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魔導戦記リザレクション  作者: Lass
第一章 復活のプレリュード-prelude of resurrection-
5/41

5

再び、放課後。

魔導に関する授業と、それとは別に行われる一般的な授業。単位数こそ少ないが、果たしてこんな数学や日本史が役に立つとは思えなかった。

一般常識くらいならいいだろう。しかし、世界が下手したら無くなるって時に、大昔の日本について学んで何になると言うのだ。

それこそ、世界は滅ぶから歴史を学んで懐かしむとでも言いたいのか?

恭弥は、授業中はそんな事を考えて時間を潰していた。

それに、実を言うと魔導に関する授業も大したものではない。恭弥達のように元々素人でない者達にとっては基本的な、それこそ小学生で習う九九のようなレベルのものだ。

あくまでも、素養だけを持った全くの素人も生徒には含まれているため仕方ないとは思うのだが……実力に応じたクラス分けをするべきではないだろうか。

そこまで考えて、思った。

(あぁ、そのための序列や、模擬戦か。あれはきっとこれからのクラス分けの参考にもなるんだろうな……)

さらに恭弥は教室を見渡して、考える。

ここ何日間かの授業を見た限りだと、このクラスには実力者と言えるほとの者はほとんどいなかった。

あくまで恭弥が気づいたレベルだと、アリカを除くと三人って所だろう。

神宮雛、一之瀬玲二、そして鈴宮光すずのみやひかり

薄い茶髪がかった髪に軽くパーマをかけていて、体格は小さい。

せいぜいアリカより少し大きいぐらいで中学生くらいにも見える。

そして、クラスではとても静かで、誰かと話している所は見たことが無い。いつも何かしらの本を読んでいるようだ。

雛と一ノ瀬はある程度の実力を持った上で隠しているのがわかるが、この鈴宮光の意図は全くの不明。

時折彼女からはとんでもない"チカラ"の波長を感じられる。

だというのに実力は不明、これほ一体どういうことだろう……

「帰ろうぜ、恭弥」

「……っ!」

そんな事を考えながら既に帰宅した鈴宮の席を眺めていると、その思考を遮るようにして一之瀬に話しかけられた。

「おいおい、そんなに驚かなくても」

「うるせえ」

急に驚かされたのもあり、恭弥は不機嫌そうに返答する。

「それにしても、ずっと"彼女"の席を見てたようだけど、どうかしたの?」

「……何の話だ?」

「またまた、見てたでしょ。 鈴宮さんの席。もしかして恭弥ってああいう静かな子が好みだったわけ?」

「ちっ、すぐそうやって恋愛に結びつける思考、これだからリアじ……中高生ガキは嫌いなんだ」

「現役中高生の台詞とは思えないなー」

「いいだろ、俺はそういうの好きじゃねぇんだよ」

「あー、まぁ確かに恭弥にはメインヒロインがいるもんねぇ。ロリコン君」

「誰がロリコンだ、そして誰がメインヒロインだって言うんだよ」

「……ネタだよね? 本気でわかってなかったら正直ドン引きかな。……はは」

「あぁ、ったく何なんだよ。帰るんじゃなかったのかよ?」

「……そうだね、彼女も待ってるようだし」

言われて、教室の外に目をやると、そこにはアリカがこそこそと隠れるようにして待っていた。

「なんで隠れてんだよ……」

と、恭弥が呟く。

すると、アリカが今度は大きな声で、こちらを呼ぶ。

「恭弥! 早くかえろーよ!」

「はいはい、言われなくても帰るっ……て、の?」

その時だった。

廊下の方で、悲鳴と、ガラスが割れるような音が聞こえた。

当然、アリカのものではない。方向的に隣のクラスの前の廊下辺りだろうか。

恭弥、アリカ、一之瀬はその悲鳴を聞きつけて音源へと向かう。

するとそこには、倒れ伏せている同学年の男子生徒と、それを見下ろす体格の良い男。

こちらはおそらく上級生だろう。

倒れ伏せている男子生徒に駆け寄る近くの女子生徒。彼女はすがるような目つきで上級生に言う。

「もう止めて下さい! これで十分でしょう?」

そんな女子生徒の訴えに、その上級生はニヤニヤとした表情で応える。

「そうだな、確かに十分だ。お前は殺される程の事をしたわけじゃあない。だがな……」

上級生は高圧的な態度をやめず、未だにその二人の生徒の前に立っている。

当然、このような状況で間に割って入れるような奴はいない。

自分に矛先が向くのが恐ろしいから。だからこの場を立ち去ることも出来ず、ただ、立ち尽くす。

そんな緊迫した空間で、恭弥は小声で一之瀬に尋ねる。

「なぁ、あの偉そうな奴は何者だ?」

「僕にそれを聞くかね、まぁ一応知っているよ。確か逆髪隼人さかがみはやと、序列は二十位ちょうどだったはずだ」

「ちっ、上位ランカー様かよ」

この学園には現在千人近くの生徒が通っている。

ほとんど素人も含まれているとは言え、上位の序列を持つ者は相当の実力者なのであろう。

(そんな上位ランカー様が、後輩の、弱い者イジメとはねぇ)

「が、この学園において序列は絶対だ、先輩に逆らうってのがどれだけ愚かな事なのか周りにも見せてやらないといけないからなぁ」

「ひっ……」

「お前が代わりに俺の相手をしてくれるんなら、そいつは許してやっても構わないが?」

逆髪は、その爬虫類のような瞳で、女子生徒を見つめながら言う。

なるほど、大体状況は掴めた。

女子生徒と男子生徒の関係を見る限りだと、

大方廊下でイチャイチャでもしてたところを、上級生に目をつけられたってところか。

(これは微妙だな〜、この学園に入って、そんな所構わずイチャイチャするような意識の低い奴ら、自分らが悪いってのも少しはあるよなぁ……)

まぁでも、と、恭弥はゴソゴソとポケットに手を突っ込みながら思った。

モテない男の僻みにしては、少々やり過ぎだし、こんな所を上級生が歩いてる時点で、俺達新入生を黙らせるのが目的ってのもあるだろう。

……こいつは、楓の言ってたような、つまるところクズか。

いきなり上位ランカーを相手にするだけの実力が、俺には果たしてあるのか?

チラ、とアリカの方を見る。

するとその時には既にアリカは飛び出して、立ちふさがる。

二人の生徒の前に、両手を広げて。

「さすがにやりすぎかも!!」

「何だこの子供ガキは?」

「あー! ガキって、言ったー!」

アリカは例によって憤慨しているが、逆髪はまるで気にしていない。それどころか、

「さっさと消えろよ」

「…………っ!?」

アリカの二倍はあるであろう太さの腕を振り回し、アリカを払うように攻撃する。

アリカも当然防御するが、体格の違いもあって足の踏ん張りが効かない。

アリカはこちらに向かって吹っ飛ばされてくる。

「いっ……たぁ……」

細い腕をさすりながら、アリカが声を上げる。

別に心配をしてたわけではない、だが、アリカが殴られたとなると話は変わってくる。

その単純な結果だけで見ると、逆髪隼人……クズじゃ済まされない事をしてくれた。

脳内を何か熱いものが駆け巡る感覚、この湧き上がる感情は一体何だ?


「……殺しちまうか?」


「何か言った?恭弥」

アリカに言われて我に帰る。

一応ピンピンしている彼女を見てなんとか落ち着きを取り戻した恭弥。

しかし、彼の内に秘めた闘争心は……もはや完全に燃え上がってしまった。

「いやいや、何でもねぇよ。ただ、今回は俺に任せとけよ。アリカ」

言って、恭弥はつかつかと争いの真っ只中へと歩を進めていく。

隣にいた一之瀬にだけには、その瞳が、普段よりも輝いているように見えた。


「おい」


空気が、止まる。

緊迫した雰囲気を斬り割くのは、恭弥の人並みの正義感。

「何だお前?」

逆髪が、怪訝そうな表情で尋ねる。

だが、恭弥はそれを無視して倒れ伏せている男子生徒の手をとって立たせてやる。

「大丈夫か?」

「あ、ありが、とう」

苦しそうだが、目立った傷は見当たらない。恭弥はそれで安心したのか、その男子生徒を女子生徒に預けて、言う。

「一応、保健室行った方がいいぞ。それと、変な教員がいるけど、そこは気にすんな」

「てめぇ……俺を無視して話を進めてんじゃねぇよ……」

「アリカ、 帰るのはちょっと待っててくれ。掃除当番を代わってやる事になっちまった」

「あぁ……!?」

逆髪が激昂する。が、恭弥は相変わらずそれを無視して堂々と佇む。

それどころか、無防備にも背を向けた恭弥に、逆髪が大きく振りかぶった拳を放つ。

恭弥は、その拳を避ける事はしなかった。

右手で掴むようにして受け止める……かのように思えた。

「がっ」

短い呻き声と共に、恭弥がよろける。流石の上位ランカーか、素手でも魔力が通ってやがる……!

「どうした? カッコ良く割り込んできた割には、大したことねぇなぁ!?」

「はっ、上位ランカー様が、後輩イジメに勤しんでるよりはマシだよ」

「へぇ、俺の序列を知ってて、それでなお、俺の前に立つかよ」

それなら、と逆髪は距離を取ると、戦闘態勢になって言う。

「やるな、いいね、その無謀さ。気に入ったぜ」

「男は趣味じゃねぇよ死ね」

「馬鹿が、後悔しても知らねぇぞ?」

おそらく、武器を出してくるか、呪文かの、どちらかだろう。

これはつまり、決闘だ。

魔導師同士が、互いの力をぶつけ合う戦いだ。

「来やがれ『戦斧-金剛ヘルベルト-』!!」

詠唱と同時に、逆髪の右手に巨大な戦斧アックスが握られる。

武器の召喚は、確かに早かった。

しかし、それ以上に力が強大だった。その滲み出る魔力は、確かに授業なんかで目にするものとは異なっている。

だからこそ、こちらも抜く。

「解放、『七天白鬼しちてんびゃっき-霧雨きりさめ-』」

鋭く、白く光る刀が恭弥の手に握られる。

そうして刀を構える恭弥に、逆髪は嬉しそうに言った。

「抜いたな? お前。それはもう完璧な反逆だぞ、俺に殺されても仕方がないレベルのなぁ!」

「なら、やってみろよ。腰抜け」

「――――っらぁ!!」

恭弥が答える直後に、その巨大な戦斧が横一文字に振られる。

恭弥はそこまで広くない廊下で、壁を蹴ってその一撃を避ける。

そして、その一撃は壁を砕き、生じた衝撃波が辺りを襲う。

『きゃあっ』

悲鳴が聞こえるが、怪我するほどのものではないはずだ。

それに、悲鳴を上げられる程度には野次馬連中も余裕だということだろう。

恭弥は逆髪に聞こえるように、

「へぇ、こいつは驚いたな」

「何がだ?」

「これほどの威力があるとは思ってなかった。この学園の中じゃあ結界で魔力は抑えられてるし、校舎の造りだってそういった対策はしてるはずだからな」

恭弥は壁をコンコン、叩きながら、不敵に言う。

「凄い武器だ、使い手が残念な事を除けばな」

「あ、ん、だと?」

「言葉が通じないか?」

逆髪は高く戦斧を振り上げると、その腕力でもって回転させる。

そのたびに、天井を擦る刃が、校舎に傷をつけていく。

幾度と恭弥に振るわれる刃、しかしその一撃として恭弥を捉えることは無かった。

「ちょこまか逃げてんじゃねぇぞ!!」

「だったら当ててみせろって」

「そうか、ならこれならどうだ?」

「何?」

逆髪は一旦戦斧を下ろすと、居合いのような構えをとる。

「カウンター狙いか?」

「そうじゃあない」

意図も不明、それとも挑発なのだろうか。

乗ってみるか……と思って踏み込んだ瞬間、逆髪はこちらに向かって飛び込んでくる。

スピードは大したことなかった。

しかし、恭弥は気づいてしまった。

……避けられない。

背後には野次馬や、アリカ達が。

そう思った恭弥は、やれやれといった調子で足を止めて。

次の瞬間、鋭い斬撃音と共に互いの刃がぶつかり合った。

すると、逆髪だけが驚いたような表情で言った。

「受け止めた……だと?」

「何だ、こんなもんか」

恭弥はそのまま、戦斧を弾くと、逆髪の視界から消え去る。

目で追おうとした時には、もう遅かった。

「ぐ、があああああああああああああああああああああああああ!?」

左腕を突き刺されるような痛みが襲う。見ると、恭弥の刀が実際に突き刺されていて、鮮血が床に散らされる。

「今のはアリカの分だぜ」

その呟きを受けて、アリカ本人は少し大袈裟だなぁと感じていた。

逆髪は痛みを堪え、残った右手で戦斧を振るうも、当然当たらず、恭弥の姿を再び見失う。

そして、背後に気配を感じ、振り返ろうとした時には、首元に刃を突きつけられていた。

「終わりだな」

両者の動きが、止まる。

決闘的には、恭弥の勝利という結末で。

計画通りだ、とも思った。

最初の一撃、相手は本気じゃなかった。だから、受け止めるどころかその反撃で終わらせることすら出来た。

ただ恭弥がそれをしなかったのは、逆髪の本気というのを見ておきたかったから。

少しでもビビらせて、決闘を相手が渋るような状況を避けたがったが故に。

後輩イジメに勤しむようなクズだ、こちらが弱みを見せれば乗ってくると、恭弥は確信していたのだ。

本気に対して、本気でねじ伏せられる。これ以上の屈辱は無いであろうから。


しかし、首元に刃を突きつけただけでは終わらなかった。

あくまで決闘、命のやり取りをしているつもりはなかったというのに。

「舐める……なっ!!」

戦斧を振り上げて、後方に落とす。この単純な動作をも攻撃に転じさせるほどのパワー。それがこの男にはあった。

恭弥はそのまま首を斬り裂くわけにもいかず、さらに後方へ跳んで回避。

「これで俺を倒したつもりか。実戦ならそんな脅しは通用しねぇぞ?」

息を荒げながらも、未だに戦闘態勢を取り続ける逆髪。

今回は、逆に驚かされたのは恭弥の方だ。

「何だ、そんな風に思ってる奴もいるんじゃねぇか」

確かに実戦なら相手は人間でないのだから、生かす理由なんて塵程もありはしない。

仮に、人間が相手だろうと、戦場で敵を見逃すような馬鹿は生き残れない。そういうことなんだろうか。

「いいぜ、そっちがその気なら仕方が無い……証人もいるし、俺が殺人犯にされる事もないだろうなぁ!」

再び、先ほどまでとはまた違った緊張感が漂う。恭弥を少なからず応援していた周りの生徒達も、

ある意味ではもう止めるべきだと考え始めたのではないだろうか。

そこへ、


「何をしている、逆髪」


『……っ!?』

声が、した。

そして、恭弥も逆髪も同じ方向を見る。

すると、そこに立っていたのは一人の男子生徒。

その放っている殺気から、近くの野次馬とは違う人種だとはっきりわかる。

日本人では、無い。髪こそ黒かったもののその赤い瞳は間違いなく英国の……、

そして、逆髪がその男の名を、呼ぶ。

「デル、ヘイン……!」

「止めておけ、こんな所で本気で戦って、ただで済むと思っているのか」

「黙れよ……俺は今こいつと……」

そうして、逆髪が忠告を無視して、恭弥に襲いかかろうとした時。

「がっ……!!」

デルヘインと呼ばれた男は逆髪に何らかの攻撃を放ち、恭弥との間に割り込む。

「俺に逆らうのか? こっちはせっかくお前が"本気じゃなかったって事"にさせてやろうと思ったんだぞ? しかし残念だな、これでお前の器は知られた、底は暴露されたぞ、馬鹿が」

「て、めぇ……!」

「何だ、それとも、俺が"トドメ"を刺してやろうか?」

そう言ってデルへインが動き出そうとしたその時、

「待てよ」

恭弥が、刀を握り直してデルへインを制する。

「こいつを庇うつもりか? それにしても随分と惨めだな、負けた上情けをかけられるな……」

「違ぇよ、次はあんたが相手になってくれるのかって事だ」

恭弥は、デルへインの言葉を遮って宣言する。

「……ほう?」

「そいつも言ってたぜ? この学園じゃ序列が全て、つまりあんたに俺が勝てば好きにしていいって事だろ?」

恭弥の言葉に、呆気に取られたデルへインは笑みを浮かべながら尋ねる。

「貴様……名前は?」

「柊恭弥」

「俺はデルへイン、デルへイン・ジークフリードだ。ちなみに序列は六位」

「六位……だと……?」

「悪いが、こんな雑魚と一桁台を一緒にしてもらっちゃ困るな。二桁台なんざ俺らから見ればそこらの野次馬共と大して変わらん」

デルへインはそう言って野次馬連中を指さす。

しかし、そんな言葉を聞いても刀を下ろさない恭弥を、一之瀬が制する。

「そういう事だ、だから今日は退くべきだ。恭弥」

「一之瀬……!」

「俺にも見てわかる、今倒した逆髪とこの男とじゃレベルが違い過ぎる、勝ち目は無いぞ」

やってみなければわからない、そう言いかけて、止める。

さらに野次馬が集まってくるのが見えた。

確かに、これ以上目立つのも、実力を晒すのも出来れば避けたい。

「こっちの奴は少しは賢いみたいだな、そういう事だ。こちらも退かせてもらうぞ」

デルへインは、逆髪を抱えて立ち去ろうとする。

去り際に、彼の腰のホルスターが見えた。

(銃…………?)


二人が去ると、そこに元からいた野次馬連中は恭弥に向かって喝采を上げる。

結果的に、同学年の生徒の危機を救ったのだ。

「ちっ、うるせーな……」

「恭弥ー!!」

「ごはぁっ!!」

アリカがとんでもない跳躍で恭弥に飛びついてくる。

緊張で弛緩していた身体に、突然の衝撃が襲う。

雛がいなかったからよかったようなものの……、

「でも恭弥、よかったわけ? 実力を隠しておきたいーとか言ってたじゃん?」

「……ぐ、まぁ仕方ねぇだろ。緊急事態だったし」

頭をかきながら明後日の方向を向く恭弥。確かに自分の実力をある程度知られた。そもそも何でこんな事になったのだろうか?

そんな事を考えている恭弥に、アリカは笑顔でこう言う。

「でも、私が軽く殴られたからって、わざわざ前に出て行った恭弥、まぁいつも通りでかっこ……」

「あぁうるせぇうるせぇ! 勘違いすんな、俺はああいうイジメまがいの事が大嫌いなだけだ!」

アリカの言葉を遮って恭弥が、顔を真っ赤にして、わめく。

一ノ瀬はそんな光景を見ていつも以上に微笑んでいた。

「おいてめぇ一之瀬、何笑ってやがる」

「え!? いや、別に〜?」

わざとらしく吹けてもいない口笛をする一之瀬。

「……うぜえ」

恭弥が呟くと、背中に張り付いていた少女が、耳元で声を上げる。

「恭弥! 早く帰ろうよ!」

「……わかってる!」

ちなみに、傷ついた壁とか、割れたガラスはどうするのだろう。

そもそも、これだけの騒ぎが起きていて教師陣が一人も来ないというのも不自然である。

まさか…………な。

恭弥はそんな事を考えていた。

アリカの事があったとは言え、こういう時の学園側の対応の仕方を見る実験にもなったのは、ある種結果オーライという事にしよう。

というか、そうでも考えないとやってられねぇ。

果たして明日から今まで通りの生活が出来るのだろうか?

少なくとも、生徒達の視線が変わるのは間違い無いが。

「恭弥、おいしいたこ焼きさんがあるって友達が教えてくれたんだけど」

「お前はいつも通り過ぎる、怪我はねぇ……だろうな」

「まぁね、鍛え方が違うかも!」

アリカの細くて白い腕を見る。

素手とはいえ威力はあった。

こちらだって素手で受け止めようとした際の、右手にはまだ痛みが若干残ってる。

しかし、アリカの方を見ると、まるで何もなかったかのように、元の綺麗な細腕が覗かせていた。

「……たこ焼きか、たまにはおごれよ」

「えー! 今日だけだからね?」

「け」


久しぶりに、刀を抜いた気がした。

もしかすると、平和ボケをしていたのは俺の方だったのかもしれない。

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