6発目 あの子はお前の何なのさ?
桜国生を助けてから数日が経った。もっともその間、私は体調のこともあってすっかり忘れていたのだが……。ようやく体調が戻った私はあの男のことをふと思い出し入間に聞いてみることした。こいつなら知ってるだろう。
「その男は木間純也だな」
入間はメガネを右手でクイッと上げながら言う。得意顔だ。そりゃ、知ってるんじゃないかな~と思ったけどさ……。特徴を教えただけで分かるとか……。他に使いようが有るんじゃないのか?その能力。君は将来、探偵になれるよ。
「まあ、喧嘩の腕は大したことないな。殴獄生の中でも目立たない部類に入るだろうな。知らない女に壁ドンするような性格じゃないと思うけど」
「ふ~ん、そうなのか~」
積極的なタイプでは無いらしい。でも私はこの目で見たしな~。うーん、そうだな……。ここは私の脳ミソをフル回転させて考えてみよう。
可能性その1 あの女の子は木間の彼女説
実はあの女の子は木間の彼女でケンカをしていただけ。これが一番しっくり来るけどな。でも相当嫌がってたな……あの女の子。自分の彼氏に向かって止めてとか離してとか言うかな?最近のカップルでは言うのかな?彼氏いないし分からないや。
可能性その2 あの女の子は木間の妹説
実はあの女の子は木間の妹で、兄として非行に走ろうとしている妹に説教していただけ。うん、これもアリだな。妹なら止めてとか離してとか言ってもそんなに変ではない。だがお前ら家でやれ、って思う。
可能性その3 あの女の子はやっぱり他人説
やっぱり他人。ただのナンパ。一番どうしようもないケース。あそこまで嫌がられたら諦めなさい。
まあ、結局のところ私には関係ない話なんだけどさ。っていうこのセリフ、どうやらフラグらしい。やって来ましたよ、木間くんが。酷いフラグ管理するなあ、神様も……。
「凛堂。ちょっと面を貸せ」
深刻な面持ちだ。もしかしなくても面倒なことになっているのは明白だった。
屋上に着くと木間はしばらく校庭を眺めていた。殴獄高校の、ではない。少し離れた桜国高校の校庭を、だ。その校庭では桜国生が陸上の練習をしている。とても華やかだ。あれ?おかしいな?なんか涙が出てきたよ?私もあそこにいるはずだったんだけど……。その後待ってたら木間は少し話し辛そうに切り出した。
「俺はこの間お前に言ったよな。面倒なことになったら責任を取ってもらうと」
「言われたような気はする。あの女の子が関わっているのか?」
「ああ、そうだ。アイツは……」
「ふふ、皆まで言うな。ズバリ!あの女の子はお前の彼女だな!」
「違う」
「ん?じゃあ、お前の妹?」
「違う」
「なんだ、ただのナンパか。ツマラン男ダナ~」
「違うっつーの!お前は……」
「ええっ!?まさか、お前のお母さん!?マザコンかよ」
「違うわ!お前は人の話を聞け!」
うん?何か雲行きが怪しいぞ……。
「じゃあ、何なんだよ」
「アイツは俺の……」
「あの子はお前の……?」
木間はそこで黙って俯いた。少しして絞り出すように言った。
「俺の……俺の、弟だ」