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4発目 騎士と姫 後編

 殴獄高校からバイクで一時間ほどの所に蛇腹が根城にしている廃工場があった。入間によると昔は自動車の部品を作っていたという。数年前に不景気のあおりを受け閉鎖されたそうだ。取り壊さずにいるから不良の巣窟になるんだよ。町に隙間を作っちゃダメ、絶対。廃工場の周りは静かだ。バイクを止めた松谷はすぐに飛び出した。


「おーい、すす……むぐっ!」


 私は素早くアホの口を塞いだ。松谷君?君は敵の本拠地で何やってんのかな?相手は歩けない女の子を人質に取るような外道だよ。私達がするべきことは薫ちゃんの救出でしょ。


「薫ちゃんを探すよ。静かにね!」


 私達は静かに辺りを探索し始めた。人の気配は感じない。どうやら蛇腹という奴、人望が無いみたいだな。無理もない。しばらく探しているとトタンでできた建物から人の声が聞こえる。私達は急いで近づき鉄製の引き戸の隙間から中を覗いた。岸那と蛇腹だ!


「はははは!どうした岸那!?手も足も出ねえか!?」

「ぐっ……クソが!!」

「んだと、てめえーー!!もう一度言ってみろ!倉庫にいる、てめえの妹をひん剥いて犯すぞ!」


 蛇腹が一方的に岸那をボコボコにしている。鉄パイプでだ。いかれてやがる……。妹を人質に取られて手が出せない岸那はただ耐えているだけだ。このままじゃ、まずいな……。松谷は今にも飛び出しそうだし……。


 私は辺りを見回した。妹は倉庫……あれか!塗装の禿げた屋根の建物。あれに違いない!


「松谷。わ……俺は薫ちゃんを救出してくる。お前はここにいて岸那がいよいよヤバくなったら行け!俺に一撃でやられたお前でも時間稼ぎくらいできるだろ?」

「な、なんかトゲのある言い方だが……おし、分かった!薫ちゃんを頼む!」


 岸那はいい友達を持ったものだ。そう思いながら私は倉庫目がけて弾丸のように走り出した。時間が無い!もし見張ってる奴が蛇腹みたいな外道だったら薫ちゃんの身が危ない。全力ダッシュで倉庫の前に辿り着くと中から声が聞こえる。


「ちょっとぐらい、いいんじゃないか?」

「ああ、どうせ蛇腹さんにヤラレちゃうんだからな……」


 私の中で何かが切れた。ブチッと音がした気もする。私は倉庫のドアをぶち破った。たぶんステンレスか何かだったと思うがドアの蝶つがいの部分が綺麗に壊れ、派手にぶっ飛んだ。それがそのまま中にいた男の一人に直撃した。今の今まで会話をしていた相手が突然吹っ飛ばされたことに驚いたのか、もう一人の男はこちらを睨んですごんだ。


「な、何しやがる!!この野郎!!」

「野郎じゃ、ねぇーーーーー!!!」


 間髪入れず私は男の鼻目がけて跳び膝蹴りをかました。私は女だ。そういう思いも込めて叩き込んだ。男は鼻血を派手に撒き散らしながら吹っ飛んだ。倒れた後はピクリとも動かない。白目をむいて失神してるな。


「ふーーーっ!」


 私は息を整えた。怒りが治まらない。しかし時間が無いことに私は気付いて我に返った。薫ちゃんを助けないと……。


「薫ちゃん!薫ちゃんは居るか?君のお兄さんに頼まれたんだ!」

「ここです……」


 声の方に顔を向けると倉庫の中央の柱に女の子が縛られている。まだ小学生くらいだろう。外道共が……。私は彼女を縛っているロープを解きながら声をかけた。


「大丈夫か?怪我は?変なことされなかった?」

「私は大丈夫……。でも、進お兄ちゃんが……」


 自分がこんな目に遭っているというのに……それでも兄を心配するか……。健気や、健気やなぁ。うう、私もこんな妹欲しかったな。


「大丈夫!君のお兄ちゃんは強いから!君の無事さえ確認できればね。さあ、行こう!」


 私は薫ちゃんを抱きかかえた。薫ちゃんは不思議そうな顔をして私を見ている。


「ん?どうした?どこか痛いのかい?」

「いえ、そうじゃなくて……」

「そうじゃなくて?」

「どうしてお姉ちゃんは女の人なのに男の人の格好をしてるの?」


 体が硬直してしまった。わわわわ……どうする!?


「ナ、何ヲ言ッテルノカナ?薫チャン。ワ……俺ハ男ダヨ?」

「え……そ、そうだったんですか?ごめんなさい。お兄ちゃんの顔があんまりにも綺麗だったから……」


 こ、この兄妹は……揃いも揃って……まったく!まさか、打ち合わせてないだろうな……。私は薫ちゃんを抱いたまま岸那のいる建物へと急いだ。


建物に近づくと松谷の姿が無い。飛び込んだか……あいつ。私は引き戸を蹴り開けて叫んだ。


「岸那!」


 蛇腹と岸那がこっちを見た。どちらも驚きの表情を隠せない。松谷は鉄パイプで殴られたのか、気絶しているな。


「誰だ、てめえ!?」

「凛堂……!?それに……薫!!」


 岸那……大分ボコボコにされたな……。あっちこっち血が出てる。顔も腫れ上がってるな……。折角の男前が台無しだよ。


「岸那!薫ちゃんは無事だ!!だから……」


 私は薫ちゃんを抱いたまま右手をグーにして岸那に突き出し親指を上に向けた。そして腕をそのまま蛇腹の方に向け、手のひらを返した。蛇腹をぶちのめせ!の合図である。岸那は軽く笑って立ち上がると蛇腹の前でかまえた。あいつの利き足は左なのか……。


「岸那……てめえ……」

「散々、人を殴ってくれたな……。最後くらいは正々堂々戦ってみたらどうだ?」

「ふざけんじゃねーーー!!」


 蛇腹は手に持っていた鉄パイプを振り上げ岸那の脳天目がけて叩き……込めなかった。その前に岸那のハイキックが蛇腹の後頭部を捉えていた。スゲー……あの距離で、しかも真正面から相手の後頭部に蹴り入れたぞ……。あいつの長い足だからできる芸当だな。哀れ蛇腹は意識を失って崩れ落ちた。岸那の完勝である。


「ぐっ……つつ……」

「進お兄ちゃん!」

「おい、大丈夫か?岸那」

「俺は……大丈夫だ。急所は外させたからな……。それより、凛堂……お前どうしてここに?」

「あそこに転がっているお節介焼きに頼まれたんだよ」

「松谷……」

「よかったな。いい友達がいて」

「ふっ……」


 これで全てが片付いた。岸那も薫ちゃんも……ついでに松谷も無事で良かったよ。



 次の日の朝のこと。私が登校すると校門の所で入間にあった。こいつ……待ち伏せしてないよな?


「蛇腹がパクられたぞ」

「蛇腹が?」

「あいつが今までやってきたことが明るみに出たらしい。まあ、自業自得だな。おそらく退学処分が下るだろうな」

「そうか……。ま、どうでもいいや」


 あんな外道は、どうでもいい。本当にそう思う。私が校舎に入ろうとしたところで見知った顔に声をかけられた。顔は結構腫れ上がってるけどな……。


「よう、凛堂!」

「ああ、岸那か。薫ちゃんは大丈夫だったか?」

「おう、あの後病院に行ったけど問題なかったぜ。むしろ、俺の怪我の心配をされちまった。」

「ははは、体中傷だらけだったもんな。それにしてもタフな奴だな、お前」

「体が資本だからな」


 やれやれホント逞しい奴……。私がそんなことを考えていたら岸那は急に真顔になって言ってきた。


「凛堂。今回は本当に世話になった。お前のお蔭で俺も妹も救われたよ」

「おいおい、気にすんなよ。困った時はお互い様だろ?」

「ああ。だから、この先お前に困ったことが起きたら何でも言ってくれ。必ず力になる!」


 ……熱い男だな。こっちが恥ずかしくなるくらい。男の友情?いいえ、私は乙女です。


 こうして私は岸那進という、何とも頼もしい仲間を手に入れたのだった。

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