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魔導戦記リザレクション  作者: Lass
第三章 侵略の足音-invasion sign-
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暁の屋敷。

都心から少しだけ離れた郊外に建っていて、いつからあるのか不明なくらい古そうな造り。

だが、何故かボロさやみすぼらしさは感じさせない。ネット環境も完備されているし、なんと言ってもオール電化が施されている事を考えると……この木造っぽい造りは家主の暁楓の趣味なのではないかと言える。

そんな得体の知れない家屋とは言っても、今の恭弥とアリカにとって大事なおうちだ。

障子の外には、近所の小学生達が集まってドッヂボールくらい出来るのではないか、という広さの庭。

そして恭弥がたった今起きたこの自室(アリカが絶賛侵略中)は、板張りの広い空間だった。

以前、中学生の時に修学旅行なんかで海の見える旅館に泊まったことがあったのだが、これくらい広い自室を持つ恭弥としては、五人以上泊まる大部屋ですら、"ああ、俺の部屋と同じくらいだな"と感じたという。

厳密には、旅館の一室と、色んなモノがごちゃごちゃと置いてある個人の部屋を比べるというのは少々無理があるのではあるが……、

現に今、もう一人の居候の侵略を受けて、恭弥の生活スペースは依然の三分の一程まで後退している。

恭弥は、そうして皮肉そうな視線を、向こうでスヤスヤと眠るアリカに向ける。

(ちっ……早く起きすぎたか。それにしても昨日は散々な目にあったよなぁ……)

記憶している限りだと、昨日の事件の後、家に帰ってきたのは十一時を過ぎた辺りだった。

主に……長い、長い事情聴取のせいだ。

まさかあんなに長引くとは思わなかった。しかも、楓と連絡を取る事が出来なかったら、危うく拘置所から学園に通う羽目になるところでもあった。

確かに、不法侵入に、公務執行妨害?がそのまま加味されたら捕まってもおかしくは無かったが、テロリストの中でも重要人物を捕えた点について評価されたのが大きかった。

それも含めて主に楓が頑張ってくれたため、こうして家の蒲団で朝を迎える事が出来たのだ。

相変わらず迷惑をかける。


……まぁ、唯一最悪だったのは、学園にしっかりと報告がいってしまった事だろうか。


停学や退学になる程ではないが、"科学"の方に世話になったという事実は、学園側としては気に入らないようなのであった。

あくびをこらえながら、恭弥は寝癖のついた髪はそのままに、障子の扉を開けて朝日を室内へと案内する。

「うおっ…………」

自分で開けておきながら、あまりの眩しさに日差しを浴びた吸血鬼のような声を上げる。

そもそも吸血鬼って本当に存在するのだろうか?

魔導の力も、人類の敵である化け物もいるし、天使とまで呼ばれた元人間もいるこの世の中だ。今更何をあり得ないと言い切れるだろうか。

何となく、部屋のど真ん中に座すテレビの電源をつけるために、リモコンの電源ボタンを押すも、反応がない。

よく見ると、リモコンの先には昨日アリカが買ったフィギュア類が積み散らかしてあり、電波を遮っていたのだ。

何だかそれらをどかすのも億劫になり、恭弥はふと外履きに足を通し、庭へと出る。

先ほどは驚いたが、やはり早朝の朝日は気持ちがいい。

昔は、こんな時間からラジオ体操紛いの事をさせられたかと思うと、その後に地獄の修業が待っていた。

思い出しただけでも、不意に身体が緊張するのがわかった。あれがなければ、今の自分が存在しないのもわかってはいるが。

空を見上げていると、昨日の一件に意識が引き戻される。

それもそのはず、視界の先に破壊された防衛塔が映り込んでいたからだ。

依然は一種の威圧感放っていたそれも、今は見る影もない。

恭弥は、人工物の脆さを、まざまざと実感した。

例え人のために造られたモノであっても、人によって破壊される。そんな事でいいのか……と思った。

その時だった。ふと背後から、眠たそうな少女の声が聞こえた。


「恭弥~?起きてたの?」


恭弥はその声の主、アリカの方へ向き直ると、こちらもまた眠そうに言う。

「……アリカか、早かったな」

「だって~、あんなに眩しかったら寝てられないよー」

そういえば障子を明け放したままだったか。無理に起こすつもりはなかったのではあるが。

「ああ、悪い悪い。どうもあんまり寝てられなくてな」

「まあそうだよねぇ、昨日は大変だったし……」

「全くだ、そもそも終わってみればあれって俺らが行く意味あったのか微妙だったし」

言い終わって、思った。

そうだ、一応あのアブローラとかいう首謀者っぽい奴を捕えたのは俺のおかげか。

「それにしても眠いよ~、夜は夜で恭弥が凄いし」

「しかも最悪な事に、今日は学校だ。昨日が日曜だったのが悔やまれ……ん?」

何だかとんでもない発言をスルーしかけた気がした。気のせいであればいいのだが。

「お前今なんか言ったよな?」

「え?なんかおかしい事言ったっけ?」

「ギャグじゃねーのかよ!?それ人前で言うとギャグじゃ済まされないって自覚はあるか?言っとくけど俺にはちゃんと聞こえてたんだからな」

「おお、難聴スキルはとうに古いと申す!?」

「そこに食い付いてんじゃねーよ!俺が言ってるのは勝手に夜のエピソードを追加するんじゃねーって事だよ!」

恭弥が呆れながら言うが、アリカは気にも留めない。

「夜のエピソードって何?恭弥ってば朝から元気過ぎかも!」

「……っ、ぶっ飛ばすぞこら」

「っ!?理不尽な暴力を働く夫に、妻は日々耐えています……」

「理不尽なのはどっちだよ……しかもいつの間にか俺は夫になっていたのか」

「ちっ、流されなかったか」

アリカが悪い顔でそう呟いたのが聞こえた。時代劇の、悪代官を彷彿とさせる。

「お前実は色々計算してるんじゃないよな!?天然キャラを装ってないよな?」

「な、何の事なんだよ!?私的には早起きしてお腹が空いたから朝食にして欲しい気持ちが強いかな。うん」

「誤魔化せるとでも思ったのかよ……まあ腹が空いたのには激しく同意だが」

「恭弥ー、私のリボン知らない?」

呆然と庭に立ったまま、そんな事を考えていると、何時の間にか家の中に戻っていたアリカが大声で問う。

「知らねーよ!大体、そんな部屋が散らかってたら見つかるわけねーだろ」

「出たー、こっちはリボンの所在を聞いてるのに説教にもってくなんて……」

アリカはジト目をこちらに向けると、恨めしそうに言った。

……アリカも反抗期なのだろうか。そういった屁理屈みたいなのは、小学生で卒業しろよ……と思ったが、見た目は今でも小学生なので意外と不自然ではなかった。

「恭弥ー!?今なんか失礼な事考えなかった?」

「気のせいに決まってんだろ?大分"セクシー"になったなぁって考えてたわ」

「っ!!本当に!?」

異常なまでに反応した。嘘に決まってんだろ?自分の身体を見て同じ事がもう一回言えたら褒めてやる。

恭弥が相変わらず、内心では盛大にアリカの成長具合をdisる。

すると、アリカの呟きを聞く限り最悪の悪手だった事を思い知らされる。

「そっかぁ……恭弥は私に欲情してるのかぁ……ふ、ふふふっ、これはみんなにも報告すべき進歩かも……!」

「……待て、俺が悪かったですすいません」

さっきの苦し紛れの嘘、冗談がまさかこんな風に自分の社会的立場を危うくする種になり得るとは、考えもしなかった。


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