第5話
あと少しで王都に着くらしい。
段々と建物が多くなり、家々の間隔が狭くなってきている。
ここまでいろんな村や町を見てきたけど、トリア村みたいに豊かできれいなところはなかった。
王都に近くなれば近くなるほど、村や町は荒れてきているように感じた。
そんな様子を見るたびに、あのおばぁさんの言っていた「搾取」って言葉を思い出した。
王都に入ったって、スレイさんが教えてくれたので馬車の小窓の布を少し開けて外を見てみた。
街は首都だけあって整ってるけど、どこか活気のなさを感じた。
街行く人もそんなに多い感じはない。
「テレビみたい・・・・」
旅行番組で見た西洋のような街並みと建物に思わず呟く。
改めて自分が異世界にいるんだということを突き付けられる。
「あまり顔を出すな」
ぼんやりしているとスレイさんが馬車に近寄ってきて言った。
「ごめんなさい」
「まぁ、迷い人にしたら珍しい物ばかりなんだろうがな」
スレイさんの苦笑が聞こえてくる。
「ぼんやりしている場合じゃないぞ。いいか、王にあったら何を言うか考えておけ、圧倒されてなにも言わないままで終わるんじゃないぞ」
忠告もしてくれる。そうだよ。国王に私には力なんかない、この国に厄災なんて起こせないってことを伝えなくちゃ。言うこと言って、わかってもらって絶対トリア村に帰らなくちゃ。
馬車の動きが止まった。
お城に着いたみたい。
「トレイアがお前を王の元まで連れていく。俺はここまでだ。また、会おう」
スレイさんが声をかけてくれた。
またっていつ? 言葉の意味を問おうと小窓の布を上げたけどスレイさんの姿はもうなかった。また、会えるの?
「降りろ」
トレイア大神官だ。いよいよこれから国王に会うんだ。すごく怖いけど、頑張らなくちゃ。殺されるのは絶対に嫌だ。私は両手を握りしめ馬車を降りた。
ランプしか灯っていない暗くて長い廊下をトレイア大神官の後について歩く。
お城の中は町や村が寂しかったのに対してとても豪華だった。廊下には白い石がはめ込まれてピカピカに磨かれている。謁見室が近づくと、廊下の石は毛足の長い絨毯に変わって、何度か足を取られて転びそうになった。通路の両側には大きな絵画や壺が置かれている。あまりのキラキラしさに目が痛くなる。これらを売ったら、どれだけの人が搾取されずに済むんだろう。私は壺の前で立ちどまってしまった。
「何をしている」
トレイア大神官に睨まれて、神殿騎士に背中を押された。
謁見室に入ると、奥の方に三段くらいの階段があって、その上に国王の座る椅子が置かれていた。玉座っていうのかな。椅子には色々な装飾がされて光っていた。
私は階段の下で両膝をつかされて頭を下げるよう指示された。
暫くすると重い衣擦れの音とともに国王が入ってきて玉座に座った気配がした。
「顔を上げさせろ」
すごく冷たい感情のない声が命じる。
お城の兵隊が私の首に長い棒を当てて顔を上げさせた。棒が喉に食いこんで痛い。
苦痛を浮かべて国王の方を見ると、彼はなんの感情も持たない様子で私を見ていた。
国王は白髪まじりの灰色の髪に口の周りに髭を生やしている。瞳は明るい碧色できれいだけどとても鋭くて怖い。今まで、こんな射抜かれるように見られたことなんてなかった。すごく冷たい眼。怖い、すごく怖い。手の平に汗が滲む、身体が震える。
「子どもではないか。本当に禍つ人なのか」
国王がトレイア大神官に聞いた。
「間違いありません。この黒い瞳とトリア村に出現した時期が証明しています」
トレイア大神官の声が謁見室に響く。
「なにか力を発したか。わしに有益な知識は持っているのか」
「連行期間の7日間にはみられませんでした。知識も特にないようです」
トレイア大神官の言葉の後、暫く沈黙が続いた。
「殺せ」
国王はなんの感情も含まない声で、まるで害虫を殺すように簡単に命じた。
やだっ、まだ死にたくない。帰るんだ、トリア村に帰るの! なにか、なにか言わなくちゃ。
あぁダメだ、頭の中が真っ白。言おうとしてた言葉が消えちゃった。
「おっ、王様、私はなんの力も持たない子供です。この国に厄災なんて起こせ・・・」
私が国王に近づこうとすると、兵隊が喉にあててる棒に力を込めてそれを防ごうとする。
痛い! 喉が締め付けられて声が出ない。苦しいよ。
「殺せ」
国王は私の言葉なんて聞こうともしない。やっぱり殺されちゃうの。村には帰れないの。頬に涙が伝う。
「王よ。見れば子どもでも女ではないですか。のちに使い道があるのでは」
謁見室に静かだけどよく透る声が響き渡った。
国王の後ろに控えていた上位の役人みたいなおじさんの言葉だった。
「ほう。宰相よ。わしに意見する気か」
国王は、宰相って呼ばれたあの役人を睨むようにして見てる。
「滅相もない。ただ短慮せずに、使えるものは最後まで使い切ったほうが良いのでは」
宰相はゆがんだ笑顔を浮かべた。
「では、どうする」
国王は溜め息をついて、どうでもいいことのように宰相に聞いている。
「離宮に幽閉しては?」
「離宮。気狂い皇子と共にか。それはいい」
宰相の答えを聞いて、国王は鼻で笑った。
「離宮に連れていけ」
国王はトレイア大神官に命じた。
「しかし、こいつは禍つ人です。即刻斬首すべき・・・・」
「離宮だ」
トレイア大神官が言葉を続けようとしたけど国王はそれを遮った。大神官は言葉が続けられなくなって、一瞬悔しそうな表情を浮かべたけど黙って下を向いた。
国王は暗い笑いを浮かべて玉座から立ち、こちらを一瞥もせずに退出していった。
宰相は私に一瞬だけ視線を向けた後、国王に続いて退室するために身体を翻した。
彼が顔を進行方向に向けた時、少し口の端が上がってるように見えた。笑ってるの? なんだかその顔に見覚えがあるような気がした。
とりあえず、殺されずに済んだけど気狂い皇子と幽閉って?
なんかすごく嫌な感じ。殺されたほうがましだってこと?
放心する私を両側の兵隊が腕を取って立たせた。
「殺してしまえばいいものを。宰相も余計な事を」
トレイア大神官が私を睨んで憎々しげに言った。




