第11話
「隊長さん・・・・」
ミオリが不安げな瞳を俺に向ける。
「いけませんね。禍つ人が国に現れたのを感じたのは半年前ですよ。あなたは隊長職にありながら報告義務を怠っていたのですね。キール・トラウト国境警備隊長」
王都から来た神官は、口元に笑みを浮かべ、長い銀髪をかきあげた。さらに俺を糾弾する。
「それとも禍つ人に操られでもしましたか。なんでも、文献によると禍つ人には強大な力があるとか・・・・」
神官は金の瞳をミオリに向けた。それを受けミオリは、俺の背後に隠れる。背に触れているミオリの手の震えが伝わってくる。
「寄生されているようですね」
神官の瞳は冷たく光る。
寄生・・なんて言葉だ。禍つ人・・・この国に厄災をもたらす異世界からの迷い人。
しかし、この村での彼女の生活の様子をみていて、彼女がそんなものではないことは十分にわかっている。
「神官殿、彼女は禍つ人ではないと思われます。この村での彼女の様子はとても穏やかで・・・・」
「あなたの見解は必要ありません!」
神官の言葉が、俺をさえぎる。神官のきつい叱責にミオリの手の震えがさらに強くなった。
「まぁ、あなたの処罰は国に任せるとして。禍つ人は王都に連れて行かねばなりません。国に厄災をもたらさないよう監視しなければなりませんからね。国王の判断によっては、厳しい処断がされるかもしれませんが」
神官は、視線を神殿騎士に向けミオリの捕獲を命じた。
ミオリは背後から俺にしがみついた。俺は、抵抗すべく態勢を整える。他の隊員たちもミオリを守るために動こうとした。
「キール・トラウト! 抵抗するなら、この国境警備隊、村人全員処罰の対象となりますよ」
神官の冷たい言葉が室内を支配する。
「村人全員・・・・」
「当たり前です。禍つ人を半年も匿っていたのです。厳重に罰せられるべきです。だが、禍つ人をおとなしく渡すのなら、そのことについては不問にしましょう」
室内がシンとする。
ミオリは禍つ人ではない。厄災なんて起こせるような力なんてない。村人たちに、隊員たちにとても好かれている普通の女の子だ。神官に渡すわけにはいかない。行動を起こすべきなのだが、村人全員の処罰を出されると動けない。神官たちは本気だ。
コツッ。
静まり返った室内に靴音がやけに高く響いた。
「私、王都に行きます」
ミオリが俺の背後から移動し、神官に向き合っていた。青白い顔で、震える両手を胸の前で組んでいる。
「私が行けば、警備隊の人や村の人に罰はないんですね」
彼女は震える声で神官に確認する。
「なかなか、ものわかりがいいですね。では、行くぞ」
神官は、視線で神殿騎士にミオリの拘束を命じた。
騎士がミオリの細い腕をつかむ。わずかに彼女の顔が歪んだ。
騎士が歩き出す直前、ミオリは室内に集まっている隊員、数名の村人、俺を見た。
「今まで、ありがとうございました。この村で過ごすことができて、とても幸せでした。」
こぼれる涙をぬぐうこともできず、騎士につれられていく。
「ミオリ!」
「ミオリちゃん!」
隊員や村人が叫ぶ。
「隊長さん。ありがとう。」
真っ赤に充血した瞳に、無理して浮かべている笑顔を俺にむけた。
瞬間、身体が動く。ミオリを拘束する騎士の腕を引き剥がし、彼女を胸の中に抱え込む。小さな、小さな女の子だ。国を滅ぼす禍つ人などではない。
「キール・トラウト!」
神官が叫んだ。
「村を焼いてもいいんですか」
それを聞いても俺は彼女を離すことができない。腕に力を籠めミオリを囲う。
「隊長さん。だめです。村を焼かせてはだめです。」
腕の中から小さな声がする。
『なによりもお前が大事だ』つぶやくように腕の中に言葉を落とす。
腕の中のミオリがびくっと震えた。次いでふるふるとゆっくり頭を動かした。
「私は嫌。村が焼けてしまうのは嫌です」
彼女はそっと俺の腕を外し、まっすぐに俺を見上げる。
「ありがとう。隊長さんに会えて良かった」
ミオリは俺に抱き着いた。
「ミオリ」
「さっきの言葉で勇気がでました」
彼女はそっとつぶやくと俺から離れ、神官のほうに向かい歩いていった。
今度こそ、彼女は振り返ることもなく退出していった。




