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ヒーローライクヒール(リメイク連載中)  作者: 手頃羊
4話:愛が止まらないから
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その4・伝わらないなら伝えればいい

[ハゼット]

刀を持つ少女の猛攻をなんとか受け止め切る。

上から振り下ろされたら剣を横に構え、横から薙ぐように攻撃してきたら縦に構え。

ついてきたら体を横にして避けて、隙を狙う。しかし自分の攻撃も避けられてしまい、また切りかかっては防ぎ切りかかっては防ぎ…。

耐久戦にしようかと思ったが疲れを見せる気配は一向にない。先にこちらが疲れてしまいそうだ。自分の体が傷つくのはなんとかできるが、今後ろには守らなければならないものがいる。ヘタに動いて失敗してしまえば、危険だ。確実に守りきり、チャンスを見つけなければならない。

カ-ン!

ギ-ン!

カ-ン!

剣と剣のぶつかり合い。さすがに長引きすぎだ。そろそろ向こうも攻め方を変えてくる頃だろうか。

変えられる前に変えて向こうのペースを崩してみようか。

失敗してしまえば危険。確実に成功させなくてはならない。


横薙ぎを思いきり弾く。リーが大きな隙を見せる。

剣を消し、足に魔力を込める。

リーの顔を掴み、持ち上げてそのまま裏路地を出て表まで走り出る。

刀を自分の肩に突き刺す。

ハゼット「ぐぁ‼︎」

持っていた手を放す。

裏路地に向かおうとするリーの服の襟を掴み、引き倒す。

しかし、無理矢理な受け身をとりすぐに立ち上がる。

余計ダメージを大きくしているような受け身だ。

だがそれでも平然とした顔で裏路地の方を見続けている。

ハゼット「そんなにあの人を殺したいのか?」

リー「…お兄様に手を出す前に殺してやるの…。お兄様に寄ってくるような女は全部殺してやるわ…。」

ハゼット「それでお前の兄が喜ぶとおもってるのか?」

リー「お兄様の為だもの。…今はダメでも、いずれ分かってくれるわ。」

まるで自分が一番だとでも言うような顔だ。

ハゼット「はぁ…。どういうことをすれば喜んだり、そいつの為になるかは人によって様々だが、少なくともカールの望みはお前のしていることではないと思うぞ?」

リー「あなたにお兄様の何が分かるっていうの‼︎」

ハゼット「お前にはなにが分かるんだ?一方的に納得するんじゃなくて、お互いがしっかり認識して望みが共有できてるってのか?」

リー「あなたには理解できないのよ…。お兄様の為に一番しなきゃいけないことはなにか…。」

ハゼット「一番しなきゃいけないこと…ね。いったいなんなんだ?それは。」

リー「お兄様の未来の為に邪魔はあっちゃいけないの。私はそれを摘んでいるだけ。」

ハゼット「何を基準に邪魔だって決めるんだ?」

リー「みんなお兄様の中身を見ようとしないわ。お兄様はかっこいいし、誰にでも優しく接する。でもみんな気にするのはそこだけ。顔が良くて優しくて財力があって…、そこを狙うような女ばかりなの…。」

カールの中身…か…。

ハゼット「性格よりも奥にある中身ってことか?俺も今日あいつに会ったばかりだからあまり知らないな。確かに顔はいいし、優しいやつではあった。それ以上のことはなんも知らん。いい奴だってのは分かるがな。」

リー「…。」

この子もしかして…。

ハゼット「なぁ…。教えてくれないか?兄さんのこと好きなんだろ?どういうところに惚れたのさ?」

リー「…。」

刀を持つ手が下がる。

この子は兄が好きなだけだ。兄に近づく誰かを傷つけるのが目標なんじゃない。兄のことを理解しようせず、うわべだけを見て関係を持とうとする浅はかな奴らが許せないというだけだ。

ハゼット「こういうのはカール本人には聞けないだろ?お前にしか見えないカールがあるはずなんだ。それを教えてくれよ。」

リー「…知ってどうするのよ。」

ハゼット「共有だよ。この人はこういう人だってのが広がってた方がその人に対する間違った理解をしないだろ?俺はあいつのことを知らないから、あいつがどんな奴か分からないんだよ。」

リー「…私が昔、お兄様と街の外を歩いていたら魔獣に襲われたの。お兄様は私を守ろうと一生懸命戦ってくれたわ。でも子どもだから勝てるわけがない。その後に来た街の人たちに助けられなかったら、今頃死んでいたかもしれない。でも、魔獣にどれだけ攻撃されても私を守ろうって戦ってくれたの。」

話し始める。

リー「それからお兄様はもっと強くならないと、私を守れなくなってしまうかもって、剣を学び始めたの。教える人はいないから独学で。魔獣に挑んでも負けて帰ってきてばかりだったの。それでも絶対に諦めなかった。私を守れるくらい強くなるって言ってくれた。」


……………


この子は、兄が好きで兄のことをみんなに知って欲しかったのかもしれない。そこがどこか捻じ曲がって、兄のことを知らないやつは殺してしまえばいいという思考になってしまったのだ。

カール「リー…。」

リー「お兄様…ごめんなさい…。でも…!」

刀を握る。そして花屋の裏路地へ行こうとする。

カール「待つんだ!」

リーの手を握る。振り解こうとするが、それでも離さない。

カール「お前が俺の為にやってくれているのは分かった。でもやり方が間違ってる。」

リー「でも…!でも…!」

カール「お前は俺の為に今まで頑張っていたんだな。でもな、兄さんは誰かが死ぬのは見たくないんだ。例えそれが悪人であっても。それに俺のことを知らないやつが近づくのが許せないって言ってたよね?」

リー「うん…。」

カール「だったら俺のことをみんなに自慢してくれ。」

リー「え?」

カール「良いことでも悪いことでも、なんでもいい。そうすれば俺のことを知らないやつはいなくなるだろう?うわべだけの人間ってのは来なくなるんじゃないか?」

リー「でも、それでも…」

カール「もしうわべの人間が来ても、それに惑わされないように頑張るさ。でもそれは1人で頑張れることじゃない。…手伝ってくれるかい?」

リー「…!はい!」

兄のことが好きといっても、恋愛感情とかではなくて、ただの兄自慢がしたい妹だったというわけだ。

カール「さて、家に帰ろう!…の前に、しなくちゃいけないことがあるな?」

リー「え?あ…。」

カール「謝りにいこう。それで許してくれなくても反省はしっかりするんだ。いくら俺の為とはいえ、悪いことは悪いことだからな。」


後日、町長宅。

ケインズ「ハゼットさん!本当にありがとうございます!」

ハゼット「いえ。運が良かっただけですし、1番の功労者はカールですよ。」

ケインズ「ですがハゼットさんがいなければ惨事は免れませんでした。誰1人欠けてはいけない戦いでした。」

『闇』がこんなに良い終わりを迎えたのは初めてだ。今までの闇人は最期まで救えなかった。

だが誰も死なずに済んだ。

『闇』がなくなったわけではないが、『闇』を改心させることはできる。

これが分かっただけでもかなりの収穫だ。


町長が町の宿を手配してくれたのでそこで一泊し、次の日の朝、

ケインズ「来てその日のうちに解決し、次の日には帰るとは…なかなかハードですな。」

ハゼット「ギルドを空けとくわけにはいかないんでね。」

カール「またいらしてくださいね。今度は酒でも飲みながら話しましょう。」

ハゼット「あぁ、酒を飲むのも忘れてたな。ここのは美味いのか?」

カール「えぇ、絶品ですよ。ここの特産の酒もあります。それの為だけでもいいので、来てください。」

ハゼット「その時は酒の飲み歩きの依頼でも出してきてくれ。」

カールの後ろからリーが顔を覗かせる。

ハゼット「…兄さんと仲良くな。兄だけでなく、町の人ともだ。」

リー「はい。怪我をさせてしまったり…迷惑かけてしまい、すみませんでした…。」

ハゼット「俺のことはいいよ。大事なのはこれから迷惑かけないかどうかだ。…それじゃあな。」


馬車に乗り込む。

ハーマン一家が手を振って見送る。


馬車はゆっくりとアリアンテへの帰路をゆく。

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