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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第1章
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第2話

ブックマーク登録ありがとうございます。

なかなかうまく書けませんが頑張りたいと思います。

 翌日、副隊長のオレムを伴い、少女の事情聴取のために金色亭を訪れた。


 昨日の夜遅く、少女を匿うことを決めた俺たちは、その身柄を金色亭に運び込んでいた。

 少女には、金色亭の宿の一室が与えられていた。

 ちょうど俺たちが訪問した時、少女は宿の2階から食堂に降りてくるところだった。

 少女は、ヤール夫妻の三女リィナに手をひかれ不安げな表情を浮かべていたが、俺たちに気づくと目を見開き、口の端に僅かに笑みを浮かべた。


「隊長さん! この子ミオリっていうんだって! 15歳だって! 小さいから、てっきり私と同じ13歳くらいだと思ってた! ねっ、隊長さんもそう思ったでしょ。お母さんもびっくりしたみたい」

 リィナが、早口でまくしたてる。母親に似てよく口が回る。俺は苦笑した。


 それにしても、15歳だったとは。リィナのいう通り、少女は年齢相応には見えなかった。

 身長が低く、細身で華奢、そして顔立ちが幼い。黒く大きな瞳はクリクリとよく動き、彼女の心情を映し出す。髪はよく手入れされているのか、艶やかで肩の下で切り揃えられている。唇と頬の血色は良く、ピンク色が白い肌に映えて見える。手指は細く小さく、荒れてもいない。禍つ人の世界では上流階級に位置するのだろうか。


 衣服は昨日の珍しい形状のものから、村の娘が着るようなワンピースに変化していた。薄いブルーのワンピースは少女にとても似合っていた。瞳の色さえ気にしなければ、ラインドア国の民と何一つ変わりはなかった。


「ミオリというのか。私はラインドア王国国境警備隊長のキール・トラウト、こちらは副隊長のゼノン・オレムだ。少し話を聞かせてほしい」

 少女に話しかけると、一瞬不安げな表情を浮かべたが、すくに口を引き結び、俺を見上げて頷いた。


「ヤール、女将さん、少し場所を借りてもいいかな」

「勿論だよ。今日はお客さんがいなくてよかったね。あんた」

 アンが夫のダン・ヤールに話しかけると、ダンは眉を下げて苦笑した。


「まずは、名前を聞かせてほしい」

 食堂のテーブルに着き事情聴取を開始した。オレムが内容を記録し始める。

「はい。美織です。佐川美織といいます」

 少女は、緊張しつつ透明感のある声で返答する。


「年は、本当に15歳なのか」

「はい、中学3年生です」

「チュウガクとは?」

「あっ、そうか。そんなのないのかな」

 彼女は呟き、逆に質問してきた。

「あの、ここは日本とか地球のどこかじゃないんですか」

「ニホン?チキュウ?違うな。ここは、ラインドア王国とアルツハイ王国の国境にあるトリア村だ」

「ラインドア王国・・・・アルツハイ」

 少女は黙り込み、俯いた。

 沈黙がその場を支配する。ヤール家族がこちらを伺っている様子がみられた。



「どうしてだか、わからないけど、私は違う世界からこっちにきてしまったみたいです」

 暫くして、ミオリは顔をあげ、泣くまいと決意した表情で話し始めた。


「塾の帰り道で、道路が突然光ったんです。その光に包まれて・・・その後のことは覚えてません。私、帰りたいです。自分の世界に大好きな家族や友達がいるんです。帰り方。知りませんか。お願いです。教えてください」

 ミオリは立ち上がり、俺たちに頭を下げた。


 俺とオレムは困惑する。この国では禍つ人といわれる異世界からの迷い人。彼らが自分達の世界に帰還した前例はない。彼らの末路は悲惨なものだ。帰れるものなら、早々に帰っていただろう。勿論、俺たちに彼女を還す術はない。


「ミオリ」

 アン・ヤールがお茶をテーブルに運んで来た。ミオリは充血した目を彼女に向けた。


「私たちには、あなたを還す方法はわからない。でもね、方法はあるかも知れないよ。例えば、あなたが現れた場所になにか変化が現れて、また移動できるかもしれない。例えば、どこかの場所に光輝く所が現れるかもしれない。確率は低いかもしれないけどね。それを、この村で待つっていうのはどうかな」

 アンは、ミオリの肩を抱いてゆっくり話しかけた。


「おばさん・・・」

 ミオリは、アンにしがみついて声を殺すように泣き始めた。


「隊長さん、今日のところはお引き取り願っていいかな。この子を、これ以上不安にさせたくないからね」

 アンは俺に視線を向ける。


「勿論。俺たちも彼女を不安にさせたくて来ているわけじゃない」

 俺とオレムは席を立った。


「ミオリ、俺たち警備隊員は君を守ろう。ニホンとやらに還るまで不安なく過ごせるようにしたい」

「また、明日来てもいいかな」


 俺とオレムは交互に声をかけた。ミオリはアンにしがみついたまま頷いた。

 それを確認した俺たちは帰途についた。

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