(君・貴方)とは一生分かり合えない
とある貴族の、夫妻の話だ。
その夫妻は、社交界でも彼らの領地でも有名な、おしどり夫婦である。
そんな夫婦の日常を少しだけ覗いてみたいと思う。
「やあ、奥さん」
「あら、旦那様」
椅子に座って読書をしていた女性に、やってきた男性が声をかけた。
女性は本を机に置き、男性は女性と目線を合わせるために膝をつく。
「今日も今日とて、君は美しいね」
「貴方には負けますわ。本日も本当に素敵です」
夫妻はニッコリと笑みを浮かべて、言った。
「何人たりとも汚すことを赦されない絹のように美しく滑らかな白雪の髪、きめ細やかな白い肌、そしてそれらを映えさす煌煌としたルビーの瞳はどんな宝石よりも輝かしいよ」
「夜闇に紛れてしまうほどに濃く、しかし光を浴びればたちまち天使のごとく美しい光輪を浮かばせる漆黒の髪、褐色の肌はすべやかに燦々と輝き、金色の瞳は気高く猛々しくあられますわ」
夫妻は互いの頬に手を伸ばし、うっとりと、熱と甘美を含めた声音で言葉を滑らす。
「「ああ…
何て(君・貴方)は麗しいん(だ・でしょう)!」」
恍惚とした表情かと思うと、それは一変した。
「「それに比べ…」」
嫌悪を表した、苦虫を踏みつぶしたかのような顔で自分を見る。
「果てのない闇のように黒い髪に、爬虫類のような金の目、日焼けた訳でもないのに黒々しい肌…。何と醜いことか」
「老婆のように白い髪に、血の色の気味の悪い目、病人のように青白い肌…。美しくありませんわ」
「「………」」
夫妻は互いに目を戻して、見つめ合う。
「奥さん」
「旦那様」
そして、またもや口を揃えて言い放った。
「「やはり(君・貴方)とは一生分かり合え(ないよ・ませんわ)」」
これが、自分が大嫌いで、伴侶のことが大好きな夫妻の日常茶飯事なやりとりである。
「おや、坊っちゃま、お嬢様。何をしていらっしゃるのですか?」
「母上と父上を観察してるんだ」
「しぃー、なのっ」
「何でまた…。新しい遊びですか?」
「お祖父様たちが、ふたりのことを報告したらお小遣いくれるっていうから」
「何やってんだあのジジイ共」
「とうさまとかあさまはいつも仲良しなのねー」
「ねー」
「はぁ。お小遣いなら上目遣いでお願いすれば子煩悩なジジイ共はくれますから、ほら行きましょう。おやつの時間ですよ」
「おやつー!」
「今日は何?」
「今日はですねー……」
夫妻の部屋の扉の前から、黒髪に紅眼の少年と白髪に金眼の少女が侍女に連れられて離れて行った。
他作品であべこべカップルに萌えて、書きたくなって書いたら、何故かこうなった。
とりあえず、子ども天然可愛い。




