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魔導戦記リザレクション  作者: Lass
第二章 起爆-trigger-
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暁アリカは、結論から言ってテロリスト達……雑兵の手に負える相手では全くなかった。

彼女の、魔導の能力は炎熱系。シンプルだがかなり強力な分類の能力だ。

対人用の、通常の鉛玉では彼女に届く前に、"熱"の障壁によって遮られてしまう。

銃身が焼けるほどに撃ち続けたが、撃つほどに無駄な足掻きだとわからせられる。

放った弾丸が、原型を留めていない形で床に落ちていくのを見るとわかるように、熱を発生させる際に起きる振動を対象に加え、内部から破壊するのがこの炎の障壁の正体である。

さらに、男達は先ほど、一度炎の剣を喰らっている。

その時の傷は、アブローラの回復魔導によって応急処置が施された。長い間の治療が出来なかったのと、多人数に向けた同時回復だ。大した回復量ではない。

……しかし、そのおかげで彼らは立ち上がる事が出来た。

アブローラは、彼らを大事な"駒"程度にしか思っていなかったかもしれない。

それでも、必要とされている。回復させるに値する。

その事実だけでも、立ち上がる理由としては十分過ぎたのだ。

彼らは、それだけでも、幸せだった。例えこんな世界でも、誰かのために戦えたから。


だが、唯一不幸だったとすれば、今回は相手が悪過ぎた。


彼らには、影だけが見えた。

蜃気楼のように揺らぎながら、すれ違った者を一人ずつ昏倒させていく炎の影が。

そう、暁アリカは剣の背を使った……"峰打ち"でもって次々と敵を無効化させていった。

そして彼らは相手こそ悪かったが、一人の犠牲も出なかった事……要するに全員峰打ちで済んだ事を考えれば、やはり幸運だったのかもしれない。

仮に、仮にだが暁アリカに傷を与える事が出来たとしても。

その後に待っているのは明確な報復だ。

もう一人の魔導師……柊恭弥が彼らを許さない。

殺される事がなかったとしても、少なくとも彼女に与えた傷の数倍の破壊と、痛みを伴う事になるだろう。

それを考えると、概ね……彼らは幸運だったのだ。

ただ、彼らを捕縛した自衛隊。

掴まった先で起きる事までは推測しかねる。

あくまで人道的な対応がされれば、問題はないかもしれないが。

そうでなかった時は?

尋問の末、今回の事件の目的や"次なる計画"を吐かされてしまうのだろうか?

そんな事は、死んでも御免だ……と彼らは考えていた。

そして、アブローラもまた、同じように考えていたため、彼女は塔と共に死ぬ覚悟を決めた。

しかし、アブローラと彼らが根本的に違うのは、情報の量だ。

彼らは今回のテロの概要の内容こそ把握していたものの、その次の段階を知らない。

本当に真実を知らない人間からは、どんな技術や、例え魔導の力でも真実を引き出すことは出来ない。

情報の拡散を防ぐために通達を最低限にする、考えてみれば当然である。

だからこそ、それを知りえるアブローラだけは、意地でも生きて捕縛される事を拒み、あの場から離れたのである。







「はっ…………、はぁっ……」

下から吹き上げる突風にさらされながら、アブローラは非常階段の踊り場に座り込み、身体を休ませていた。

(思ったより血を流しすぎた……でもあんな所で政府の犬なんかに掴まっていたら)

考えて、自分でゾッとした。

ちょっとやそっとの尋問に負ける気はさらさらないが、科学的に脳を覗かれたり、魔導の力で強制的に喋らせれば現代では守秘義務なんて意味を成さない。しかも、その方法で情報を取り出す事は……脅迫でも恫喝でもない。"なんか容疑者の服を漁ったらメモが出てきましたラッキー"ってのと意味的には同じなんだとか。

一番恐ろしいのは、そのように法的にも全く問題を起こさずに犯罪者から情報を引き出せる事だ。

まぁ、今時法的に問題だからやめましょう。なんて綺麗事を吐く役人が何人いることやら。

ふと、携帯を取り出し時間を確認する。

十八時ちょうど。

それは、爆弾が起爆すると同時に、アブローラの命が閉ざされる時刻を指していた。

建物内から轟音が響く、

圧倒的な振動によって、非常階段が塔を支える鉄骨からギギギとはがれるようにして外れようとしていた。

「間に合った……のかしら?」

今ではこの破壊的な揺れも音も心地よく感じるほどだ。

「どちらにしろ、私はここで終わりってわけね……」

アブローラは自嘲気味に、虚空を見上げてそう呟いた。

その時だった。

バリバリバリ、という崩壊とは異なる音。

どこかで聞いたような音だった、そう。ほんの数分前に聞いたような……、

思い出そうとしたが、その音がこれ以上近づいて来る様子はなかった。

……どうでもいい。

死ぬ時くらい、穏やかに、何者にも妨げられずに死にたいものね。

アブローラはそんな事を考えていたが、その唯一の願いすらも、叶う事は無かった。


何故なら、"空から降って来たヒーローが、アブローラの身体を抱え、ターザンロープの要領で、崩壊する塔から彼女を救い出しに現れた"からだ。


「なっ…………!?」

「よう」

その小さなヒーローは、以前死闘を繰り広げた少年。

ヘリの後部ハッチを蹴破って、ワイヤーを身体に括り付けると、視界に映ったアブローラに向かって、迷い無く飛んだのだった。

「は、離しなさい!私はこんな所で捕まるわけには……」

「はぁ?ここで離したらお前落ちて死ぬぜ?」

「そうしろって言ってんのよ!馬鹿なの!?」

頬を真っ赤にして叫ぶその姿を見て、恭弥は笑い捨てる。

なんだ、その顔……本当に"死を覚悟していた"ようには見えないではないか。

それは心のどこかで、心の奥底では、助かった事を安堵している者の顔だ。

「くそ!離しなさいって言ってるでしょ!離せ!」

「……あんまり暴れるなよ。色んな所を押し付けてるぞ?」

「うるさい!このクズ!変態!」

「てめぇ!命の恩人に向かってそんな事普通言うか?」

「もうわかってて言ってるでしょ!?畜生!死ねっ!」

弱弱しいながらも、未だに暴れ続けるアブローラの言葉は無視して、言う。

「そういえば悪いけどさ、定員オーバーらしいし、戻ったら何言われるかわからないから下までこのままな?」

乗員全員の制止を振り切って飛び出して来たのだ。再び空に放り出される可能性すらもあった。勿論次は命綱無しで。

恭弥自身は死ぬ気などさらさら無いのだ。そんな紐無しバンジーに付き合わされるわけにはいかない。

「は?それってまさか……?」

アブローラはハッとして、顔を押し付けられている胸板から顔を離して、自分達の状態を見る。

自分的に死ぬほど似合わないお姫様抱っこだけでなく、

ことごとく自分の邪魔をしてきた少年と、密着した状態での空の旅。

ちなみに、下に着いた先に待っているのは、自衛隊によるとんでもない(おそらく)尋問。

今も地獄なら、この先も地獄。

「冗談じゃない……!殺す!絶対殺してやるわ!何が何でも逃げ出して、絶対に君……貴様を殺してやる!楽に死ねると思わないことね!」

「罪を償って出て来るって意味か?まぁそれならそれでいいんじゃねーの?」

「……こいつ!!」

視線だけで、殺す気かと思う程に恭弥を睨む。

そんな状態で、しばらくの間空のフライトを楽しむ事になってしまった。

何気に彼女が美少女だった事は関係無しに、なんだか楽しくなってきた。

日も殆ど落ちて、ライトアップされた街を見下ろす。ムードもへったくれもないがその景観だけは見事だった。

ワイヤーで、テロリストの女と一緒にぶら下げられた状態で、恭弥はそんな事を考えていた。


ちなみに後で気づいた事だが、この時恭弥に突き刺さっていた殺気混じりの視線は、一つだけではなかったらしい。




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