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ヒーローライクヒール(リメイク連載中)  作者: 手頃羊
16話:10年に一度の悪夢
87/95

その4・諦めない

[クロノ]

非常にゆっくりだが、レギオンはどんどん近づいてくる。

レギオンの顔の目は全て見開き、この町を捉えている。

クロノ「この辺の海って深いの?」

カンザー「大して深くはない。船が通れるくらいには深さはあるがの。」

クロノ「ってことは割と見た目通りの大きさってわけか。」

ターニア「その見た目通りが凶悪なまでに大きすぎるがな。」

クロノ「ほんとにねぇ…」

周りを見る。

奮起する者。今更になって怯え出す者。平静を保つ者。

色々いる。

クロノ「そういやブラン達は?中央にいるんじゃ?」

カンザー「ふむ…そう言っていたはずだが…」

エリー「みなさんこちらに居たんですね。」

ターニア「エリー!」

エリー「レオは今診療所にいますよ。」

カンザー「診療所?」

エリー「拠点では怪我人を優先したいと。ブランさんのような方は診療所でなんとかして欲しいと。」

クロノ「あぁ、なるほど。」


近くの傭兵達の会話が聞こえてきた。

男A「おい、聞いたか。どうやら今回の討伐隊にハゼット・ローウェルが来てないらしいぞ。」

男B「なんだって⁉︎ハゼットって、あのドラゴンスレイヤーの⁉︎」

男A「あぁ。俺は顔は見たことないが、確からしい。」

男B「嘘だろ⁉︎あの人無しでどうやってレギオンに勝てってんだよ…」

男C「でも今回はレキュリエテの三騎士が来てるって話だ。」

男B「レキュリエテから?あの3人が?前回の討伐隊にはいなかったらしいが…」

男A「前回どころか今まで一度も参加したことがない。第1陣にいなさそうだったしこの第2陣にもいないから…第3陣にいるんだろうが…本当か?」

男C「見たって言ってたやつがいたんだ。アウストールに入ってくのを見たって。」

男B「ドラゴンスレイヤーがいないのは心許ないが、三騎士がいるなら勝てるかもしれんな。」


クロノ「レキュリエテの三騎士って?」

カンザー「東部の北側にレキュリエテという町があっての。そこは年に一度、夏に闘技場での決闘が執り行われておる。腕に自信のある戦士はそこに行き、己の腕を見せつけるのじゃ。三騎士というのはその闘技大会を指揮している3人の騎士のことじゃ。弓を巧みに操る緑の老兵。魔術に長けた青の青年。そしてその顔を誰も見たことがない紅の剣士。闘技大会においてこの3人を超えた者は未だおらず、と言われる程の実力じゃ。」

クロノ「カンザーさんは行ったことあるの?」

カンザー「あぁ。昔は毎年参加していたのじゃが、毎度3回戦止まりじゃ。最近はレキュリエテに向かうのすら面倒になってしまって行ってないのぉ。」

クロノ「闘技大会か…。」

カンザー「興味あるかの?」

クロノ「ちょっとあるかな。楽しそう。」

カンザー「まぁ、滾ることは確かじゃ。参加はしなくても、一度見るだけでも価値はあると思うぞ。」


次第に浜が騒がしくなる。

「なんだなんだ⁉︎」

「まさか、戦闘が始まったのか⁉︎」

町の中心からでもレギオンの上半身は見える。

上半身というか、上半分という意味だが。

地面から炎やら氷やら光やらがレギオンの体を襲っている。

レギオンが片手で地面を掬うように動かす。

その手を持ち上げる。

ターニア「なんだ…?」

手をよく見てみると…

レーニャ「人…?人を掴んでいる…?」

クロノ「何を…」

レギオンはその手を1つの顔の上に持ってくると、手を開いた。

掴まれていた人々がその顔の口の中にボロボロと落ちていく。

驚きのあまり、場にいる全員が黙り込む。

レギオンの鳴き声以外音が聞こえないということは、みんなこの光景を見て唖然としているということだろう。

クロノ「人を…食った…?」


「うわああああああああああああああ‼︎‼︎」

1人が叫び一目散に逃げる。

それにつられて数人がそれを追うように逃げていく。

辺りは一気に騒がしくなった。

「人を食うだなんて‼︎こんなの聞いてねぇぞ‼︎」

「おい‼︎逃げるなよ‼︎」

「あんなのに食われたくねぇ‼︎」

自分が見える範囲には、この光景を見て士気が上がったというような奴はいない。

クロノ「レギオンってこんなやつだったの?」

カンザー「前回も前々回も…やつは人を食っていなかった…あんなことをするやつではなかった…あんな…恐ろしい化け物だとは…」

カンザーですらこの状況に驚きを隠せないようだ。

レーニャは足が震えるほど怯え、ターニアは手を握りしめている。逃げようとしている足を抑えているようにも見える。

クロノ「みんな戦意喪失状態かよ…。キツイぞおい…。」

エリー「クロノさんは怖くないんですか…?」

俺は…

クロノ「正直怖い。最初の1人目に紛れて逃げるのもアリかなって思ったくらいな。でも、この状況で怖い怖いって言って戦意を失くすのは非常にマズい。マズすぎる。あいつを倒さなきゃいけないんだろ?ビビるだけならともかく、体動かなくさせる暇なんてねぇよ。俺だけでもやる気出すぞ。俺は絶対に諦めるつもりはない。」

レーニャ「クロノさん…」

クロノ「自分の命も惜しいけど、そんなこと言って逃げるのは恥ずかしいからヤダ。」

カンザー「お主…異世界から来た癖に…そうか…」

カンザーが両拳を握り、胸の前で拳同士を叩きつける。

カンザー「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎」

大きな雄叫びをあげる。

周りの視線が1点に集まる。

カンザー「ワシは逃げんぞ‼︎あの巨大な魔獣から逃げん‼︎クロノ‼︎お主の勇気にこの老体も続こう‼︎お主1人を戦わせるわけにはいかん‼︎皆の者ォ‼︎声を上げぃ‼︎どんな声でも構わん‼︎自らの内にある勇気を押し出す雄叫びを上げるのだ‼︎」

「お、おおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎」」」

カンザー「奴を見ろ‼︎既に浜を抜けた‼︎次はここに来る‼︎浜の者どもの‼︎奴に食われてしまった者どもの仇をとるぞ‼︎」

「あんなガキ1人残して逃げてらんねぇ‼︎俺はやるぞ‼︎」

「俺もだ‼︎やってやるぞ‼︎」

カンザー「クロノ、皆に声をかけてやれい。」

こういう役は嫌なんだがな…

クロノ「俺は…俺は絶対に諦めない‼︎あの野郎を俺らの代でぶっ殺すくらいの勢いでかかる‼︎だからあんたらもそんくらいの意気込みで戦え‼︎俺らで英雄になっちまうくらいのやる気で戦え‼︎」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎」」」

約30人の雄叫びが町に響く。

クロノ「行くぞォ‼︎」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎」」」


先陣を切る。

それに続き、レギオンに向かって全員が特攻する。

レギオンの手が振り下ろされ、自分を狙う。

体を捻って避け手を躱し、足を斬りつける。

全く歯が立たない。

クロノ「どうしたもんかね〜。」

蹴りを避け、次の手を考える。

レギオンの顔を見る。

レギオンの顔は1つを除き全ての顔の目が閉じている。

(そういや海の上にいる間は目が全部開いてたが…なんで閉じてるんだ?)

クロノ「…やってみる価値くらいはあるか…」

剣を銃に変え、勢いよく風を噴射する。

レギオンの攻撃を躱し、顔の1つに飛びつく。

クロノ「これでも喰らいやがれ‼︎」

瞼の間から剣を刺す。

瞼の間から勢いよく血が吹き出て、レギオンが苦しそうに呻く。

地面に降りる。

片膝をつき、目を刺された顔を抑え、残りの顔の目で自分を見つめる。

(やっぱこういう類の魔獣は顔が弱点ってのはRPGの基本か。)

クロノ「目を狙え‼︎それで倒せるかは知らんが、効果はあるはずだ‼︎」

弓兵「目が弱点とは…よっしゃ任せとけ‼︎」

弓を携えた1人が狙いを澄ます。

矢を放った。

矢は的確に瞼の間を射抜く。

弓兵「どうだ‼︎命中‼︎」

レギオンはまたも苦しみ、その顔を抑える。

クロノ「ナイスショット‼︎もっとぶち抜いてやれ‼︎」

レーニャ「私だって‼︎」

レーニャが飛び、レイピアを構える。

レーニャ「せぇあああ‼︎」

顔に飛びかかり、レイピアを突き刺す。

すると、突き刺した部分のすぐ横からも血が吹き出る。

クロノ「一瞬の内に3回刺したってか?すげぇな。」

ターニア「いいぞレーニャ‼︎さすがだ‼︎」

レーニャ「お姉様‼︎」

レーニャが飛び降りる。

すると、レギオンが雄叫びをあげながら立ち上がり、家屋を掴む。

屋根を引き抜くと、大きく振りかぶる。

クロノ「やべえぞおい‼︎」

カンザー「全員避けろ‼︎」

レギオンが屋根を振り回す。

カンザーの一足早い叫びに全員反応できたようで、食らった者はいなかったようだ。

レギオンは屋根を投げ捨てると、腕を振り回し始めた。

屋根が建物にぶつかった音がする。

カンザー「待て、あの方向は…‼︎」

カンザーがレギオンが屋根を投げ捨てた方を見る。

クロノ「どしたカンザーさん⁉︎」

カンザー「あの方向は診療所の方角だったはず…‼︎」

クロノ「診療所って…‼︎」

確かブランとフレアとレオがいたはず‼︎

クロノ「見てくる‼︎ここは任せた‼︎」

カンザー「診療所までは道は一本しかない‼︎すぐに分かるはずじゃ‼︎」

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