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魔導戦記リザレクション  作者: Lass
第一章 日常と暗躍-Life and shadow-
38/41

3

金髪の髪を逆立てた少女の脅威から逃れるために、恭弥は学生食堂の方まで逃げて来ていた。

(……は、はぁ。何で俺の平和な日常ってやつはこう……どうあがいても大変な目に遭うように出来てるんだろう)

日常パートというのも、何だかんだで楽なものではない。唐突に起きるイベントや、フラグを立てる事には全く繋がらない騒動に日々巻き込まれていては身体が持たない。

これでも、精神を削るほどの、命がけの戦いよりは何百倍もマシなのだから困ったものだ。

ふと時計を見ると、昼休みも既に半分近くが終わろうとしていた。そういえばまだ昼食をとっていなかった。

今日はアリカが珍しく体調を崩し、学園を休んでいるため教室でさっさと昼を済ませておきたかったのだが、どうやらそうもいかなくなってしまった。

(ちっ、仕方ないからここで昼にするか……別に一食ぐらい抜いてもいいんだけどな)

だが、そんな気分は学食から漏れ出てくる、美味そうな匂いによってかき消された。

空腹で腹が鳴る、という経験は実は生まれてから今までした事がなかった。

しかし、そんな生理現象(?)よりもわかりやすく、自らの足が自然と食べ物の方へ向かう感覚は何度も感じた事があったし、今はまさにそんな状況だ。

(とはいっても一人で学食ってのもなぁ、一之瀬辺りを誘えばよかったんだが……最近あいつどっかに消えてる事が多いんだよな)

空腹か、羞恥心か、こういった時にどちらを取るべきとは決められないが、実際の所学食のような食事処で一人飯を食べるというのはそこまでおかしい事ではない。

食事くらい一人で落ち着いて食べさせて欲しいと思う者もいるだろうし、食べる時間が惜しいならなおさらである。

結局、空腹に勝る恥などといったものが恭弥の中で勝利する事はなかった。

そうして、仕方ないか、と内心で呟きながら恭弥は学食に足を踏み入れた。

すると、昼休みが半分ほど過ぎていたのが功を奏したのか、座って食事をしている生徒の数はちらほらと、数えられる程度しかいなかった。

部屋全体が騒がしいという事はなく、適度に閑散とした状態。食事にはちょうどいいくらいだな、と恭弥は思いながら食券の券売機へと足を運ぼうとする。

と、そこで恭弥はふと足を止めた。

別に券売機の場所がわからなかったわけではない、普通に見ればわかる所に置いてある。

恭弥が動きを止めたのにはもっと明確な理由があった。


――――――――視線だ。


しかもそれは、どう考えても好意的なモノではなかった。

愛の告白を考えた女子からの羨望の眼差しでもない、当然男からの羨望でもない。

だからと言って、まるで刺すような、ターゲットに向けられる殺気交じりの視線でもない。

言うならばそれらの中間、本当にただこちらを観察しているだけ、という目障りで不快感を感じさせる視線である。

さらに不思議で、不自然な点がある。

俺に気づかれる程度の尾行なら、なぜもっと早く気付かなかったのだろうか。

この食堂にいた者によるものなら入った時点でわかる。

その前から俺を尾行していたならば今さらになって察知出来たのはおかしい。

これらの事から考えられる結論は一つだった。

恭弥は踵を返すようにして入口まで戻っていく。その過程で、入口付近に座っていた男……髪は闇のように黒く、鋭くも赤い瞳を覗かせた男の向かいの席へと、腰掛ける。

「俺に何か用か?」

腰掛けると同時に、恭弥はそう言い放った。

「やっと気づいたか」

デルヘインも不遜な笑みを浮かべながら言葉を返す。まるで待っていたとでも言いたげな表情をしている。

「さすがにそんな露骨に気配を出してくれれば、ガキだって気が付くさ」

「気づかせてやった、という事には気づいているか?」

「当たり前だろ」

二人の会話は、声色こそ大人しいが、その瞳の奥には隠した表情、感情を押さえているのが窺える。

そうして睨み合った後は、デルヘインの方が目を瞑り、話を切り出していく。

本題に入らせてもらうとでも言うようにして。

「一ヶ月程度だが、平穏な日常って奴は楽しめたか?」

「……どういう意味だよ」

「そのままの意味だ、平和なものだっただろう。学園側の動きも特に感じられず、社会的にも、大罪種の襲撃もあれ以降無い」

「確かにそうだな」

「おかしいとは思わなかったのか? 疑問は感じなかったのか? あれだけの事があった後で、"何故か平穏な生活を送れていた事"に」

「……………………」

恭弥は苦虫を噛み潰したような顔で、デルへインの言葉を聞いていた。

「ちなみに、そろそろだ。早ければ今日から始まるかもしれない」

「次は、一体何が起きるって言うんだ」

言いながらも、恭弥の表情は険しいものになる。場合によっては、"ただではおかない"と。

「安心しろ、何かが起きるとしてもそれは学園の中での話だ。そもそも外の事なぞ"俺にも想像もつかん"」

「ふざけんな……! 学園の中だろうと外だろうと関係ねえ。それに、俺達の学年はまだ素人と変わらない奴が殆どなんだぞ」

恭弥が声を荒げながらそ言うと、デルヘインはフ、とだけ短く溜め息をつきながら返す。

「『排斥計画イクスプロジェクト』」

「……?」

「学園上層部が出した計画プロジェクトの名称だ。概要は何となく想像がついているかもしれないが、お前たち日本製の魔導師達はせいぜい背後に気を付けろ……としか言いようがないな」

「俺達日本人は……学園から弾き出されるって事かよ」

「いいや、それは少し違うな」

「何?」

「この学園にとって邪魔なのは、あくまでお前達のように"家"の意向通りに動いている……日本製の魔導師だ。元々一般人だった連中は関係ない」

そう、そんな連中はむしろ魔導の力を磨きに来ているだけだ。この学園にとって不利益には決してならないだろう。

だかろこそ、学園のシステムを狙う『御三家』の息がかかった者だけが、邪魔であり脅威なのである。

「なるほどな、でも俺は『御三家』とは無関係だぜ? 当然アリカもな」

恭弥が、ふと思い出したように言う。

しかし、それを聞くとデルヘインはクク、と妖しく笑う。

「いや、お前達は別件であり、特別なイレギュラーだ。計画には当然組み込まれているぞ」

「何だと……!?」

「お前はもう少し理解した方がいい。自分が、自分の周りの人間がどういうモノなのかを……そして気づくだろう。この騒乱の中心にはいつだって自分達が含まれているという事に」

「意味がわからねえんだよ」

「悪いが、これ以上を語るわけにはいかない。それよりも、仲間を護りたければさっさと戻ってやるんだな」

デルヘインは、時計を一瞥しながらそう言った。

その他人事のような言動に、恭弥は憤りを隠せない。

「一之瀬の居場所はわからない……だとすれば、雛の事を言ってんのか」

昼休みも、気が付けば殆ど終了している。

仮に、この計画とやらが既に動き出しているのだとすると、最も英国に対して敵対意識の強い……『神宮』である雛が最初に狙われるのだろうか。

だが、その前に一つだけ気になった事があった。

この疑問だけは、恭弥も自分の中で解決するには情報が少なすぎる。

「最後に、一つだけ聞かせろ」

「?」

「お前言ったよな、俺も計画の中に含まれているって。だったらどうしてだ? どうしてわざわざ俺に情報を流すような真似をした?」

「…………俺の目的と、学園側の計画は"表向きには"異なるからだ。そのために、お前は利用出来る」

「俺を使って、アリカを動かそうってか。そんなにアリカの力を利用したいのか? 確かにあの才能はとんでもないものだと思うが……」

恭弥が言い終わらないうちに、デルヘインは被せて言った。

「暁アリカ……彼女はとんでもない存在であり化け物だ。お前の言う通り"アレ"にはそれだけの価値もある」

「てめえ…………!!」

「だからこそ、一番近くの存在であるお前にも、価値があるという事だ。下手すればお前の方が希少な存在かもしれない」

「俺の方が……だと?」

恭弥は信じられない、といった表情をしていた。

「本当なら、これは"言ってはいけない"話だったのだがな。まぁ、今日の俺は口がよく滑る」

「デルヘイン……?」

「確か、模擬戦の前に襲撃する役目の奴らは、どいつもこいつも"上位ランカー"だった気がするな。一桁台は模擬戦までは出張ってこないはずだ」

「上位ランカー……」

恭弥は思い出していた。

以前戦ったランカーである逆髪隼人さかがみはやとの事を。

あの時は特に苦労もせずに勝つ事が出来たが、他の連中はあいつよりも上の順位だ。

今回も楽な戦いになる……とは微塵も思っていない。

しかも、そのさらに上に控える"一桁台"は目の前のデルヘインと同格かさらに格上、それぐらいになるとそもそも勝てるのかどうかも怪しくなってくる。

だが、そんな事で泣き言も言っていられない、恭弥は結局の所、この学園の頂点に立てるほど強くならなくてはいけないのだから。

こんなふざけた計画はぶち壊す、そんなふざけたシステムはぶち壊す。

人間同士で争わなくてはいけないサイクルなんて許しておけるわけがない。

先ほど、デルヘインも言っていた。

学園側は、"柊恭弥"を決して軽視していない。

場合によってはアリカよりも、重要な存在だとか。


――――だったらその勘違いを、間違った見解を利用してやる他ない。


一応、この学園の大義名分としては、この国、日本を護ることにあるのだ。

だったら、それを本当にさせてやろう。

邪魔な野望だの、闇だのを全て消し去れるほどに、強くなってやる。

頂点に立ちさえすれば、それだけの力を手に入れる事が出来るのだから。



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