第32話 江東社②
どこで嗅ぎ付けてきたのか、ジャンはマキアと別れた後すぐに江東社のことについて調べ上げ、現在の状況を把握していた。そしてミルゲスが八方塞がりなことを知っていて、今回江東社の事務所を訪ねた。
インターホンを挟んで軽薄な笑みを浮かべるジャンはミルゲスに告げる。
「あんたが現状を打開するとしたら、俺を頼る以外ないっすよ」
変わらない軽薄そうな言葉でミルゲスに語り掛ける。ミルゲスからしてみれば何故か自分の素性を知っている上に、提案まで持ちかけられている状態。当然、ジャンを信用するわけにはいかなかった。
「誰だ……お前は」
「誰だ……だなんて口の利き方がなってないな。だけどまあいいか。紹介してあげよう」
インターホンに内蔵されたカメラにジャンがハンター証を見せる。
「シェルパバギー所属のハンター。ジャン・カトレウス。以後お見知りおきを」
「待て……なんでハンターが俺なんかのところに」
「それはさっき説明したっしょ。マキアっつうガキを殺すため。調べた限り、あんたマキアを殺したいらしいじゃん。俺が手伝ってあげるって言ってるんだけど?」
メーテラに偶然会った時、ソマリアが経営する食堂の目の前の道には殺し屋と思わしき男達が倒れていた。
メーテラの雰囲気とその後現れたマキアとかいうガキの反応を見て、ジャンはある程度のことを察していた。そして調べてみればビンゴ。予想通り因縁のある江東社にまでたどり着いた。
「なんで殺し屋から俺のところまで……」
殺し屋との関係は最重要機密事項として管理されていた。どこから情報が漏れたのかは分からない。当然、現場に居合わせていればある程度のことは予測できるかもしれないが、江東社にまでたどり着くのはどう考えてもおかしい。
「調べて貰ったのよ。俺の物の中に腕利きのニューロハッカーがいてな。調べたらあらびっくり、あんたらに繋がってたってわけよ」
「いったいどこから」
「マガツモノの事件、隠蔽してるらしいじゃん」
「……なっ」
「その反応はアタリってことかな。随分と分かりやすいじゃん。女だとつまらな過ぎて萎え萎えってところだけど、ま別にどうでもいいか」
話を戻して。
「俺、あんたの、弱み、握ってる。オーケー?」
「なんだよ」
「とりま中に入れてくれるよな?」
相手はハンター。
江東社の弱みを握っている現状、断ることはできなかった。
「分かった。ドアのロックを外す。真っすぐ二階に上がってこい」
「出迎えはないのか?」
「誰が」
「あーあーいやいい。男に出迎えられてもキモイだけだわ」
「ッチ。開けるぞ」
「はいはーい」
ミルゲスが玄関のドアを開ける。それと同時に壁に飾ってあった散弾銃を手に取る。
もはやジャンに仲間がいようと関係ない。
これ以上面倒ごとが増える前に仕留める。
相手がハンターでも完全に不意を突けば殺せる。
「……」
静かに階段を上るジャンの足音を聞く。
一歩、二歩、三歩……歩み近づいて来る。
音はやがて扉一枚挟んだ場所で立ち止まった。
そしてジャンが扉の手をかけた瞬間、ミルゲスが引き金を引いた。
散弾銃ならばミルゲスが扉を挟んだ後ろ側にいようと、扉ごとぶち抜いて弾丸を浴びせることができる。それに一瞬でも散弾銃を構えている姿を見られてしまえばハンターであるジャンは対応できてしまう。
それほどまでにハンターの反射神経は恐ろしいのだ。
だからこそ扉越しで絶対に相手が気が付かない瞬間を狙って撃ち殺す。
一発では殺しきれていない可能性が高いため、ミルゲスは続けて何発も撃ち込む。
扉は穴だらけになり先の廊下が見えていた。
当然、《《そこにジャンの死体は無かった》》。
(死んでいないッ?!)
直後、ミルゲスの視界が誰かの両手で塞がれる。
「んっん~だめ、だめだめ。ハンター相手に喧嘩売っちゃ駄目。殺すぞ、てめぇ」
「……」
後ろから聞こえてきたジャンの声を聞いてミルゲスは散弾銃から手を離した。
「降参だ……殺したきゃ好きにしろ」
「潔いね。でも、まだ有効価値はあるから殺さないかな。安心していいよ」
目元を覆う手が無くなりセルバンは解放された。そして振り向いてみると自分が先ほどまで座っていたソファにジャンが座っていた。
「まあ座りなよ。幾つか提案したいことがある」
「ったく」
悪態をつきながらミルゲスはジャンの対面に座る。
「まず確認だけど、お前はマキアっつうガキを殺したい。これはオーケー?」
「ああ。理由は……分かるだろ」
「隠蔽のこととかでしょ、ま、それはどうでもいいんだけど」
ミルゲスの意思を確認したところでジャンは本題を切り出す。
「さっきも言ったけど、そのマキアの殺害、俺がやってあげてもいい」
「なんでだ」
「ちょっとくら邪魔されちゃって、目障りなんだよね。彼。だから殺しておきたいなって」
「……もし殺すとして、どうやって殺すつもりだ」
マキアを非合法の手段で殺すことはできない。ジャンならばマキアを殺せるかもしれないが、それだと江東社の真の目的である情報の漏洩防止という目的が果たされない可能性がある。
だからこそマキア殺害は容易ではないのだ。
「例えば人質を取る。あるいはこっちも弱みを握る。ミルゲスが考えてるのはこんなところだろ。別にそんなことしなくたって簡単な方法がある。聞くか?」
「拒否権はないんだろ」
「んっん~話が早いのは助かるね~。じゃあ今からお前は俺の言う通りに動いてもらう。大丈夫、きちんと俺の想定通りに動いてくれればマキアを殺してあげるよ」




