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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第2章
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第4話

読んで頂きありがとうございます。

頑張って続けていきたいと思います。よろしくお願いします。


今回はミオリの後を追う隊長さんのお話です。

 もう何日ろくに眠っていないだろう。気ばかり焦って落ち着かない。

 ミオリが泣いているような気がして心がざわつく。痛い目に合っていないだろうか、食事は摂れているだろうか、心配ばかりが募る。


 野宿が2日ばかり続き身体が重い。

 今日は中規模の町に着いたので宿を取り、無理にでも睡眠をとろうと考えた。


 宿の主人に馬の世話を頼む。

 ラインも走り通しで疲れているはずだ。休ませてやらなくては。


 食欲はないが、食わなければ体力がもたない。

 少しの料理と大麦酒を頼んで席についた。酒の力を借りて眠ろう。

 嘆息した時、年寄りが大声で話しているのが聞こえた。


「で、その娘はあたしに覆いかぶさって言ったのさ。自分は禍つ人だから、殺される時に王の死を願うってね。切れるもんなら切ってみなって感じだったよ。あたしゃ感心したね。自分の命をかけて、こんな年寄りを救ってくれたんだからね。あの娘は禍つ人なんかじゃないよ。神の使いだね。きっと国王を倒してこの国を救ってくれるよ」

 俺は老婆が話す内容に驚き近づいていった。

 老婆の周囲にいる人々は困惑して苦笑している。こんなに堂々と国王の批判をしているのだから、無理もない。



「なんだいあんた」

 老婆は俺に気づき、一瞥すると不機嫌そうに顔をしかめた。

 そうもそうだろう。今の俺は髪はぼさぼさで無精ひげだらけ、眼は充血しクマがあるという風貌だ。不審者扱いされても仕方がない。だが、今はそんなことは気にしていられない。


「彼女は、彼女は無事なんですね。顔や体に傷がついていたり、泣いていたり、痩せていたりしていませんでしたか」

 老婆の両腕を掴み、早口で捲し立てるように聞いた。


「ええぃ、あんたなんなんだい」

 老婆が俺の腕を振り払うと、掴まれていた部位が赤くなっている。老婆はそこを擦りながら俺を睨んだ。

「まったく馬鹿力だね」

「すみません。つい・・・・。あの、さっきの話は」

 謝罪しながも、ミオリのことが気になり老婆に問いかける。


「禍つ人なら疲れているようだったけど、傷なんかなかったよ」

 騒ぎを聞きつけた宿の女将も「えぇ、ちゃんと食事も与えられているようでしたね。でもあんまり食べてはいなかったけど」と話しに入ってきた。


「良かった」

 俺は倒れこむように椅子に座り込んだ。

 暗かった心の中に明かりが灯った。彼女に危害が加えられていないことが、無事でいることがこんなにも自分の心を照らすなんて思いもしなかった。


 座り込んで俯いてしまった俺を老婆や女将、周囲の客が見守っている。


「あんた、禍つ人を追ってるのかい」

 老婆が聞いてくる。

「えぇ」

「ふうん、禍つ人は発見されるまで半年の猶予があったはずだね。あんたの元にいたのかい」

「・・・・」

「まぁ、いいや。あたしゃ、あの娘を孫の嫁にって思ってたけど、無理そうだね」

「えぇ、あきらめてください」

 断言すると老婆は苦笑した。あぁ、活力が湧いてくる。力を蓄え早く王都に辿り着かなくては。

「おかみさん、料理の追加をお願いしたい」

 メニューを手に数種の料理を追加注文した。


 老婆はそんな俺をじっと見つめていた。

「あんた、トリア村から来たね。あたしにはトリア村に親戚がいて、1年位前に村に行ったことがあるんだよ。あそこはまだ実り豊かないい村だね。なんでも、砦の隊長が守ってくれているって親戚は言ってたね。どんなからくりを使ってるのか知らないが、真っ当な人間が隊長になってくれて良かったって親戚は喜んでたよ。あたしゃ、その隊長ってのを見たことがあるんだがね」

 老婆の言葉に大麦酒を飲んでいた俺は盛大にむせてしまった。

「そうですか」

 やっとのことで咳き込みから逃れ、言葉を発する。

「あの娘はあんたに救われて良かったね。あんたならあたしも納得できるよ」

 老婆は意味ありげに笑った。


「でも、注意した方がいいね。あの娘は頭は回るけど危険を冒しすぎる。あたしを助けてくれたのは本当に感謝してるけど、間違えたら命はなかったからね」

 老婆はため息を漏らした。

「えぇ、彼女は自分の世界で家族や友人たちと幸せに不自由なく暮らしていたそうです。彼女の世界にも戦争や争いなどはあったそうですが、遠い地域のことで身近には感じられなかったと聞いています。でもこの世界はそれが身近なことだと、もっとこの世界の事情や身の処し方について教えておけばよかった」

 俺は後悔を口にした。トリア村の日々が穏やかだったため勘が鈍ったか。いや、ミオリにそんなことを教えるのが嫌だったのかもしれない。ただ、穏やかに安楽な日々を送ってほしかったのかもしれない。

「まぁ、今更言っても詮無いことだね」

 老婆はいつの間にか俺の向かいで茶を飲んでいる。


「この世界にたった一人ってのはどんな気持ちなんだろうね」

 老婆がポツリとこぼす。

「・・・・」

「周りがいくら親切でも、親兄弟の代わりにゃならないしね。寂しかろうね。やっと馴染んだ村からも離されて。よくあたしをかばう気力があったもんだ。1日も早く追いついてやらなきゃダメだね」

「本当に」

 本当に1日でも早くミオリの無事な姿を確認したい。


「あっ、でも神殿騎士の中に親切なのがいたね」

「神殿騎士にですか」

 思わず聞き返す。神教団の中で禍つ人は忌避されているはずだ。トレイア大神官の息のかかった部隊ならなおさらだろう。

「そうだよ。あの娘の言葉に、大神官もあたしを斬ろうとした騎士も動けなくなったんだ。それをうまく大神官に進言した騎士がいて、あたしは助かったんだよ。神殿騎士はあの娘の見張り役みたいだったね」

「そうですか・・・・」


「神殿騎士の割には大きくて美丈夫だったね」

「美丈夫?」

「あぁ、美丈夫だ。あたしがあと10歳若かったらね・・・・」

 老婆はなにごとかブツブツと呟いている。あまり聞かない方がいいかもしれない。

 ミオリを助けた神殿騎士か。一体、何者なんだ。

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