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ヒーローライクヒール(リメイク連載中)  作者: 手頃羊
11話:囚われのお姫様
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その2・鳥になってこい

[クロノ]

クロノ「…ということなんですよ。」

マキノ「なるほど、それで高高度にいけるような物はないかと。」

空から侵入とは言ったものの、空に行く手段がない。

マキノさんなら何か良いものがないかと、研究所まで来た。

マキノ「あるぞ。」

クロノ「あるの⁉︎」

マキノ「あぁ。メイ!来てくれ!」

奥の部屋からメイがサシュをお姫様抱っこをしてやってきた。

メイ「お呼びでしょうか。」

マキノ「あぁ、ちょっと頼みたいことがな…」

クロノ「お姫様抱っこはスルーですか。」

マキノ「いや、サシュが足を怪我してしまってな。サシュにはどうやら正常な人間と違って自然治癒というのがないようなのだ。だから、とりあえず今はこうして運んでいるんだ。」

クロノ「なるほど。」

マキノ「それで、高高度まで行ける手段というのはメイのことだ。」

クロノ「メイさんが?」

メイ「高高度に何か御用でも?」


メイに一通りの事情を説明する。

メイ「なるほど、それでクロノさんがベルージアに単独潜入をすべく、空から侵入すると。」

クロノ「そういうことですね。で、どうやって高いところまで…?」

メイ「私の手足にジェットの機能があります。成人男性3人分くらいまでの重量までなら問題なく運べるくらいの出力が出せます。」

クロノ「マジですかよ。」

○ジンガーZみたいに飛ぶの?

マキノ「出発はいつだ?」

クロノ「できれば早めに出たいです。何だったら今すぐにでも。」

マキノ「そうか。メイ、今から行けるか。」

メイ「はい、可能です。」

マキノ「よし、サシュは私に任せておけ。」

メイ「ベルージア上空まで運ぶだけでよろしいので?帰還の際は…」

クロノ「帰りはちゃんと準備できてるんで大丈夫です。行きだけで構いません。」


その日の昼、研究所前。

メイ「それでは、お乗りください。」

メイがしゃがむ。

クロノ「乗る方法って背中にしがみつく以外はないんですか…?」

メイ「ございません。これが最も運びやすい方法なのです。どうぞ。」

成人男性が成人女性の背中にしがみつく絵になるんだが。

恥を捨ててしがみつく。

(よくできてるなぁ。肌の柔らかさとかそのまんまじゃん。)

メイ「準備はいいですか?」

クロノ「いつでもどうぞ。」

メイ「それでは行きます。腕で抑えることができませんので、自分の手と足でしっかりしがみついてください。」

メイの手足から強烈な風が吹き出る。

数秒と経たないうちに、体が浮き上がる。

マキノ「落ちるなよ~。」

クロノ「不吉なこと言わんでください!行ってきます!」

雲の上まで登り、そこからベルージアの方角に向け進んでいく。


メイ「何かお困りの点などはありますか?」

クロノ「お困りの点?」

メイ「スピードが速い、乗り心地が悪いなど…」

クロノ「いや、別に大丈夫ですよ。…ベルージアまでどのくらいかかります?」

メイ「このまま順調に行きますと、約2時間後にベルージア上空の降下ポイントに到着いたします。」

クロノ「2時間…。十分ですね。このままのスピードでお願いします。」

メイ「了解しました。」


しばらく無言で飛び続ける。

クロノ「…サシュはうまくやっていけてますか?」

メイ「現在までのところ、問題は発生しておりません。強いて言うなら、足の怪我の自然治癒ができないことですね。マキノが開発した薬のおかげで人を襲うことはなくなっています。」

クロノ「そう…。よかった…。」

メイ「…クロノさんは何故サシュさんを怖れないのですか?」

クロノ「何故って?」

メイ「サシュさんのようなゾンビというものは、人間にとって魔獣よりも恐ろしいといえる非常に危険な存在です。クロノさんがサシュを連れて来た際、ハゼットさんでさえ表情からは警戒心が伺えました。ですがクロノさんは終始、サシュさんのことを心配しているようで、恐怖、警戒、嫌悪などの表情は伺えませんでした。無理やり表情を作っているというものでもありませんでした。」

クロノ「すごい機能持ってますね…。嘘発見器か何かですか…。」

メイ「怖くないのですか?」

クロノ「…怖いのか怖くないのか、自分でもよく分からないんですよ。仮にあの時怖かったとしても、目の前に助けるべき人がいるってんなら怖い怖いなんて言ってないで助けたいです。自分の心ってのは案外自分でも分からないものですよ。」

メイ「自分の心は自分では分からない…。」

クロノ「誰かに言われたり、誰かと一緒にいて初めて自分の気持ちに気づいた、なんてこともよくあるもんだと思いますよ。俺だって今メイさんに言われて初めてあの時怖かったのかな、って。実際怖かったかどうかなんてもう忘れましたけどね。」

メイ「…人間の心というのは難しいですね。」

クロノ「人間の心ってのは計算して分かるものじゃないんですよ。そりゃある程度その時その時のその人の心が分かるマニュアルみたいなものはありますけど、そんなものがいつでも通用するわけじゃありません。」

メイ「では、どうすれば人の心を確実に掴めるでしょう。」

クロノ「そんなものありませんよ。強いて言うなら…その人のことを考えて行動する、ですかね。」

メイ「ですがその行動が相手にとって、してほしくない行動である可能性があるのでは?」

クロノ「そうですよ。だから言ったでしょう?人間の心は計算して分かるものじゃないって。計算式なんかは計算すれば確実に1つの答えにたどり着くけど、そうならないのが心ってもんです。」

メイ「では、私には心は持てないでしょうね。」

クロノ「そう悲観することはないんじゃないですか?心の中を100%完璧に分かる人なんていないんです。俺だって偉そうに色々言ってましたけど、それらが全部正しいかも分かりませんからね。ですから、メイさんが心を持てるか持てないかは誰にも分かりませんよ。」

メイ「そうですか…。ありがとうございます。」


しばらくして、ベルージアが見えてきた。

メイ「あちらがベルージアになります。」

クロノ「でっか…。」

本当に大きいな。県1個くらいあるんじゃないか?

メイ「ベルージアの大きさを表すのに、馬車でベルージアを横断するのに丸一日かかる、という言葉があるそうです。」

現代日本ですら自動車で県1個横断するのに遅くても半日くらいじゃないか?

馬車だから車より遅くなるとはいえ、かなりの大きさじゃないか…。

メイ「もうしばらくで降下ポイントです。降下の準備をしておいてください。」


ベルージアの上空でメイが静止する。

メイ「降下ポイントに到着しました。準備はできておりますでしょうか?」

クロノ「大丈夫です。」

足の震えと心臓が痛くなってきたことさえ除けば大丈夫。

メイ「それでは、どうぞ。」

クロノ「…すぅー…はぁー…」

大きく深呼吸を1回。

クロノ「よし、行ってきます‼︎」

空中でウダウダするわけにもいかない。心を決めて、メイの体から離れる。

ものすごいスピードで風が体を吹き抜けていく。

落ちるスピードがだんだん速くなっていくのを感じる。

体に魔力を流し、光の属性を付与する。

体を大の字にして、自分の前面に水色の弱い光を集結させる。

空の色と同じにすることで、仮に見られたとしても、変なのが浮かんでる程度にしか見られない。

町の外壁から遠い、町の中央に近く、かつ人通りの少ない路地裏を目指す。

あと数百メートル、背中の剣2本を銃に変え、両手に構える。町の外壁より少し高くなったところで、銃を地面に向け、メイのジェットのように、風の魔力を発射させ、スピードを軽減させる。

かなり全力で出しているが、スピードがなかなか弱まらない。

地面がすぐ迫る。

足から地面に触れる。この時点で既にダメージが発生するので、体を曲げ、右手の甲を地面に付ける。ダメージを背中に回し、体を前転の要領で背中から回る。ダメージが常に地面に触れるように回し、少しずつダメージを受け取りながらダメージを地面に流していく。その間、ぐるぐると何回転も前転をする。

14回ほど回ったところで、回るのをやめ、足を大きく地面に広げ、両腕をしならせながら、地面を叩く。柔道なんかの格闘技で使われる受け身のテクニックだ。


…手足の先に痺れが残るが、無事生還できた。

だがゆっくりしていられない。誰かに見られていたらここに来る可能性がある。

立ち上がり、周りに誰もいないのを確認しながら町の北部にあった城を目指す。

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