7発目 漢女に相談だ! \( ´∀`)
「俺の弟だ……」
木間は自分に言い聞かせるように、もう一度言った。そう……きたか。弟くんですか……。あの時は、気づかなかったな~。普通に可愛い顔してたし。……私、負けてるのかな?
「弟くんは……桜国生なのか?」
「弟はまだ中学三年だ」
「でもあれって、桜国の制服だよな?」
「ネットか何かで手に入れたらしい」
弟くん、まさかのコスプレイヤーですか。最近は制服まで手に入るのか……。ネットの便利さも考えものだよな~。ん?弟くんは中学三年生で桜国の制服を着ている……ということは。
「もしかして、弟くんは来年桜国高校に入りたいとか?」
「……」
木間は黙って頷いた。ヒャッハー!これは面倒くさいことになってるぜ~!
「お前桜国高校が人気なのは知ってるな?」
「もちろん。俺も目指してたし」
「はあ!?」
うわ!テンション上げてたら口が滑った。ちが、違うよ!これは言葉のアヤだよ!
「お、俺も桜国生の子を彼女にするのを目指してたってこと!」
「……紛らわしい奴だな」
セーーフ!ふう、危ない、危ない。最近平和だったせいか、ガードが甘くなってるな……。気を引き締めていけ、葵!お前が歩いている道は修羅の道ぞ!
「元はと言えば俺のせいなんだ。弟がああなっちまったのは」
「木間のせい?」
「うちは母子家庭でな。父親がいなかったから俺がアイツにとっての父親代わりになれればと、そう思っていた。ふっ、生意気にも兄貴面したかったんだろうな……」
「……」
「アイツは小さい頃から内気で泣き虫な奴だったから・……よく同い年の奴にも苛められていたよ。その都度、俺が出ていって助けてやったんだけど……」
「良い兄貴じゃないか」
なかなか居ないぞ、そんな兄貴。私もそんな兄貴欲しかったな……。
「でも俺は結局、自分が満足したかっただけなんだ。父親の代わりに弟の面倒こんなに見てますよ、ってな。俺はアイツの心なんてまるで見てなかったんだ……」
「木間……」
「中学に上がってしばらくするとアイツの様子が変わってきたんだ。よく笑うようになった。中学に入って良いことがあったんだって、俺もお袋も喜んでたんだけど……その頃からかな?アイツ、夜遅くにこっそり出かけるようになってたんだ」
「それは……まさか」
「最初は気にしなかったよ。俺だって、こんな学校に入る不良だ。どの口で夜遊びはダメだ、なんて言える?」
「まあ、そりゃそうだ」
「でも、さすがに気になってな。少し前に尾行したんだ、荷物を持って出るアイツを。家の近くの公園の女子トイレに入った時はちょっと焦ったよ。オイオイってな」
「その時に止めなかったのかよ?」
もし身内がそんなことしたら、私は後ろから飛び蹴りをかましてしまうだろうな。訳は後で聞く。まず、蹴る!
「アイツが何をしているのか確証がなかったし、暗かったからな……俺が見間違えたのかと思った。でも、そうじゃなかった。アイツ、女子トイレから桜国の制服に身を包んで出てきたんだ。一瞬、誰だか分からなかったよ」
「うーん……」
そうだね。あれは完全に女の子だと思います。ハイ。
「お袋には言えなかった。弟に事情を聞くことも躊躇われた。でも、アイツの行動がエスカレートしていって、放課後にまで桜国生の格好をするようになったから……それで……」
「それで、この間ケンカをしていたと?」
「ああ……」
木間はなんとも言えない表情をしていた。話をしている間、ずっと目を合わせなかった。自分で自分に確認しているようだった。難しい話だな……。デリケートな話だ。しかし……
「それで?何で俺にそこまで話した?確かに責任云々の話はしてたけどさ。俺に責任取って手伝えってことか?」
「いや、それは冗談だ。別に手伝って欲しかった訳じゃない。ただ……」
「ただ?」
「うーん、上手く説明できないな。なんというか、お前にこの間会った時から、この話ができるのはお前しかいない……そんな気がしたんだ」
こいつ……超能力者か?まさか私の正体に気づいてる訳じゃないよな?どれだけの偶然が重なれば男を演じてる女に、女の子になりたい男の相談が来るんだよ!なにこれ?気持ち悪い。
「まあ、ただ話を聞いて欲しかったのかもな、誰かに。それがたまたまお前だった、ってだけだろ」
そうですか、そんなたまたまが有るんだな。私には玉々なんて無いけどな。は~い、葵ちゃんギャグで~す。下ネタで~す。
「ありがとよ、凛堂。お陰で少し気が楽になったぜ。じゃあな」
「待てよ!」
呼び止めてしまった。相変わらず私は厄介ごとに首を突っ込むのが好きだな……。まあ、ここまで話を聞かされて、はいさよなら、って訳にはいかないだろう?
「手伝ってやるよ!力になれるか分からないけどさ」
「凛堂……」
「だから、今ここで決めろ!お前がどうしたいのか」
「俺は……俺は……」