ジャスティスマン水の死闘!
「うーみーだー!」
瀬野莉多はトレードマークであるサイドテールを揺らし、花柄の可愛らしい水着姿で目の前に広がる風景を目にそう口にした。
莉多の目の前に広がるのは照明がぶら下がり、半透明な材質で出来た屋根を通して降り注がれる太陽の明かりの広がる空。防滑剤の含まれた塗料と滑り止めの役割も果たす細かい凹凸のある地面。そして消毒剤の匂い満点の人工の海だ。
子供のようにはしゃぐ莉多を見て、これを海と思ってしまうなんて可愛そう、これは本物の海を見せてあげなければと心に誓う寺子屋ゆかりだった。
「あらあら」
「ゆかり姉も笑っていないで訂正してよ!?」
「二人とも早くしてくれよ、こっちはチビ達が今にも飛び出していきそうで大変なんだから」
両手に腕白そうな男の子を二人抱え、人生に疲れ果てた顔をしているカールこと、カールがゆかりと莉多を出迎えた。彼もまた水着姿で、特徴も面白くもなんともない紺色の地味なハーフパンツ型の水着を履いている。
「チビを抑えるのはそんな大層な労力じゃないと思うけどなぁ!?」
「カールの名前ぐらいきちんと紹介してあげなさいよ!」
本日、クァールとセニョリィタと寺子屋ゆかり、そして学童保育施設『まくらぎ』に通う児童面々は周辺地域でも有名なレジャー施設へと来ていた。
「発音いいわね……というか、やすらぎね、やすらぎ。線路の土台みたいになってるじゃない」
莉多は子供達が走る人生のレールを支えるまくらぎ、なんとなくその施設の名前の由来を知った気がした。
「えぇー……」
ゆかりがくじ引きと大食い大会で得た賞品がこのレジャー施設の招待券で、いい機会だからと施設のレクリエーション行事の一環として遊びに来たわけだ。
そしてカールと莉多はゆかりが死闘を制し手に入れた商品を「ゆかりのものはゆかりのもの、俺のものはゆかりのもの」というゆかりニズムによって、招待券を奪ったのだった。なんと可愛そうなゆかりである。
「普通にゆかり姉が搾取する立場じゃない、それって!?」
「いいのよ、二人が居てくれた方が人手があって楽だし」
「とりあえず適当な場所に荷物置くぞ、もうチビどもも待ちきれないようだし」
大きな荷物を抱え、カールはプールから少し離れた場所にあるフードコートに向かった。
「ふぅー、とりあえず一息ついたらチー坊達に合流するか」
大きな荷物から開放されたカールは炭酸飲料水を口に含み椅子の背もたれに身体を預けた。
「そうね、いつまでもここで座っていてもね。ゆかり姉、私達も離れるけどいい?」
泳ぎたくてたまらないといった様子の莉多である。彼女の凹凸の少ない身体は水の抵抗少なくとても早く泳げそうだ。
「いいわよ、楽しんでらっしゃい。何かあったらすぐに教えてね」
水着姿のカールや莉多達と同じようにゆかりも水着を着てはいるのだが、最初から泳ぐ気が無いのか、パーカーを羽織っている。
「了解」
カールと莉多はゆかりにそう答え、席を立った。休日ということもあって人の数が多く、何か目印を覚えておかなければいざゆかりを探す時に時間が掛かりそうだということで、カールと莉多は周囲を見渡し、目印になりそうなものを覚えた。
「それにしても人が多いな」
「休日だもの、しょうがないわよ」
二人はよく訓練された忍者のようにスルリスルリと人を避けて歩いてゆく。そう、二人は忍者の末裔ではない。
「ッ!?」
「どうした、莉多?」
「いや、あの赤いキャップの人がこの前のあの変なのみたいに見えて、つい……ね」
「変なのって、ジャスティスマンか?」
「そうそう、一度あんな事があっちゃうと此処にも居るんじゃないかって思えちゃうのよ」
「ヒーローも大変みたいだなぁ」
カールと莉多は少し施設内を歩き回り、ようやく子供達と合流することが出来た。
施設内には流れる円状の大きなプールと面積では一番広い少しいびつな形をしたプール、子供用の水深の浅いプール、大きな波の出るプール、そしてこの施設の目玉といわれるウォータースライダーの五つがあり、子供たちと合流したのは波の出るプールだ。
二人をを見つけた子供達は一斉に飛び掛り、二人は元気の有り余る子供達の相手をするのだった。
カールと莉多は子供達と遊び、一時間ほど経過した頃だろうか、子供達は小腹が空いたと、ゆかりの元へと向かった。二人はその隙に子供達が居ては出来ない事を行うことにした。白昼堂々なんということだ。
「……まだ背が足りなくて滑れない子とか居るからね、こういうときじゃないと滑れないわよね」
「……あ、あぁ。此処に来たからには一度は滑らなきゃな、ウォータースライダー」
二人がウォータースライダーへ向けて歩いていると突如、施設内の照明が落ちた。
【見つけたぞ、ジャスティハートッ!】
「なっ、なに!?」
突然の事態にざわめく施設内。照明はすぐに復旧したのだが、高台に場の格好から浮いている格好の人物が立っていた。
一人は長い髪に、水中でも効き目が聞くようにと片目だけに付けられたゴーグル、そして均整の取れた四肢に露出の多いビキニ姿が眩しい女性。もう一人は全身を青いスーツで覆っている。そのスーツの色や形からはペンギンが彷彿される。
「あっ、あれはダークインモラルのヘルレディ!?」
もとはスリムでさぞモテたであろうこの男性、いまやその面影は見る影もなく、衰え脂肪のついた手でヘルレディーを指差し、脂肪を揺らしながら男性が叫ぶ。
その名前を聞いて施設内がざわめき始める。現れた二人は中年男性が言うとおり、ダークインモラルのヘルレディーとペンギンコマンドだ。
そう奴らが、地獄の使者が来たのだ。
「なんだって、噂には聞いていたが、本当にこの街にもダークインモラルが来たなんて!」
『我等が欲するのはただ一つ、ジャスティハートだ!』
ヘルレディはカールと莉多に向けて指を差す。
「なんと、まだ子供じゃないか! なんとむごい!」
【いけっ、コマンドペンギン!】
《承知!》
一度は倒れたはずのコマンドペンギンが再びカールと莉多に凶悪な牙を剥き、襲い掛かってきた。
『待てぇッ!』
絶望する二人に希望の声が聞こえてきた。そう、聞き間違えるはずもない。正義の使者、ジャスミンマンの声だ。
彼は二人の危険を察し、施設入り口から二人の元まで全力で走ってきたのだ。
『えっ!?』
「駄目よ、ここはプールサイドよ、学校の授業のときでもプールサイドは走っちゃいけないって言われてるじゃない!」
『し、しかし……う、うおおおおッ!』
走るジャイロマンに向け警笛が鳴り響く。流石のジャスミンマンも困惑し足を止める。
「プールサイドは危険なので走らないでください!!」
「ほら言わんこっちゃない! 私達の事はいいから、安全に歩いてきて! いくら地面がデコボコしているとはいえ、滑る場所は滑るのよ!」
《その通りだ!》
「コマンドペンギンもそう言っているんだ、焦らずゆっくりだ!」
『……わかった!』
ジャッキーマンは椅子の下などを潜り、なんとか二人の元にたどり着いた。
『待たせたな、二人とも! 私が来たからにはもう安心だ!』
「ちょっと、律儀に椅子の下なんて潜らなくとも……元々出っ張りが多くて色んな所に引っかかりやすいデザインなんだから椅子の下なんて潜れないでしょう! 椅子を肩車している状態みたいになってるわよ!?」
莉多は、『ジャイロ』マンの肩に引っかかっている椅子をカールと共に外した。
椅子という枷が外れた『ジャスミン』マンは肩を回し、体の調子を調べている……。
…。
……。
……ジャイロ……ジャスミン、いや、ジャッキー……。
「ツッコミが無いからって明らかにいじけられても!? めんどくさいわね!」
【現れたな、ジャスティスマン! コマンドペンギン、やれっ!】
《承知!》
『く、負けんッ!』
コマンドペンギンとジャスティスマンがお互いの手を握り力比べを始める。
『こ、この力……一度戦ったはずなのに、覚えがないだと!? 更に強くなったというのか!』
コマンドペンギンの進化した力にジャスティスマンは押され始める。
「前回、拳を交えてなかったと思うけどなぁ!?」
始めは互いの正面で組み合っていた手も、コマンドペンギンの力に押されている。押し曲げられた手では十分に力を出すことが出来ず、一歩、また一歩とジャスティスマンが下がり始める。
「まずいぞ、このままじゃジャスティスマンが押し倒されちまう!」
格闘技などの経験のないカールでもジャスティスマンがこのまま押され続ければどうなるのかは予想が出来た。しかし、押されているはずのジャスティスマンの瞳から希望という光は消えてはいない。
『ハッ!』
《むっ!?》
ジャスティスマンは一度、力を抜いた。ジャスティスマンの抵抗を計算に入れて力を加えていたコマンドペンギンのバランスが一瞬だけ崩れる。
『はぁぁぁ!』
ジャスティスマンにはその一瞬の隙があれば十分だった。コマンドペンギンの力を受け流し、素早くコマンドペンギンの身体を背負い、投げ飛ばした。
《油断した! 流石に陸の上での勝負では分が悪いか!》
コマンドペンギンは立ち上がると素早く身を翻し場所を移った。
『逃がさんッ!』
ジャスティスマンもコマンドペンギンを追う。
『……もう逃げられないぞ、コマンドペンギン!』
《我が策成れり!》
『なにッ!?』
ジャスティスマンが驚き足元を見ると、腰の辺りまで水に浸かってしまっていた。
《喰らえ!》
コマンドペンギンの強烈なストレートがジャスティスマンを襲う。
『ぐッ!? 一体どうしたというのだ、動きが、動きが鈍くなってしまった!』
「当然よ、そんな出っ張りのあるような刺々しいフォルムのアーマーなんて着けてたら水の抵抗を受けすぎるわ! そもそも着衣水泳なんて大変に決まってるわ!」
『しまった! まんまと罠にはまってしまったというのか!』
《勝機!》
コマンドペンギンの容赦ない攻撃の前に防戦一方となるジャスティスマン。なんとか反撃に移りたいのだが、水中での戦いとあっていつもの様な体捌きが出来ず、コマンドペンギンの動きの隙に付け込む事が出来ない。
『ハァ、ハァ……このまま水中で戦い続けていても消耗するばかりだ! なんとか反撃をする手立てを見つけなければ!』
《隙あり!》
『グッ!?』
コマンドペンギンの鋭い一撃がジャスティスマンの身体を捕らえる。強烈な一撃にジャスティスマンの表情もゆがむ。
「メット越しだから表情わかんないんだけどなぁ! というか、ペンギンの方もあれ実は防水加工なんてされてないただの着ぐるみよね!? もう水吸ってない部分と水吸った部分がツートーンになってるわよ! もしかしてジャスティスマンより動き辛い状態じゃないの、彼!?」
『はっ、これは!』
ジャスティスマンが視界の片隅にあるものを捉えた。ジャスティスマンは一か八か攻勢に転ずるための賭けをすることにした。
『タァッ!』
ジャスティスマンは水を掻き分け、陸地を目指す。勝利を確信していたコマンドペンギンはジャスティスマンにまだそれだけの体力があることに驚き、動きが遅れた。
「いや、あれ絶対スーツが水吸って動き辛い状態よ! それにそんな状態でチャンバラごっこなんてするから肩で息をするぐらいバテてるじゃない!?」
『ジャスティース・タランチュラウォーター!』
ジャスティスマンは素早く板をコマンドペンギンに投げつける。
《笑止!》
しかし、コマンドペンギンから受けたダメージが蓄積されていた所為か、狙いは甘く、攻撃はすべてかわされてしまう。
【勝負あったな、ジャスティスマン! とどめを刺せ、ペンギンコマンド!】
「え、ちょっと、無茶振り過ぎない!? 今ので勝負の決定打になるなんて事ないと思うけどなぁ! むしろ泥仕合に突入した感じよ、士国さん!」
『慌てるんじゃない、莉多君!』
絶望の淵に沈んでいた莉多の心をジャスティスマンが勇気付ける。そう、彼にはまだ切り札があったのだ。
『今のがジャスティス・タランチュラウォーターではない、本当の恐ろしさはここからだ! 周りを見たまえ!』
《これは!》
コマンドペンギンの周り、そして陸地から水面までジャスティスマンが投げた板……ビート板が浮かんでいる。
『そう、これが、ジャスティスタランチュラウォーターの真髄だ!』
ジャスティスマンは加速をつけ、次々にビート板を足場にし、水の上を駆けてゆく。そしてコマンドペンギンの正面で高く跳ぶ。
「や、やってることが中学生とか小学生レベルよ!」
『正義水蜘蛛飛び蹴りィィィィィッ!』
《不覚ッ!》
【コマンドペンギンッ!】
『これで、終わりだッ!』
ジャスティスマンはコマンドペンギンを背負い、陸上へと投げ飛ばす。これでようやくペンギンコマンドが得意としていた水中戦から陸上戦へと引きずり上げることが出来た。
「言うほど得意だったかなぁ!?」
『たぁぁぁっ!』
陸上に戦いの場を移してからはジャスティスマンのターンだ。やはり水中戦を得意としていたコマンドペンギン、陸上戦には不慣れのようだ。
「いや、ただ単にあれ、スーツが水を吸いすぎて上手く動けないだけじゃない!?」
「いける、いけるぞ、ジャスティスマン!」
『おおおっ! これで、とどめだぁぁ!』
ジャスティスマンがコマンドペンギンを倒そうと拳を振り上げた時、ペンギンコマンドの目が怪しく光った。危険を感じたジャスティスマンは攻撃を中断し、防御の構えを取る。
『なにッ!?』
「えぇーっ!? 全然そんな素振り見せてないわよ!? むしろ格闘ゲーなら頭の上に鳥が飛んだり、星が回ってる状態、完全にグロッキーモードよ!?」
《こ……好機!》
やはり予想通り、ペンギンコマンドは奥の手を隠していたのだった。ペンギンコマンドの思わぬカウンターを喰らい、形勢逆転してしまう。
「今の完全に邪魔したわよねぇ!? 今普通に倒せる流れだったわよ!」
『ぐあああああっ!!』
成す術なく一方的に攻撃を喰らうジャスティスマン。一瞬の油断が命取りである。その原因を作ることとなってしまった莉多は心を痛ませる。私があの時邪魔をしなければ――と。
「メッチャ冤罪、メチャ冤罪!」
【これで終わりだな、ジャスティスマン! とどめだ、コマンドペンギン!】
《承知!》
薄れゆく意識の中、ジャスティスマンの瞳に映る二人の姿。
そう、ジャスティスマンが倒れれば、カール、莉多、二人のジャスティハートは奪われてしまう。そんな事、させるわけにはいかない。たとえ、この身が滅びる事となっても。
「そういえばジャスティハートとか、全力で私達の理解を置いていってるわよね!?」
『こ、ここで倒れるわけにはいかない! 私を信じてくれているカール君や莉多君のためにも!』
ジャスティスマンが気力を振り絞り、ペンギンコマンドの一撃を受け流す。その時、ジャスティスマンの身体に変化が起きる。
『こっ、これは!!』
ジャスティスマンの身体は輝き、そして徐々に光が収まってゆく。
『そうか、カール君や莉多君の正義を信じる心が私に力を与えてくれているのか! これならいける!!』
ジャスティスマンが気合を込めると肩や腕、足のアーマーがスライドした。アーマー内から強大な熱が生まれているのか、スライドし開いた場所からは熱風が吹き出ている。
『これが、闇を打ち払う正義の光……』
【くっ、これはまずい、いでよ!】
ヘルレディはジャスティスマンが放つ光に危機感を覚え、腰にぶら下げていた球をビート板へ向けて投げる。
『ジャスティィィス・フラァァァッシュ!』
目を覆いたくなるような光が辺りを包む。
「や、やったのか!?」
カールが恐る恐る目を見開くとそこには、
「ッ!」
《ウォールコマンド推参!》
両手に大きな盾のような物を付けた怪人が傷ついたコマンドペンギンやヘルレディを庇うように立っていた。
「な、なんだって!」
『く、まさかもう一体だと!』
流石のジャスティスマンもこれには動揺を隠せない。
【助かったぞ、ウォールコマンド!】
《それはよかっ……》
ぐらりと体勢を崩すウォールコマンドをペンギンコマンドが支える。
《ウォールコマンド!》
鉄壁の防御を誇るウォールコマンドといえども、ジャスティスフラッシュの威力を殺す事は出来なかったらしく、大きなダメージを負ったようだ。
《まだ、ワイは戦える!》
【……無理をするな、ウォールコマンド! ここは一旦退き、体勢を整えるぞ!】
「えっ、なんなの、なんなの、この展開! 付いていけないんだけど!?」
『まっ、待て……グッ!!』
「ジャスティスマン!」
逃げるヘルレディ一行を追おうとしたジャスティスマンがよろめく。彼もまた大きなダメージを負っている。彼にももう今は戦う力は残っていないのだ。
『く、ヘルレディ……』
苦悶に歪むジャスティスマンの表情を見て、莉多は更なる戦いの予感を募らせるのだった。
「え、なんか物語加速してない!? ねぇ!?」
正「結局今回俺、名前で呼ばれませんでした」
莉「むしろそれは今回のギャグだと思うの。前回とか地で絶対正佳だったし」
ジ「というか今回もカールの謎が……」
正「もう答え合わせとか要らないんじゃね?」
莉「連想だしねぇ……というか、最近酷いと思うの!」
ジ「更新頻度という事かな?」
莉「それもあるけど内容も!」
正「いやーこれはもう期待する方が無理だと思う」
莉「ですよねー!」
ジ「さて、そろそろお別れの時間だ! 次回また会おう!」
莉「次は何ヶ月先かしら。別方向でもなかなか書きあがらないって話しだし。もうじき別作品の話書き終わるぽいから着手はその後じゃない?」
正「出来るだけ早くしてもらいたいものだなぁ」