜、寒かったから風邪ひいたかな。
それでも、重い身体をノロノロと動かして、なんとか身支度して厨房に向かった。
「ミオリ、顔が真っ赤よ」
ニナさんが慌てて近づいてきて、額に手を当ててくれる。ニナさんの手が冷たくて気持ちいい。熱も上がってきたのかな。困ったなぁ。ここには風邪薬なんてないだろうし。私、病院の薬じゃないと治らないと思うんだけど。
「うわっ、熱い。熱があるわよ。大丈夫?」
「うーん。ちょっとつらいです。頭もガンガンしてきました」
なんだか、立ってるのもつらい。
「今日は、休んでな」「皇子には言っておくわ」
リッチーさんとニナさんが言ってくれる。言葉に甘えて部屋に戻ることにした。
私の部屋は1階の角部屋。南に面してて日当たりがいい。禍つ人がもらっていい部屋なのかなとも思ったけど、庭に面して明るくてきれいだし、他にも部屋はいっぱいあるから自由に使わせてもらってる。
寝衣に着替えてまだぬくもりのあるベットにもぐりこんだ。
寒気がしてきた。熱がもっと上がるのかな。休んでれば治るかな? 薬があれば飲みたいな。
ここ数週間の疲れもあるんだろうな。身体の抵抗力も弱ってたかも。
トリア村に帰りたいな。キールさんに、みんなに会いたい。キールさんの顔が、ニィナの、おばさんの顔が浮かぶ。帰りたい。帰りたい。還れるのなら日本にだって帰りたい。
涙が溢れて止まらない。
☆
「皇子、ミオリは熱を出してしまいましたので、今日は休みを頂いております」
朝食の給仕にミオリが見当たらないので、ニナを問うように見つめるとそんな答えが返って来た。
昨日は寒かったし、この国の冬は初めてだろう。
ラインドアは大陸の中央に位置しているから夏は強烈に暑く、冬は厳しい寒さにさらされる。ミオリにとっては、慣れない環境だ体調も崩しやすいだろう。
「ミオリのところに案内を」
私は立ち上がって、ニナに言葉をかけた。しかし、返答がない。
訝しんでニナを見ると、彼女は目を丸くして私を見つめている。
そういえば、彼女の前で言葉を発したのが初めてだということに気付いて苦笑する。
「ミオリから聞いているのだろう。私が正気だと」
「はっ、はい」
ニナの声は裏返っている。扉の前では朝食を持ってきたリッチーが口を開けて呆然としているのが目に入った。2人とも驚きすぎだ。思わず声を出して笑ってしまう。
この2人は少し勘の鈍いところがあるが口は堅く、勤勉で信頼がおける。そうでない者は早々に出ていくように仕向け続けた。
「二人とも私が正気だということは漏らさないでほしい」
「はっ、はい」
2人の声が重なる。
「まだ、時間がほしい」
「はい」
「あの、皇子。毒の件、今までありがとうございました」
リッチーが礼を言うと、ニナも深々と頭を下げた。
「なに、たいしたことはない。私には多少耐性があるが、お前たちが口にすればただでは済まないはずだったからな。さぁ、ニナ案内を頼む」
ミオリは眠っていた。
呼吸は少し早く、触れた額はとても熱かった。
頬には涙の伝った跡が乾いてる。可哀想に。
「薬が必要だな。ニナ、王城の薬務局に信頼できる者がいる。手紙を書くので薬をもらってきてほしい」
「はっ、はい。でも、私は日中ここから出たことがありません。王城に向かっても大丈夫でしょうか?」
ニナは不安気な表情を浮かべた。
「以前、窓の修繕の依頼に行っただろう。離宮のどこかを壊してまた依頼しに行けばいい」
「そうですね! そうすれば怪しまれませんね。じゃあ、早速」
ニナは慌てて部屋を出て行った。
すぐに隣の部屋の窓が割れる音がする。
ミオリはその音にも目覚めず寝入っている。
「もう少しだミオリ。この国は変わる。村にも帰れるぞ」
私はミオリの頭をそっと撫でて声かけた。
「ん? 帰れるのか。私はあいつに手伝ってほしいしな・・・・。それにしても、遅いだろ」
私はミオリの肩からずれた掛物を掛けなおして部屋を出た。
☆
「お前は離宮のニナじゃなかったか。どうしたこんな時間に」
「トレイア様・・・・」
私が王城の薬務局を目指しているとトレイア大神官に声をかけられた。
たっ、大変。薬を取りに行くのがばれたら、皇子のこともばれちゃう。
ちょっと遠回りだけど先に修繕部に向かおう。
「離宮の窓ガラスが割れてしまいましたので修繕の依頼に参りました」
「皇子が暴れたのか」
トレイア様の眼が冷たく光っている。
「はい・・・・」
私は、いかにも皇子が割りましたというように溜め息をついて返事した。
皇子、ごめんなさい。
「まったく、気狂いが。お前も大変だな」
トレイア様は吐き捨てるように言って、王城の中枢部に向かっていく。
『なんにも知らないくせに』心の中では舌を出して、黙って頭を下げたまま彼を見送った。
「キャーッ、トレイア様よ」
「素敵ねぇ」「本当」
「マリアンヌ様との御成婚のお式も楽しみだわ。2人ともお綺麗ですもの」
廊下の隅で侍女たちがこそこそ話しているのが聞こえた。
その中の一人が私に声をかけてくる。先日離宮を辞したアリアだ。
「あら、ニナ。相変わらず気狂い皇子のお世話」
「えぇ」
「私は父のとりなしで王城勤務に戻してもらえたの。あなたは大変ねぇ」
侍女たちがクスクスと笑っている。
「トレイア様がマリアンヌ様と御結婚なさるんですか」
「そうよ。大神官籍を捨てて。素敵よね」
アリアはうっとりしてるけど、私はトレイア様のお腹の中の黒さに辟易した。
マリアンヌ様はディーン皇子の一つ年上の姉、つまり国王の第一皇女で今のところ皇位継承権の第一位となっている。トレイア様は何を手に入れようとしているのだろう。
「残念ね。あなたはお式を見られないのね。あの皇子のお世話ですものね。私はあんな恐ろしい離宮には二度と行きたくないわ。あんな所で働けるあなたは偉いわ」
アリアは周囲の侍女たちと失笑しながら去っていく。
ディーン皇子はどれだけ異常だと思われているのだろう。まったくのお芝居なのに。
今朝なんか声といい、瞳といいあまりに理知的で見とれてしまったくらいなのに。
異常を装っている時との落差が激しすぎるわ。あの人。
私は溜め息をついてとりあえず修繕部に向かった。




