第9話 常駐依頼
マキアが乗り込んですぐに装甲車両は走り始めた。荷台に乗っているハンターは皆大人で、当然マキアよりも体格が大きい。持っている装備もマキアとはレベルが違う。
最新の装備とは言えぬものの、頻繁に整備された後が伺え、扱いやすいよう個々で改造が施してある。実践でも十分通用する代物だ。マキアの持っている骨董品とは訳が違う。
(はぁ……大丈夫かな)
装備の質が違いすぎることや大人と子供という差から自然と後ろ気味になる。前の職場でも同じような状況で、容姿のことから視線を向けられることが多かったが、ハンターに囲まれた荷台で睨まれる状況に慣れているわけではない。
なんでガキがいる。
消えろ。
邪魔なんだよ。
視線で彼らは訴えかける。これは被害妄想なのかもしれない。
「ふぅ……」
違う。
すべては自分の被害妄想。彼らは自分のことなんて一切気にしていない。いくらマガツモノを殺せるか、それだけしか考えてない。
たとえ気にしていたとしても――関係ない。
ハンターとして常駐依頼を完遂する。稼ぐことだけに注力すればいい。
敵は同業者ではない、あくまでもマガツモノだ。
「よし……」
L-331を握り締めて顔を上げる。顔つきは先ほどとは異なって覚悟を滲ませていた。
解体現場でセルバンたちを殺した時と同じ雰囲気、目つきをしている。
その時、荷台に取り付けられた拡声器から声が響く。
『十二時の方向、マガツモノが13体』
短く発せられた言葉を全員が聞いた瞬間、ハンターたちは各々が武器を持って指示された方向を見る。
ハンターたちは荷台の側面に沿って並んでいるのでマガツモノの出現位置によっては討伐することはおろか視認することができない。だからといって場所を移動するのは禁止。
運が悪かったとため息を吐くしかない。
今回、マキアは運が良かった。
「あれか……」
L-331を構えて照準器を覗き込む。十字線上の中心には砂埃を上げながら急速に距離を詰めるマガツモノの姿が映っている。巨大なマガツモノだ。しかし分類から言ってあれは小型。
解体現場で死体として接している時は小さく感じていたが、いざ動いている所を見ると大きくみえる。
「……」
照準器に映るマガツモノの姿を見て解体現場での事件が脳裏に過ると、自然と握把を握る手にも力が入る。僅かに体が強張り瞳孔が開いた――その瞬間、すぐ隣で発砲音が鳴った。
隣のハンターが狙撃銃の引き金を絞ったのだ。
連鎖して狙撃銃を持ったハンターが引き金を引いていく。
慌ててマキアも引き金を引く――が弾丸は遠くの的に届く前に落下した。
「と、届かねぇ」
周りのハンターが使っている武器とあまりにも性能に差がありすぎる。有効射程距離の問題で、どう頑張ってもマガツモノに弾丸を命中させることができない。落下も考えて弾道を予測すれば……しかし弾速が遅いせいて動き回るマガツモノの行動を予測して撃たなければならない。
この距離の射撃ですら不安定なのに、そのような高等技術ができるはずがない。
それにもたもたしていると……。
「お、おわった……」
計14体のマガツモノはハンターの一斉射撃を受けて一瞬で殺された。マキアが当てたのは弾倉一つすべてを斜め上に乱射した内の一発か二発か。射程距離も足りていない上にもともとの威力が弱いため弾丸がめり込んだかすらも怪しい。
(何もできなかった……)
武器の性能のせいでもあるし、ミカの射撃技術の問題のせいでもある。周りを見てみると先ほどよりも殺気だった雰囲気を強くしたハンターが狙撃銃の弾倉を入れ替えていた。
ほとんどのハンターが狙撃銃を持っているところを見るに、やはり敵に得物を奪われる前に殺すことに重きを置いている。
『方位いうのめんどくさいから、取り合えず進行方向右と左、前にそれぞれマガツモノ』
装甲車両を運転するレイダーズフロント職員の気だるげな声と共に、ハンターたちが間髪入れずに動き出す。すでに車両はミナカタを離れた荒野を走っている。周りには何も無く、いるのはマガツモノだけ。
ここからマガツモノとの接敵は多くなる。
だからといってマキアの獲物が増えるわけではない。
(豆鉄砲だ)
周りのハンターが使っている狙撃銃を見て、発砲音を聞き、弾丸がマガツモノを貫く姿を見る度に思い知らされる。L-331がマガツモノ討伐用の装備としては本当に最低限……いや最低限すら持ち合わせていない骨董品であるという事実を。
周囲ではハンターたちが休むことなく引き金を引いているが、マキアだけが取り残されている。
(駄目だぁ……)
マキアは頭を抱えることしかできなかった。
◆
(どうしよ……)
常駐依頼が開始して一時間ほどが経過した。マキアは依然としてマガツモノを討伐できていない。ところどころで近づいてきた個体を負傷させることはできているが、他のハンターとの火力が違いすぎてマキアが殺す前に横取りされる。
車両に設置されている自動判別機械は与えた負傷なども加味して報酬を算出するらしいが、果たしてどの程度貰えるのか。使った弾代ぐらいは回収できるのか。もうすでに午前の分の依頼は終わろうとしている。
今は都市へと帰っている際中でマガツモノの数が減っていた。数少ない得物を奪い合っている状態。とてもマキアが立ち入れる様子ではなかった。
このまま無駄撃ちしていても弾代がかさむだけ。惨めだしみっともないが、潔く諦めて、マキアはL-331から手を離す。そのまま荒野に背を向けて座り込んだ。何もすることが無くなると思わず周りを見渡してしまう。
するとすぐ隣でマキアと同じように座り込む亜人がいた。
茶色の毛並みがふさふさのマキアと同年代か少し上の少年……から青年ぐらいの亜人だった。
(この人……)
自分と同じように座り込んでいる姿を見ると一人では無かったと安心感を覚える。マキアの視線からその意思を読み取ったのか、その亜人が釘を刺す。
「俺はお前みたいに諦めたわけじゃない。午前分の弾がなくなっただけだ」
「あ、はい」
彼の装備や雰囲気から察するに、年齢ではマキアと同年代か少し上であろうともハンターとしての技術や経験は遥かに上だ。同じように座っているがまるで状況が違う。
この常駐依頼で周りのハンターとの力の差をマキアは理解からされた。おそらく同年代であろう者が自分よりも遥か高みにいる。嫉妬も混じりつつも、確かに尊敬の気持ちを抱いていた。
「すごいですね」
疲れ果てた声色でマキアは彼に笑って言った。
年の近い人物に対して素直に褒めるのはどこか避けたい気持ちがある。しかし周りのハンターに打ちのめされたマキアは素直に気持ちを吐露することで、この鬱屈とした気持ちが僅かに晴れると思った。
笑ったマキアとは対照的に、思っていた返答とは違かったのか彼は一瞬驚いた顔をして、バツが悪そうに顔を背ける。
「うるせぇ……ここは戦場だ」
「そうですね」
彼はマキアの返答を待たずそっぽを向いたまま荒野の方を眺める。マキアはその姿に苦笑を零して、自分もまた荒野を眺めた。
◆
「おっかえりー! どうだった?」
常駐依頼を終えてテイカーロッジの拠点に帰ってきたマキアに、タンクトップ一枚だけを着て作業中だったメーテラが声をあげる。マキアは荒野の砂嵐で汚れた上着を脱ぎながら入り口すぐのところにある壊れかけの椅子に座り込んだ。
そして首を傾げて手をプラプラとぶら下げて、『駄目でした』と全力アピールする。
「まあ……」
装備の品質が周りのハンターより数段……いや数十段も劣っていることに加えて、マキア本人の技量も駆け出しハンターの最低限しかない。周りよりも経験も技量もないのに、装備でも劣っていたらまず何もできない。
今日はそれが理解からされた一日だった。
肉体的な疲労というよりかは精神的な疲れから来るため息を零したマキアは、椅子に座ったまま周りを見る。メーテラは忙しなく一階の改修を続けていた。マキアがトラックの修理資金を集め、マガツモノを討伐できるまでにどの程度の時間がかかるかは分からない。
しかしメーテラはできるだけ設備の準備をしておきたいので一日中忙しなく働いていた。一階部分はマガツモノ解体用の場所にする予定で、設備は最低限用意してある。
メーテラがそこに独自の改修を加えながらどうにか形にしているところ。
マキアが椅子に座ってその様子を眺めていると、作業が一段落ついたメーテラが声をかけた。
「夜ご飯にしましょう!」




