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ヒーローライクヒール(リメイク連載中)  作者: 手頃羊
11話:囚われのお姫様
54/95

その5・NOを押し付ける

[クロノ]

階段に着く。

ターニア「やはり鎧脱いでいいか?動きづらいし、音が鳴る。」

クロノ「そりゃまぁ、音が鳴るんならやめた方がいいかもな。」

来たばかりの鎧を脱ぐ。

ターニア「ふぅ…。よし、会議室は2階にある。そこまで上ろう。」

クロノ「2階…ね。意外と低いとこにあんのな。」

ターニア「2階といっても1つの階の天井が高いから実質4階みたいなものだ。」

階段を上り、2階に向かう。

クロノ「なぁ、さっき暗殺にするって言ったけどさ。今会議中なんだよな?」

ターニア「会議室にいるということはそうなんだろう。他の市長も集まっていることだしな。」

クロノ「それなら隠れて殺るっていうのもできないだろうしさ。それならいっそ市長達の前で堂々と殺るってのはどうだ?」

ターニア「なに?」

クロノ「腐ってる部分を斬り落とす。後はこの町のやつらが何とかしてくれるだろ。」

ターニア「だが、それだと根本的な解決にならないんじゃ…」

クロノ「暗殺だって解決になってないでしょ。それなら隠れて殺るより、堂々とこちらの主張を突きつけてやった方がいい。」

ターニア「そうか…。そういうものか…?」


2階に着く。

階段から廊下を覗くと、廊下に兵士が6人ほど見える。

1人1人の間隔が遠い。

廊下の中央に部屋がある。あれが会議室だろう。

クロノ「手前倒してる間に奥の兵士が騒ぎ出しそうだな…。」

ターニア「厄介だな…。どうにかできないものか…。」

クロノ「う~ん…。一個案があるとしたら…銃で1番向こうにいる奴を1人撃って全員の気をそっちに向かせた後突撃、ってのは?あまり音を立てずに突撃。」

ターニア「うまくいくか…?」

クロノ「いかせないと後が大変だからな。他に案ある?」

ターニア「いや、ないな。一か八か、それで行ってみよう。近くの3人は任せてくれ。」

クロノ「失敗しても特攻するなり諦めるなりすればいいんだ。よし、行くぞ。」

壁から銃だけをはみ出させ、兵士の足元に向けて銃を撃つ。普通の弾よりスーパーボールのように反発力が高く、かつ着弾した時の音を無音レベルにまで抑える弾を発射する。

兵士のすぐ足元でバウンドして奥の壁にぶつかる。その反射で兵士の頭に直撃。

兵A「いって!」

兵B「どうした?」

兵A「なんかぶつかったぞ!」

廊下の兵士が全員向こうを向く。

兵C「虫でもぶつかったか?」

クロノ「今だ!」

ターニアが走り、近い敵の首を音もなく斬り裂く。

遠くにいる3人の敵は、銃でキルを狙う。

鉛…とまではいかないが、金属並みに硬くした魔力の塊を兵士の頭に照準を合わせ、発射する。

3人のうち、近い敵から狙い、撃ったらすぐに次の目標に移る。

魔力で音を極限まで抑える。

ターニアが最後の1人を斬り終える。

すぐに扉の前に行き、耳をそばだてる。

うん、とうなずく。どうやらバレなかったようだ。

扉の前まで行き、中の声を聞く。

町長「…なのです。ですから、皆さんにとっても悪い話ではないかと。」

男A「それはいい話ですなぁ。」

町長「どうしました?カーネル市長。何かご不満でも?」

男C「いえ、なんでもないです…」

男B「それでは、順番は今決めた方法でよろしいということですかな?」

なんていうか、

クロノ「町長以外は微妙にやる気ねぇな。町長のことを良く思ってないってことかねぇ?」

町長「それでは、夜までごゆっくりおくつろぎください。それから、宴と参りましょう。」

クロノ「行くなら今しかないな。合図を出したらドアを蹴破ってくれ。」

ターニア「分かった。」

扉を少しだけ開け、そこから銃を少しだけ出し、牢屋の時に放ったのと同じようにフラッシュバンを撃つ。

男C「なんだこれは?」

大きな音ともに、中で悲鳴が沸く。

クロノ「今だ‼︎」

ターニアが思いっきりドアを蹴破る。

中に入り、脇にいた兵士に向かって電撃を帯びた弾丸を食らわせ、気絶させる。

ターニア「あれが町長だ‼︎」

指差した方向に老紳士のような風貌の男が机に手をかけて立ち上がろうとしていた。

クロノ「全員視力が回復してきたかな?」

ターニア「クロノ、どうする?」

クロノ「まずは話を聞こうじゃないか。全員その場で動くな‼︎」

市長達がこちらを見る。

男A「何者だお前ら‼︎」

クロノ「動くなって言ってんでしょ‼︎撃つぞ‼︎」

男A「ひぃ!分かった!撃たないでくれ!」

町長「貴様はターニア大尉か‼︎脱獄したのか‼︎」

ターニア「お久しぶりですね、シグールイ町長。」

ターニアが机の上に立つ。

シグールイ「貴様とうとう直接的な手段をしてきたか…。」

ターニア「話は聞きましたよ。私を死刑にするのではなく、市長達に売るのだとか。」

シグールイ「だから、どうした?」

後ろから兵士が入ってくる。

クロノ「まだいたのか!ターニア、こっちは任せとけ!」


ターニア「なぜそのようなことをするのですか?」

シグールイ「有効活用だよ。ゴミを捨てる時は使いきれるところまで使いきってから捨てなければ勿体無いからな。」

ターニア「そのために関係ない者を代わりに死刑にさせるのですか?」

シグールイ「あれはどちらにせよ死刑囚だ。一緒じゃないか。」

ターニア「昔、とある死刑囚に対して冤罪と分かっていながら死刑を強行しました。また同じことをするつもりですか?」

男C「冤罪?どういうことです?」

シグールイ「余計なことを…。」

男A「冤罪と分かっていながら死刑を強行…。先ほどの我々の話もそうではあるが、あまりにも非人道的と言わざるをえませんぞ!」

シグールイ「あの者は既にわが町を脅威に陥れる可能性が大いにあった。その芽を摘んだだけに過ぎん!」

ターニア「脅威に陥りそうだったのはあなたの立場でしょう?」

シグールイ「だからどうした⁉︎あんな下等な奴に陥れられてたまるものか‼︎」

クロノ「やっぱ見下す系独裁者だったかよ。」

シグールイ「な⁉︎兵士は⁉︎」

クロノ「もっと忠誠心のある兵士を用意しとくべきだったな。ちょっと殴ったらすぐに逃げてった。」

かなり全力で殴ってやったが。

クロノ「まぁ、あんたに忠誠心出すような兵士はここまで来たところで1人もいなかったが。」

ターニア「やはりあなたのような腐った人間が上にいられてはこの町も腐ってしまいますね。」

(足元に魔法陣…やっぱ言いたい事あったか…。うん、この方法にして正解だったかな。)

クロノ「言いたいこと言うってのは大事だよね、うん。」

シグールイ「まさか…私を殺す気か?本物の犯罪者になる気か?」

ターニア「あなたを殺せるなら犯罪者どころか悪魔にだってなってもいいかもしれませんね。この町には多くの友人がいました。城の兵士以外にも、町の雑貨屋や果物屋など、この町の住人の半数…というのはさすがに言い過ぎですがそのくらいの友人がいます。みんなを守るためなら悪魔だろうが死神だろうが犯罪者だろうが何にでもなってやるつもりです。悪になろうと、私の正義を貫き通して悪を斬り裂いてやりましょう。」

シグールイ「おい、お前ら!こいつらを止めろ‼︎賄賂の質を増やしてやるから‼︎」

男C「…無理です…。」

男A「私も…。」

次々と市長達が拒否を示す。

シグールイ「貴様ら‼︎今まで散々金も何もかもやっただろうが‼︎裏切るのか‼︎」

男C「私は初めから欲しくはありませんでした。そのような残虐な行いをしているなら、いくら受け取ろうと指示する気はさらさらないです。」

市長達が声を揃えてそうだそうだと声を挙げる。

クロノ「勇気ある〜。マトモな奴もいんじゃん。」

ターニア「ありがとうクロノ。」

クロノ「ん?」

ターニア「ここまで来れたのはまったくの偶然だが、おかげで言いたい事言えてスッキリできたよ。それに、みんながみんな腐っていたというわけではないのだな。」

クロノ「そ。そりゃ良かった。んじゃ後はお好きに。」

ターニアがシグールイをじっと見つめる。

いつの間にかシグールイの足元が氷に覆われ始める。

シグールイ「ひっ‼︎こ、これは‼︎」

氷はどんどん足元を飲み込んでいく。

シグールイ「たす、助けてくれ‼︎頼む‼︎君を売るという話は無しにしよう‼︎死刑もなかった事にするし、冤罪が確定している連中も皆釈放する‼︎なっ⁉︎」

ターニア「そうですか、是非そうしてくれると嬉しいですね。次の新しい町長なんかが。」

ターニアが剣で魔法陣を突く。

氷のスピードは速くなる。

シグールイ「な‼︎やめろ‼︎この‼︎クソ‼︎」

必死にもがくが、まったく無意味だ。

シグールイ「この畜生共めが‼︎貴様ら全員呪ってやるからな‼︎………」

氷に覆われ尽くされる。

ターニア「随分汚いオブジェになってしまったな。」

剣を振りかぶり、氷を一突きすると、汚い見た目とは裏腹に綺麗に割れる。

ターニア「ふぅ…さて、気は済んだ。クロノ、行くとしよう。」

クロノ「はいはい。行きましょうかね。後みなさんよろしく。」

男A「よろしくってこのまま放置するのか…?」

クロノ「だって、俺ら犯罪者だもん。あんまり残りたくないの。さっさと町の外に逃げなきゃ。」

男C「この状況で言うのもなんだが、お前らは町を救ったんだぞ?わざわざ逃げなくたって…」

クロノ「でも犯罪者であることには変わらんだろ?人殺しなんだ。いくらヒーローつったって悪役なんだよ。あ、そうそう。次の町長はあんたが良いんじゃない?カー…カー…カーネルさん…だっけ?」

男C「私が?」

クロノ「そうそう。あの状況ではっきり理由付けてNOって言える勇気はなかなかだからな。そんじゃ。」

部屋から出る。


城の階段を上っていく。

ターニア「どうやってこの町から出るんだ?」

クロノ「上から町の外壁までロープ伸ばして、それを伝って行って、外壁を降りて、ちょっと便利な乗り物に乗って、アリアンテに向かう。」

ターニア「はぁ…よく分からんが…まぁ、君に任せるよ。」

城の4階に着き、手近なところにあった窓を開ける。

外を見たところ、外壁よりは高い場所のようだ。

クロノ「ここでいいかな…。」

窓から外壁の向こう側の地面を狙う。

銃からロープ状の魔力を射出し、地面に刺す。

こちら側の先端を城の壁に刺し、簡易のジップラインを作る。

ターニア「なるほど、これを滑って降りるのか。」

クロノ「そそそ。…なぁ、この町に残らなくていいのか?」

ターニア「どうした?」

クロノ「知り合いとかいるんでしょ?この町に。町長はもういないわけだし、もう大丈夫だと思うが。」

ターニア「それもそうだが…たまには町の外にも出てみたいと思っていたところだ。…私が付いて行ってはダメか?」

クロノ「いや、いいならいいさ。さ、行くぞ。」

剣を引っ掛け、ジップラインを滑り降りていく。


降りる途中、外壁の監視の兵に見られた。慌てた様子ではあったが、どうせもう帰るだけだから関係ない。

ターニア「それで便利な乗り物というのは?」

クロノ「あぁ、これだよ。」

地面に手を付け魔力を流す。

手で触れた場所から魔法陣が浮かび上がる。

直接触れさえすれば魔力を流すことができるので、地面に触れれば地面に魔法陣を形成することができる。

魔法陣の中からだんだんとモノが姿を現わす。

ターニア「なんだこれは…乗り物?馬?にしては生き物らしくないというか。」

クロノ「バイクといったらハーレーでしょ。」

形成した魔法陣は召喚魔法のものだ。

密かに練習していたが、ようやく実戦に使えそうなレベルになった。

バイクといってもガソリンで走るものではないし、見た目をそれっぽく再現しただけで、細かい部品なんかは、あるだけでほぼ意味をなさない。

ガソリンの代わりに魔力でタイヤを回転させるだけに過ぎないが、馬なんかよりは速いスピードが出せる。

クロノ「さ、乗ってくれ。」

ターニア「いや、乗ってくれって…どう乗れと?」

クロノ「あぁ~、俺の後ろに座れば大丈夫だ。」

ターニア「えぇと、こうか?」

クロノ「そそそ。そんじゃ結構速いから、しっかりしがみついといてよ。」

ターニア「あ、ああ。」

(おおう、薄着だからダイレクトに胸の感触が)

クロノ「おし、行くぞ!」

アクセルを握り、加速していく。

ターニア「おお、おおお…おおおおおお‼︎これは‼︎」

数秒で最高速度を出す。

ターニア「はははははは‼︎これはなかなか速いな‼︎馬でもこんな速度は出せないぞ‼︎」

クロノ「楽しんでもらえて何よりですよ‼︎でも喋ると舌噛んじゃうよ‼︎」

ターニア「ああ、分かった‼︎」



アリアンテに到着。ギルドに帰ってきた。

ターニア「なぁ、クロノ。あのバイクとやら、また乗せてはくれないか?というか乗り方を教えてくれ。」

クロノ「あぁ~、今度知り合いに作らせるからそれまで待ってもらえます?」

ギルドのドアを開ける。

クロノ「は~い、帰りましたよ~。」

ハゼット「クロノ‼︎無事だったか‼︎任務は…完了したみたいだな。」

ターニア「ハゼット!久しぶりじゃないか!」

ハゼット「あぁ、色々と聞きたいことはあるが、今日はもう休んで…」

レーニャ「大尉‼︎‼︎」

レーニャがターニアに抱きつく。

ターニア「レーニャ‼︎やはりお前だったのか‼︎」

レーニャ「はい‼︎良かったご無事で…‼︎」

泣きながらターニアの胸に顔を押し付ける。

ターニア「心配かけたな…。」

レーニャ「いえ…‼︎ご無事であればもう十分です…‼︎」

ハゼット「エリー、服用意してやってくれ。」

エリー「はいはーい、かしこまりました~。」

かなり危険な任務を終わらせてきたのにも関わらず、あまり普段と変わらない雰囲気。

逆にそういう方が好きだったりするが。

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