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ヒーローライクヒール(リメイク連載中)  作者: 手頃羊
15話:怪物のbirthday
82/95

その2・not be rewarded

[ハゼット]

それから何日か経った。

町には化け物が現れたという噂が広まっていた。

なんでも、その化け物は右目の辺りが根こそぎ抉れており、狙われた者は右目を奪われるのだそうだ。

子どもは自分のことを言っているのだと分かった。

子どもの右目はまだ治っていないった、


分かったところでどうしようもなかった。

子どもには大人に対抗する術を持っていない。

腹も減った。

ここ数日ほとんどマトモに食べていない。

たまに路地裏に人が来てゴミを捨てていく。

それに見つからないように隠れ、ゴミを漁り、中に食べ残しや残飯のような何かがあったのでそれらを食べていた。

とても苦しいのに、死んでしまうような感じがしない。


裏路地を人に見つからないように動き回る日々が続いた。

もはやこの町でこんなに町の裏を歩き尽くした者はいないだろう。

1度も表に出ることなく、町の反対側に行くことも出来た。

だがある日、特に油断をしたわけでもなかったが、人に見つかってしまった。

たまたま自分が通った所に、1人の女性が通りがかってしまった。

子どもはしばらく人に見られることがなかった。

それゆえ、足がすくんでしまい、すぐに逃げ出すことができなかった。

「大声をあげられてしまう!どうすれば…」

しかし、女性は声をあげて助けを呼ぼうとしなかった。

それどころか自分に近寄ってきた。

「坊や、大丈夫?ひどい怪我…おいで。私の家で手当てしてあげるから!」

顔の4分の1も抉れている子どもの顔を見ながら怯えることもなく、こんな姿の化け物が町に潜んでいるという話を聞いているに違いないのに、この女性は子どもを心配した。

子どもはその言葉を信じた。

親に裏切られてまだ日は浅いが、だからこそ、誰かに偽りなく心配され、きちんと愛して欲しかったから。

子どもは女性の手を取った。

「よし、私の家までの秘密の近道教えてあげる!」

女性は自分の手を取って裏路地を歩いていく。


女性の家に着いた。

「さ、入って。」

女性の言葉に従い、家に入る。

中に人はおらず、誰かと暮らしているような雰囲気もなかった。

「じゃあ、そこに座って。」

女性に言われるがまま、椅子に座った。

目の前で女性が膝をついて座り、子どもの顔の前に両手かざした。

「大丈夫だからね〜。私がちゃんと治してあげるから…。」

だんだんと子どもの顔を覆っていた痛みが引いていった。

「はい、もう大丈夫!」

女性が子どもの顔を触る。

子どもも自分の顔を触る、

抉れていたはずの顔の右側はすっかり元通りになっていた。

子どもは嬉しかった。

今まで誰かに嫌われることしかされなかったのに、こんな風に自分に良いことをしてくれる人なんていなかったから。

嬉しかったのに大きな声で泣いてしまった。

そんな子どもを女性は抱きしめた。

「辛かったね…もう大丈夫だからね…」

泣き止むまで何度も背中を優しく叩いてくれた。


いつの間にか、外は暗くなっていた。

「よし、おねーさんが美味しいご飯作ってあげる!」

女性が子どもの肩をポンと叩き立ち上がる。

「えっと…坊や、名前はなんて言うの?」

子どもには名前が無かった。

あんな親に産まれたんじゃあ名前をもらえるわけがない。

「名前ないの…?う〜ん…それじゃあ私が付けてあげる!そうだな…そうだ!ハゼットってのはどう?ハゼット・ローウェル!私を昔助けてくれたヒーローと同じ名前なの!ローウェルは私の苗字から!私はマリー・ローウェル。さてと…ハゼットはどんな料理が好き?」

答えられなかった。

今まで名前なんて無かったのに、付けてくれた人がいたことが嬉しかったから。

だからまた泣いてしまった。

マリーはまた抱きしめてくれた。


それから何年も経った。

もはや怪物がいるという噂は消え去っていた。

だが、外に出ることはしなかった。

外に出るよりも、家の中にいる方が居心地が良かった。

子どもは昔から身長が変わらなかった。

おそらく、不老不死になったことに関係があるのだろう。

不老、だからな。

それから子どもはマリーから魔力の使い方を教えてもらった。

基本的な魔力強化からちょっとした応用まで。

マリーは近所の露店をいくつか手伝っていて、それの準備や片付けの為に朝早くから家を出て、子どもの昼ご飯を作る為にわざわざ1度家に帰ってきてまた露店の手伝いに行き、そして夜に帰ってきて、夕食を作ってくれた。

忙しくても、毎日魔力の使い方を教えてくれた。

そんな生活を何年も続けてくれた。


ある日、マリーが露店に忘れ物をしたことに気づいた。

太陽は既に落ちていたが、マリーは取りに行くといって露店まで走っていった。

マリーが外に出て数時間。

そろそろあと1,2時間もすれば日が昇るというのに帰ってこない。

家からマリーが手伝う露店まではそんなに遠くない。

1時間も歩けば往復できる距離だ。

それなのに何時間経っても帰ってこないから心配になった。

子どもは家を出て、マリー探しに行った。

露店に行ったことはなかったが、マリーからどんな場所に露店があるかは聞いていたので、どこに向かえばいいかは知っていた。


露店に向かう途中、表から入れる路地裏から変な臭いがしてきたのに気づいた。

嗅いだこともない臭い。

マリーのことも気になったが、その臭いも気になったし、なぜか向こうにマリーの香りがするような気がして、そこにマリーがいるような気がした。

路地裏を進んでいくと、男たちが何かしているような声が聞こえてきた。

何をしている声かは分からなかった。

曲がり角の向こうに男たちがいるだろう。

曲がり角から顔を覗かせる。

男たちが何かを囲んでいた。

その中心で何をやっているかは分からなかった。

だが謎の臭いは明らかにそこからしてきていたし、マリーの香りもそこからしてきた気がした。

「ん?おい、ガキが覗いてるぞ。」

1人の男がこっちに気づいた。

他の男もみんなこっちを向く。

中央で何かをしていた男が立ち上がった。

男は何かに覆いかぶさっていたようだった。

男が立ち上がったことで、その男が何に覆い被さっていたか分かった。

そこにはマリーがいた。

裸で、首からは血が流れているのが見えた。

男が自分に向かって何か話しかけ怒鳴っていたが、もはや子どもには聞こえなかった。


いつの間にか、子どもはポツンと立っていた。

辺りも明るくなっていた。

周りには体中を切り裂かれた男たちの死体が転がっており、子どもは手に男たちから奪ったナイフを持っていた。

子どもが男たちに何をしたか思い出した。

だがそれよりも、マリーのことが気になった。

マリーに近寄る。

マリーの肩を揺さぶり、起こそうとする。

だがマリーは起き上がるどころか、返事もしない。

すると、後ろの方で足音が近づいてくるのが聞こえた。

誰かが来るようだ。

子どもは助けを求めようとした。

曲がり角から男が顔を覗かせる。

男はとても驚いたような顔をした。

そして子どもを指差し、何かを叫んだ。

何を叫んだかは子どもには聞こえなかった。

すると、男は急に走り出し、表に出ていった。

そして男が叫んでいた。

「人が死んでる‼︎女が犯されて殺されてた‼︎化け物だ‼︎」


町はすぐにざわつき出した。

子どもはそこから逃げ出した。

裏路地を駆けていった。

もし見つかってしまったら、今度こそ無事じゃ済まないかもしれない。

子どもはマリーから教わった魔力を駆使して、大人の男へと姿を変えた。

町が慌てふためくのを振り切り、町を走って出ていった。






[クロノ]

ハゼット「とまぁ、これが俺の生まれたきっかけと、初めての殺しかな。」

クロノ「…今のハゼットさんのその姿は……」

ハゼット「本来の姿じゃない。あくまで、誰かと接したりするのに大人の男が1番信頼されやすいからだ。本当の姿はまだ子どものはずだが…俺はもうその顔を忘れた。ユニコーンは俺の右目に血を注いだ。だから俺の右目ちょっと変わっていてな。」

ハゼットの右目が赤く光る。

クロノ「それ…」

ハゼット「集中すると体の中の魔力が暴れ出すんだ。目が光るのはその影響。」

クロノ「………」

ハゼット「さて、1つ聞いていいか?」

クロノ「なんです?」

ハゼット「俺が行ったあの殺しを…お前はどう思う?」

クロノ「どう……か…。」

ハゼット「俺はあの殺しが正しかったのか今でも分からない。だが正しかったにしろ間違っていたにしろ、自分を抑えることはできなかったろうがな。」

クロノ「これは俺の持論なんですけど…」

ハゼット「………?」

クロノ「人を殺すこと自体は悪じゃないです。人を殺す理由が悪なんです。金を奪うのに抵抗されたからとか、嫌いで目障りな奴だったからとか、そんな理由は勿論悪だと俺は思います。ハゼットさんのは、 ハゼットさん自身言ってた通り、復讐の殺しですが俺は……それは悪だと思います。」

ハゼット「そうか…」

クロノ「でも、正しいかどうかで言えば…正しいと断言します。」

ハゼット「…悪が正しいと?」

クロノ「悪も正義も正しくないです。正しいのは誰かの為に行うとしたことです。マリーさんの仇を討つ為に、マリーさんの為に行ったその殺しは間違いなく悪ですが…その行動に罪は無いと思いますよ。」

ハゼット「そうか…」

ハゼットが天井を見上げる。

ハゼット「………」

なにを考えているのだろうか…

ハゼット「さてと…」

ハゼットが立ち上がろうとすると、エリーが入ってきた。

ハゼット「エリー?」

クロノ「エリーさんならハゼットさんが話してる間、ずっと外にいましたよ?」

エリー「ばれてました?」

クロノ「えぇ。扉半開きにしてたのが見えたんで。」

ハゼット「聞いてたのか。」

エリー「なんの話をするのか気になったんです。」

ハゼット「ただの昔話だよ。」

エリー「私もいいですか?私の話を。」

クロノ「エリーさん?」

エリー「クロノさんに話す約束してましたし、クロノさんが私を助けて頂いて…話す勇気が出ました。聞いていただけますか?」

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