私の婚約者である彼は、いつの間にか、私の姉と親しくなっていたようです……。~新しい道へ進むと決めました~
「あのさ、実は俺……君のお姉さんとできてるんだ」
婚約者である彼ラゼンドからある日突然告げられたのは、欠片ほども想像していなかったことだった。
「え……っと、それは、どういう冗談?」
「冗談じゃないんだ」
「じゃあ事実だってこと?」
「ああ。そうなんだよ。お姉さんが可愛がってくれてて、そのうちに仲良くなって、気づけば……自然な成り行きで親しくなってしまったんだ」
ラゼンドの口から出る言葉たちが私の心をぐしゃりと押し潰す。
目の前の彼を信じられない思いで見つめて。
思い出が蘇るほどに胸が痛くなる。
私たちは婚約者同士だった。そして何よりも良き友でもあった。だからこれからもそんな感じで付き合っていけると思っていたし、共に行く道の先には光があると信じていた。大金持ちにはなれなくても、それなりの日常の中で、穏やかに暮らしていけると思っていたのだ。
「俺、お姉さんと結婚するよ。だから……君との婚約は破棄する。いいね」
「本気なの?」
「もちろんだよ」
「そんなの……裏切りだわ……」
「ごめん。でも、ほんと、俺はもうあの人しか愛せないんだ。君のこと、異性だと認識することすらできなくなったんだよ」
ああ、そうか、彼はもう……。
終わりは終わり。
道の先はない。
このまま歩み続ける選択をしても未来はない。
ただ崖に向かって歩いていくようなもの。
「婚約は破棄、伝えたからね。じゃあ、これで。素敵なお姉さんに出会わせてくれたことは感謝してるよ。……さよなら」
◆
あの後、姉のこともありいづらくなったので家を出て、知人や友人の助けも借りつつ王都で新しい生活を始めた。
すべてが初めてのことばかりで戸惑いもあったけれど。
それでも新生活は充実している。
悲しいことも、辛いことも、確かにあったことだけれど。それでも段々楽しいことや嬉しいことも増えていった。だからこれは、最悪な人生、ではないと思う。良いことも、悪いことも、すべてをまとめて人生と呼ぶのだろう。生きている限り様々なことに出会う、それはある意味当然のことだから。
私はここで生きていく。
自分の足で立って歩む。
◆
婚約破棄を告げられた日から二年。
私が王都で知り合った人と結婚式を挙げたちょうどその日、同じ日に、ラゼンドと姉は亡くなった。
私を切り捨てた後、二人は婚約し、数ヶ月前に結婚していたようなのだが……そんな彼らは旅行目的で隣国へ向かっている途中賊に襲撃され命を落としてしまったそうだ。
聞いた話によれば、ラゼンドは一撃で即死したそうだが、姉は賊たちに囲まれ何度も攻撃を受けたらしく苦しみながらこの世を去ったようである。
「そんなことがあったなんてね」
「ええ、驚いたわ」
「僕たちは長生きしよう!」
「もちろんよ」
ラゼンドも、姉も、もうこの世にはいない。
でも私は生きている。
生きてさえいれば人は無敵だ。
それに、隣には愛しい彼がいてくれているのだから、なおさら最強。
「これから夫婦として上手くやっていこう。改めて、よろしくね」
「ええ、こちらこそ。よろしく。永く良き夫婦でありましょう」
傷ついた分だけ強くなる。
涙流した分だけ幸せになる。
「あ、そうだ。実はプレゼントがあってさ」
「そうなの?」
「どうぞ!」
「え……っと、これは?」
「蓋を開けてみて」
「ええ……って、ああ! これは! 欲しかったお皿!」
「前、聞いたからさ」
「それで、これを選んでくれたの!?」
「うん」
「……嬉しい、とっても……ありがとう!! 本当に。ありがとう! 嬉しいわ!!」
これからの人生でもきっといろんなことがあるだろう。
良いことも。
悪いことも。
心痛む日や泣く日もあるかもしれない。
でも、それでも、笑える日は必ず訪れる。
だから何も恐れはしない。
「今度お返しをさせて」
「いいよそんなの」
「駄目! 貰いっぱなしなんて……私が嫌だもの」
言って、笑い合う。
こんな日がいつまでも続けばいいな。
今は強くそう思う。
時が流れても、周りが変化しても、幸せなままで。
変わっても変わらない。
そんな関係を築きたい。
◆終わり◆




