第10話
「隊長、私からのプレゼントはどうでした」
昨日の祭りの警邏報告書に目を通していると、オレムがニヤニヤと変な顔をしながら執務室に入って来た。まったく、どんなことが起こったかおそらく気づいているはずだろうに、この態度はどうしたものか。
「とんだプレゼントだった。あんなに可愛く名前を呼ばれたのは初めてだ。おまけに、好きだと言われた・・・・。俺の気持ちなんて伝えるつもりもなかったのに」
俺はため息とともに吐き出した。
「いいじゃないですか」
オレムは満面の笑みである。おまけに「ミオリが16になるのは、大体半年後ですね」「ああ、式は私が段取りましょう」などと呟き始めた。
「隊長! 俺たち見ちゃいました」
ドアが開いてヴァンたち3人組が、執務室に入って来た。
「お前たち、ドアはノックしろといつも言って・・・・」
オレムの言葉を遮るようにヴァンたちは騒ぐ。
「俺たちのミオリちゃんをぉぉぉぉ」
「ミオリちゃん、モテモテだから振られないように注意して下さいね」
まったく、余計な忠告をしてくれる。ミオリが村の若者に好かれてるのは知っているが、自分の気持ちを自覚した今、振られるようなことにはならないよう全力で彼女に向き合っていくつもりだ。
「大体、隊長は王都に戻ればモテモテでしょうに」
「恨みますよぉぉぉ」
「王都の女性は、殆どが俺の家名に魅かれて寄ってくる。まったく興味ないな」
俺は、手元の報告書に目を戻す。
「言ってくれますねぇ」
「返せぇぇぇ」
「俺たち隊長なら納得です」
3人組は口々に何事か言いながら、ヴァンは引きずられながら業務に戻っていった。一体、なにをしに来たのか。ついつい長めのため息が漏れた。
「口ではあぁ言ってますが、みんな喜んでいるんですよ。隊員たちは隊長のこともミオリのことも好きですからね」
オレムが苦笑とともに返してくる。
報告書に眼を戻しページを捲ると次の一文に釘付けになる。
《旅装だが胸に神教団のペンダントをかけている者を2名見かけた。下級神官が祭りの調査にでも来たのだろうか》
報告書を凝視している俺を不審に思ったのか、オレムが手元を覗き込んだ。
一文をオレムに指し示すと黙ったまま頷いた。
ついに、この村にも神官が現れたか。
ミオリは、アン・ヤールの遠縁の娘ということなっている。隊員たちには森の中で行き倒れになっていた隣国の娘ということにし、それも口外しないよう箝口令を敷いている。
瞳の色はカラコンというもので薄茶色に変えてあるし、ラインドア人の生活習慣や文化を学んでそれに習い生活している。半年もそんな生活をしていれば、迷い人としての異質さは消失しているだろう。大丈夫だ、やり過ごせる。いや、そう思い込もうとしているのか、胸騒ぎが止まらない。
ミオリは今、何をしているだろう。
村には秋の気配が色濃く漂うようになった。木々の葉の先端は赤く色づき、寒さも段々強くなって、朝起きるのがつらくなってきた。でも、働いているとそんなこと感じている暇もない。
今、朝食の給仕がひと段落したところ。まだ、数人のお客さんが食堂に残ってる。
「ミオリ、昨日は隊長さんとどうだったの」
リィナが給仕の合間に聞いてくる。興味津々みたい。
「どうって・・・・」
「好きって言った?」
問いに黙って頷いた。リィナは驚きに目を丸くする。
「答えは、答え! 隊長さんはなんて!」
「・・・・好きだって言ってくれた」
「やったー!!」
リィナが思わず大声を出すと食堂中のお客さんに注目されてしまった。
「リィナ、これ運んどくれ」
おばさんが厨房から顔を出す。仕事、仕事しなくちゃ。リィナはペロリと舌を出して「また後で聞かせてね」って囁いて仕事に戻った。
そんな時、不穏な言葉が耳に入って来た。
「おうよ、王都の名だたる大神官たちが、禍つ人を探してあちこちに出没しているらしい」
「半年前にどこかに現れてるって話だな。なかなか見つからないから、神官たちの威信にかけても探し出すって話だ」
「しかしよう、手掛かりは何にもないんだろう」
「そうだな。変わった色の瞳を持ってるって話だが、どんな瞳なんだか」
心臓の動きが早まる。半年前、変わった色の瞳・・・・?
私がこの世界に来たのは半年前。黒い瞳はこの世界にはないって言ってなかった・・・・。
「あーっ! ミオリ! こっち手伝って!」
私の考え事を遮るかのようにリィナが走ってきて、私の腕を掴んで厨房に移動させる。
「リィナ、禍つ人ってなに。半年前に現れたって、あのお客さんたちが話してて」
「わかんないなぁ。いろんな所を旅してる人たちだから、いろんな噂がごちゃ混ぜになってるんじゃないのかな」
「変わった色の瞳って言ってた」
「へっ、へーっ、赤とか、ピンクとかかな」
なんだか、リィナの様子が変。
この時、私は気が付いていなかった。食堂の隅の2人組が見張るように私を凝視していたことを。
「ミオリ、隊長さんのところにこれ届けてくれないかね」
おばさんからバスケットを渡された。
「隊員さんたちに差し入れなんだよ」
こんなに早く砦に差し入れることなんて初めて。でも、おばさんはすぐに持って行けって。なんだか、焦ってるみたい。私はエプロンを取って、砦に向かった。
村の中央広場を走ると、いつもより馬の数が多くて騒がしかった。
「隊長さん、お届け物です」
私が執務室のドアを開けると、隊長さんはとても驚いたようだった。おばさんからのバスケットを受け取って、中身を確認する。あれっ、手紙が入ってたんだ。
それを読んだ隊長さんは、すぐにオレムさんを呼んだ。
「今すぐ、森に向かう。準備を」
「はい」
オレムさんは慌ただしく出て行った。
なに、なにか変。隊長さんの顔もすごく厳しい。なにが起こってるの。
「ミオリ、今から森に行く。数日間、野営をするかもしれない」
「どうして」
「今は、ゆっくり説明している暇がない」
隊長さんが私の手を取って扉に向かった。
その時、扉が開いて、銀髪のきれいな男の人が入ってきた。
「ミオリあなたは禍つ人ですね」
その人は、とても冷たい金の瞳を私に向けて言った。
禍つ人ってなに。私がそうなの。怖い、怖いよ。
「隊長さん・・・・」
隊長さんに視線を向けると、怖い顔をして男の人を睨んでた。




