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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第2章
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第3話

読んで頂きありがとうございます。

時間は少し遡ってミオリが連れ去れた後のトリア村です。

 ミオリが連れ去られてから半日が経った。

 隊長は執務室に籠りまったく出てこない。

 室内でなにをしているのかについては検討がついている。私の読みがあっていればそろそろ出てきてもいい頃だ。準備はしてある。


 あれから、村の中は静まり返っている。

 籠ってしまった隊長に対して、隊員や村人からの批判の声が聞こえている。みんながみんなミオリを取り戻したいと考えていたが、砦や村では神教団には逆らえない。現状を打破できるのは隊長だけだろう。


 私が考えこんでいると、執務室の扉が開き、隊長が強い疲労を顔に滲ませ出てきた。

 いで立ちはやはり私の思った通り旅装だ。

「オレム、ちょっといいか」

 かすれた声で呼ばれる。


「はい、準備はできてます。隊長の馬、ラインの体調も整えておきましたよ。神教団隊は馬を変えて最短で行けますが、隊長は1人ですからね。どうしても王都までは時間がかかってしまいます。保存食は9日日分用意しましたが、追加しますか」

 私の返答を聞いて隊長は驚いたようだった。私をなんだと思ってるんでしょうね。隊長の考えなんてお見通しですよ。

「ありがとう、オレム」

「いいえ、これからが大変ですよ」

「そうだな。だがミオリを取り戻したい。思っていた以上に、ミオリの存在が大きくなっていた。側にいてくれないとダメだ」

「そんなこと、私にはとっくに分かってましたよ」

 私の言葉を聞いて、隊長は苦笑いした。

 

 そして、私に分厚い書類を渡してくる。

「これは、引き継ぎ書だ。オレム、砦を頼む」

「勿論です。安心して下さい。何年、隊長の側で仕事してきたと思ってるんですか。・・・・必ず戻ってきてください。ミオリも一緒に。待っていますからね」

 私の言葉に隊長は静かに頷いた。



 隊長の姿に3年前を思い出す。


 隊長は3年前、王都の宮廷騎士団副団長の職にあったが、第1皇子と共に国王に諫言したことが原因でこの辺境の地に左遷された。

 派手で豪遊好きな国王に神教団がうまく取り入り、神教団の上層部を国政の場に送り込むことに成功した。それから神教団と国王の癒着は進み、国王は神教団を擁護し神殿増設のため国民に増税を課した。神殿は国民に寄進を強要し、それが国王の遊興費となった。当然貴族の腐敗も進み、領地の民から搾取を繰り返している。そんな状態が続けば国は荒れる。

 トリア村は、隊長が守り実り豊かな良い村となっているが、他の町や村は課税と神殿への寄進で成り立たなくなっているところもあると聞いている。


 当時の砦の状況も酷かった。

 国境警備隊の隊長職には貴族の三男が就いていたが、賄賂、不正にまみれ職務放棄状態。砦の評判も悪く、隊員たちもやる気がなく毎日飲んだくれて、どこのゴロツキ部隊かという有り様だった。

 そんな砦を立て直したのはトラウト隊長だ。隊長の就任直後は隊員たちの反発も強く、ほとんどの者が隊長に従うことはなかった。しかし、時間をかけて隊員に関わり、訓練に参加させ鍛錬しフォローを続けることで隊長は徐々に受け入れられるようになった。


 隊員たちと距離を縮めた隊長であったが、私は彼に壁のようなものを感じていた。責任感の強い隊長のことだ国や人が疲弊していく様を目の当たりにして、それを止めることができない自分を責めて律するところがあったのかもしれない。あまり感情を表に出さず、必要以上に人に関わることもなかった。私はそれを寂しく感じていた。

 そんな隊長が、ミオリに出会い変化した。隊長がミオリを抱えて森から戻って来たあの日。あの日から彼の運命は変化したのだろう。隊長が抱えて戻ったのは禍つ人ではない「光」だ。


 ミオリにしても元の世界に還るのは困難だろう。そんな中で、隊長に出会えたことはこれ以上ない幸いだと思われる。私から見ても隊長は、性格良し、顔良し、財力はまぁ今後どうなるかわからないがミオリを養うことは可能だろう。もう十分にお勧め物件だ。私が女だったらミオリに勝負を挑むところだ。

 まぁ、それはともかく禍つ人に力があるとしたら、ミオリはもう隊長を捕らえるということで力を使い果たしてしまったのではないか。私は1人口元を緩めた。



 隊長が腰に剣を携え執務室を出ると、隊員たちとヤール家族がいた。

 隊長が執務室から出てきたと誰かがヤール家族を呼びに行ったのだろう。ヤールたちにとってミオリは家族も同然だから。

 皆、真剣な表情で隊長に目を向けている。

「隊長、俺も」

 ヴァンが言いかけるのを隊長は遮った。

「この砦と村人を守ってくれ。ミオリを追うのは隊長でもなんでもない。ただのキール・トラウトだ」

 隊長は言い切った。


「隊長さん、ミオリを連れて帰ってね」

 リィナが声をかける。

「勿論だ」

 隊長は力強く笑むとラインに跨った。

「あとは頼んだ」

「お帰りをお待ちしてますよ」

 

 ラインの蹄の音が遠ざかる。

 だから、いくら心配だからって最初から飛ばしちゃダメですって。

「副隊長、隊長は大丈夫かな」

 ヴァンがもらす。

「大丈夫ですよ。きっと、きっとミオリと帰ってきますよ。無事を祈りましょう」

 私たちは隊長の去った方を向いて暫く立ち尽くしていた。



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