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魔導戦記リザレクション  作者: Lass
第二章 起爆-trigger-
14/41

7

テロリストであり、魔導師であった女……アブローラを倒した柊恭弥は、フロアの奥にある管制室へ向かった。

中央には大きなスクリーン、そしていくつものモニターが建物内の映像だけでなく、街の各地に設置されているカメラの映像を映し出していた。

驚いたのは、既にそこにはテロリスト達の存在はなく、ここ防衛塔で最も重要な部屋がもぬけの殻と化していたことだ。

「そんな……何故誰もいない……?ここ以外にわざわざテロを行ってまで掌握する場所があるわけ……」

近くの端末を使って、建物内の映像を確認する。

一番気になったのはアリカだが、今はそれよりも大事なことがある。

テロリスト達がどこに消えたか……だ。

「ちっ、該当データ無し……?あれくらい人数がいたらそうそう隠しきれるもんじゃねーぞ!?」

舌打ちして、デスクに拳を打ち付ける恭弥ピリピリとした痛みだけが残ったが、そこで恭弥はある事に気が付いた。

……ゴトリ、と音を立てて何かが床に転がった。

デスクを叩いた影響だろうか、内側にテープか何かで貼り付けられていた物体が剥がれ落ちたのだ。


――――――――――――――――――――――――――――は?


思考が停止する。

これは一体なんダ?

そもそも、"衝撃を与えてもいいモノ"なのか?

疑念と共に、その物体に手を伸ばす。

ずっしりとした重量、そしてあくまで音はなく、赤いデジタル式のタイマーがチカチカと動いているのがわかった。

「なっ……?」

「あらら、やっぱりもう見つけちゃってたか」

「っ!!!!」

突然の、背後からの声に恭弥は驚きを隠せず即座に振り返る。

「アブ、ローラ……!」

「覚えてくれてて光栄。それと君が今思ってる通り、それは爆弾だよ」

よろよろと、壁に寄り掛かるようにして恭弥の前に立つアブローラ。

確かに、殺してはいなかった。しかし魔導の力も、自前の貴重な呪符で封じてある。

回復魔導は使えないはず、生身で立ち上がる事の出来るダメージではなかったはずだが……、

現実に、彼女は立ち上がって来た。

何が彼女をそこまで動かすのか。

「爆弾はこれだけじゃねぇだろ。一体何が目的なんだ!?ここを吹き飛ばしたりしてどうなるかわからねぇわけないだろ!?」

「わかってるとも。いや、わかっているからこそやるんだよ」

「なに?」

その口から飛び出したのは、想像も出来なかった答え。

この国が大罪種の脅威に晒されるのを早めるかもしれない行為、そんなことを、この女は平気でやろうとしている。

「この国が、円卓の魔導師達の手に落ちるのだけは避けなければいけない。いや、この国だけじゃない。いずれ世界が奴等に奪われるかもしれない、そうなれば本当に終わりなの!」

「円卓……英国直属の魔導師の事か……」

しかし、何か話が噛み合わない。それと大罪種と、このテロと、一体何の関係があるのだろうか。

「それとこれと、何の関係があるってんだよ?そもそもここは、魔導師も何も関係ない……科学の施設じゃねーか!」

「生憎、全てを語る気も、時間もないけれど」

ズズ……、と地響きのような轟音が響いた。

「何だ?」

「……始まったわね、崩壊が」

アブローラは、笑みを浮かべて言った。

「畜生!」

遥か高い天井から、パラパラと砂埃が降り注ぐ。

(考えろ、今の俺に一体何が出来るのかを)

おそらく避難勧告の方は、下の警官達がやってるはずだ。

それならば、どうする?

崩壊を食い止める事?そもそも爆弾の数も配置もわかっていない状況で、それは遅すぎる。

「大体お前はどうするつもりなんだ?ここにいればお前も当然崩壊に巻き込まれてお陀仏だぞ!」

「それが?もとはと言えば、君のせいで私が逃げる時間が無くなっちゃったって事は忘れてない?」

「………………」

図星だった。

しかし、全部俺が悪いのか?爆弾があるって最初から知ってたらこんなことには……、

「……っ、今は時間が惜しい。死にたくなかったらさっさと他の爆弾の場所を教えろ、効率よくやれば脱出するまでの時間は稼げるかもしれねぇ」

「いーよ、脱出なんて出来なくても」

「……案外あっさりだな。こんなことなら先に教えて…………え?」

最初の「いーよ」しか聞いていなかったからか、勘違いで話を進めていた気がする。

気になったので、聞き返そうとしたその時だった。

「だーかーら、私的には脱出する事よりも確実にここがぶっ壊れる事の方が大事なの。だから爆弾の方は教えない」

「…………っこの!」

恭弥は怒りのあまり拳を握りこんだが、無駄な時間を過ごすわけにはいかないため、目を閉じて再び考え始める。

そういえばさっきの爆発は、確か上で起きていた。

普通は、こういった建物を破壊したかったら足元を崩し、落下の力も使って塔を横倒しにするのが一番手っ取り早い。

なのにそれをしなかった理由はなんだ?

単に自分達の脱出する時間を作りたかっただけとは、先ほどのアブローラの言葉を聞く限り考えにくい。

塔を薙ぎ倒すよりも、確実に上部の機能を無効化するため爆破した?


……いや、違うぞ。それに、もしかすると。


ふと、アブローラの方を見る。すると完全に座り込んだ様子で、全て諦めたような目をしていた。

(……もう、崩壊を止めるのは無理みたいだな。でも俺の推測が正しければ"これ以上の被害は出ない")

さらに、恭弥は窓の外を見て、ある事に気づく。

「……なら、俺のする事は一つか」

そう呟いて、再び近くの端末を弄りながら、モニターに目をやる。

「まだ諦めないつもり?」

不意に、アブローラが話しかけてきた。

「ああ、もしかしたら"間に合わない"かもしれないが、やってみる価値はあるかもな」

そう返して、窓の外へ再び目をやる。

その時だった。


窓ガラスをぶち破るようにして、全身を『煉機』で固めた何者かがここ管制室へと突入してきた。


表情は当然、装甲で覆われていて見えなかった。

だが、その動きには、確かな敵意が見え隠れしていた。

「なっ……!!」

しかし、この流れを想定していた上で、"一番驚いていたのは恭弥自身だった"

その襲撃者の素性は大体想像がつく。

やーっと到着した自衛隊員だろう。

しかし、予想もつかない事態となった。いや、本来なら予想するべき事だったかもしれない。

現れた自衛隊員が、敵として認識いして、攻撃を行ったのは"恭弥"だった。

「馬鹿野郎!今はそんな事してる場合じゃ……」

機械の拳を刀で受け止め、苛立ちを隠さずに恭弥が言う。

そう、そもそも恭弥とて、ここには本来いるはずのない人間。

それどころか、下では警官の静止を振り切って侵入したいわば不審者だ。

その恭弥が、こんな戦場の中枢でモニターを弄り回していれば、

"テロリスト"と間違えられても無理はない。

「テロリ……s……排、z……」

ノイズのような音声が、煉機から発せられる。

「放せ!!俺はテロリストじゃねぇんだよ!そんな事より急いで脱出しろ、"爆弾"が仕掛けられてるんだ!さっきの爆発を見ただろ?ここはもう崩壊する!」

「…………」

目の前の人物から反応は返ってこなかったが、代わりに先ほどまで辺りを見渡していた……もう一人の隊員が動いた。

「爆弾……?」

こちらの言葉が聞こえていたようで、そのもう一人がこちらにゆっくりと歩を進めて来る。

その時だった。


「恭弥!!!!!!!!!!!」


「な……アリカ!?」

恭弥の名を呼ぶと同時に、その剣でもって隊員に襲い掛かる。

「テロリスト……二対一なんて卑怯だよ!!」

「待てアリカ……この人達はテロリストじゃ、ねぇ!」

「え」

言われて、即座に剣を引くアリカ。

二つの勘違いによって、場の空気が数秒間、凍りつく。

だが、先に状況把握へと漕ぎつけたのは向こうであった。

「やめな、栞。どうやら勘違いしてたのは私達の方だったみたいよ」

「………………?」

若い、女の声だった。背が高かったので気が付かなかったが、よく見るとメインスーツにボディラインがくっきりと表れていて、すぐに女のそれだとわかる。

そして、栞と呼ばれた方による拘束が、少しずつ緩んでいく。

想定外の事態から解放された安堵と、

思ったより話のわかる人がいたみたいでよかったという思いで、恭弥は思わず溜め息をつく。

「……ふぅ」

「何で君達のような学生がこんなところにいるのか……聞きたいことはたくさんあるけど、今は脱出するのが先みたいね。掴まって」

言いながら、その女は恭弥を軽々と持ち上げてしまう。だいぶ細身に見えたが、これが近代兵器……煉機の力なのだろうか。

窓の外には、ヘリが滞空していた。順番的に、次に爆発するのはこの辺りのフロアだ。最悪、爆発に巻き込まれる可能性もあるため……内心急ぐように思っていた。

が、

「ちょっと待った!」

恭弥がその女の肩から飛び降りると、部屋の扉の方へと走り去る。

「ちょっと!」

「テロリストの一人が、まだこの近くにいたはずなんだ!大事な手がかりを逃がすわけにはいかない!」

先ほどまですぐ近くに座り込んでいたアブローラがいなくなっていた。

「もうここだってすぐ崩れるかもしれないってのに……もう!」

走り出した恭弥を見て、女は頬を引きつらせる。だが、それよりも早く動いたのはアリカだった。

「ごめん、恭弥」

短く、一言だけ言ってアリカが一瞬で恭弥に追いつくと、全くの逆方向へ千切るように投げ飛ばした。

「のあああああっ!?」

「…………」

それを、栞と呼ばれていた少女?が簡単に受け止める。

今度は離れないようにしっかりと掴まれてしまった。ていうか少し痛い。

「ほれ、大人しくしたまえ少年」

「…………くそっ」

思わず悪態をつくが、確かに軽率な行動だったとも思っている。

一方的に、アリカを責められないでいるのもそのためだ。

ヘリのローターの音が響き渡り、耳に突き刺さる。

運転席にはパイロットと思しき人物が一名と助手席にもう一人、そのもう一人が後部座席の扉を開いて、恭弥達四人を中へと誘導する。

「階下に倒れていたテロリスト達は、下から向かった別働隊によって全て確保された模様です!レイラ中尉!」

「そう、こっちは少し遅かったみたいね。生憎、塔の崩壊はもう防げそうにない……」

報告を受けて、何やら考え事をするレイラと呼ばれた隊員。

パイロット達は、突然現れた恭弥とアリカを見て、何やら不思議そうな顔をしていたが、

「一体彼らは何者なんです?見たところただの学生に見えますが……」

「ん?ああ、彼らは一応……重要参考人、かな?」

「…………?」

パイロット達は怪訝そうな顔をした。

しかし、レイラはそんな反応を気にも留めず……

「まあいいわ、とにかく出して頂戴、このままだとあなた達も崩壊に巻き込まれるわ」

パイロット達はそれを聞いて若干青ざめた。

こんな上空から落ちる事なんて、たとえパイロットでも考えたくはない。

ヘリのローターの回転数が急激に上がる。

今にも吹き飛んでしまうかもしれないこの建物から一刻も早く離れたいというのが本音だからだ。

移動中のヘリの中は、外の騒然とした様子に比べて異様に落ち着いていた。

恭弥にアリカ、そして二人の隊員を加えた四人は出撃する軍人のように向かい合って座る。

ふと、恭弥がヘリの後部座席の円窓から塔に目をやる。

改めて見るととんでもない大きさだ。先ほどまでいた展望フロアのさらに上、上部アンテナは真ん中から爆散し、ぶち折れて煙が立ち込めている。

そうした有様の少し下、展望フロアに再び目を向けると、鉄骨が剥き出しになった非常階段の辺り。

そこであるモノが目に入る。

「あれは……」

「恭弥? どうしたの?」

その小さな呟きに気付いたのはアリカだけだった。

しかし、そんなアリカの反応も気にせず、恭弥は後部ハッチの所にくくりつけられていた……鋼鉄のワイヤーのようなモノを見つめていた。

(さて……これからどうするかな)

恭弥はこの時、どんな顔をしたらいいのかわからなかったが、

煉機の接続確認のためか、腕部のユニットを外すレイラの姿を見て、緊張気味に笑った。





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