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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)


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第3話 必死のあがき

 確認出来た限りでマガツモノは五体いる。三体は従業員の死体を食べていて、残りの二体は鼻を鳴らしながら周囲の様子を伺っていた。この五体の他にもいる可能性や突発的に動く可能性も考え、安易に逃げ出すことはできない。

 かと言って留まっても状況が好転することはない。どれだけ早く見積もっても救助部隊が来るのは三十分後……ここの労働環境を考えれば労災事故を隠すために救助を呼ばないと言う可能性すら見えてくる。

 その状況で留まっていても選択肢が狭まっていくだけ。かといってどのように動けばいいのか分からない。


(いくか……)


 申し訳程度のベンズナイフを取り出してマキアは地べたに膝をつけて四つ足の姿勢で進む。

 目的地は目と鼻の先。

 警備員が逃げ出した時に放り出した小銃が転がっている。もし襲われた時にベンズナイフだけでは五体のマガツモノを相手することができない。しかし小銃ならば……豆鉄砲であることに変わりないが、的確に頭部へと弾丸をぶち込めば可能性がある。

 それに、単純にナイフで近接戦闘というのは怖い。できるだけ離れた場所から敵を殺せる武器があった方が心に余裕が生まれる。

 

 散乱するマガツモノの死体の陰に隠れながら細心の注意を払って進む。死体が無い場所では遮蔽物が無く、無理に動けばマガツモノに見つかる。だからマガツモノがそっぽを向いた瞬間に移動する―――というのは些かリスクがある。

 小銃までは目と鼻の先で、ほんの十歩ほど進めば手が届く距離。

 銃という全幅ぜんぷくの信頼を無意識に置いている物体を早く手に入れたいと、焦る気持ちを抑え、マキアは遠回りをして向かう。

 先ほどまでは従業員の叫び声やマガツモノの遠吠えが聞こえていたが、今は驚くほど静か。稀に肉が食いちぎられる咀嚼音が聞こえるのみで、移動する際に出る服と地面との摩擦音がやけにうるさく感じる。


(……ッチ。一体見えねえ)


 ふと死体の隙間からマガツモノがいた方向を見る。先ほどまで五体ほどいたはずだが、一体姿が見えなくなっている。

 どこかへと移動したと考えて、それを前提にいれて考えた方がいい。

 しかし今更目的地は変えられない。死体と死体との僅かな間を転がるように移動して、小銃の元にマキアが辿り着いた。


(……M-36カルディン……マガツモノ用じゃねえな)


 スラムで暮してきたこともあって日々、ギャング同士の争いや浮浪者同士のいざこざで銃声を聞いてきた。銃と隣り合わせの環境で生きて来たこともあって、身を守るために銃器の知識は最低限ある。

 今手に持っている小銃に関しての知識も当然あった。

 M-36カルディン。

 ガーディアン社が開発した対人戦闘用の小銃だ。コンパクトな作りで重量も軽く、取り回しもしやすい。安定性と機能性、整備性を兼ね備えながらスラムの住民でも背伸びをすれば手が届く価格帯。

 名銃……としか言いようがない。

 対人戦闘用、という言葉に目を背ければ。

 

(こいつじゃ頭に何発撃ち込めばいいんだ?)


 M-36カルディンの重量が軽く、値段が安く、取り回しがしやすいのは対人戦闘を意識して作られたから。マガツモノを相手にするとなると重く、高く、ひたすらに火力を追い求めた銃でなければならない。

 腹を撃てば失血死や臓器の負傷で死んでくれる人間相手を想定して作られた銃ではマガツモノを殺しきれない。


 やはり、ここにいた警備員はすぐ逃げだしたことといいM-36カルディンを使っていたことといい、かかしよりも使えない。


(弾倉は二つ……足りない)


 元から小銃に挿さっていた弾倉と地面に転がっている二つを合わせて三つの弾倉しかない。それも元から挿さっているものは寄生虫を殺す際に半分ほど使われているため、見た目よりも弾丸は少ない。

 豆鉄砲を手に入れたところでどうするか――マキアが次の作戦を練ろうとした瞬間、少し離れた場所から叫び声が聞こえた。


「だれがぁああ―――」


 断末魔は長く続かなかった。首を掻っ切られたのか、頭をかみつぶされたのか。


(まだ生き残りがいたのか)


 マキアと同じように逃げ遅れた従業員が現場にいる可能性がある。しかし見える限りで確認した死体の数と逃げたであろう作業員の数を考えると、生き残りがいる可能性は極端に低い。

 

「……あ?」


 様々な情報を組み合わせて対策を練っていたマキアが突如、嫌な気配を感じて振り向いた。

 視界に映ったのは歯の間に肉が挟まったままの咥内と、牙から垂れる涎、そしてマガツモノの赤い眼球だ。


「っうおが――」


 咄嗟に足元に落ちていた解体途中の装甲を手に持って相手の大口に押し当てる。


(六体目——ッ?!)


 口に押し当てた装甲は強すぎる咬合力によって歪み始めた。このまま押し当てたままでいれば装甲が割れるか曲がるかして手も嚙み潰される。その前にミカは懐からベンズナイフを取り出す。

 大型個体の分厚く頑丈な皮膚でさえも容易に切り裂く鋭い刃は、覆いかぶさる化け物の頭部を簡単に貫く。 

 痛みと衝撃でマガツモノはさらに暴れ、口にはさみ込んでいた装甲が悲鳴を上げる。


(クソがぁああ!)


 それよりも早く殺さなくてはならない。

 

「しねぇえやあ!」


 ベンズナイフを何度も、何度も、突き刺して眼球を潰し、肉を抉り、頭蓋を破壊する。

 脳をベンズナイフの先端が貫いて、抉った瞬間、先ほどまで暴れていたのが嘘のようにマガツモノは力を失ってマキアの上に覆いかぶさる。


「はぁ……はぁ……クソッ」


 遠くで遠吠えが聞こえる。

 今の戦闘で位置がバレた。

 幸いにも他の従業員が襲われる前に叫んでくれたおかげで、他のマガツモノの意識がそちらに集中していた。あと何秒かでマキアの元まで来るだろうが、その何秒を稼げたのだけでも大きい。

 その間にマキアは覆いかぶさった死体を退かし、銃を拾い上げ、走り出す。

 同時に散乱したマガツモノの死体を飛び越えて三体の敵が現れる。


「ッ――っぱ豆鉄砲じゃねえか」


 マキアが振り向きざまに射撃する。足に命中したが敵の走る速度が一切緩まない。


「クッソ、慣れねぇ!」


 何度か拳銃を撃ったことはあるが、小銃は初めて。それも特殊な訓練を受けたわけではないし、頻繁に使っているわけでもない。実力は初心者に毛が生えた程度。左右に避けながら高速で距離を詰める、複数のマガツモノを同時に処理できるだけの力は無かった。

 それも一人逃げながら振り向きざまに撃ち込むのだ。

 連射すれば大体一発か二発は当たってくれる小銃と言えど、振り向くだけで走る速度が緩まるし、持っているだけで走りにくい。


(もう弾切れかよ――ッ!)


 弾倉を交換しようとしても慣れない銃で初めてというのはどうしてもうまくいかない。複数体のマガツモノに追いかけられている状況ならば焦ってさらに動作がおぼつかない。

 どうにか弾倉を交換すると弾幕を散らす目的でほとんど振り向かずに射撃をする。そして近くにあった死体解体用の重機に乗り込んだ。操縦席に乗り込み窓を閉めた直後、マガツモノの一体が窓を突き破って咥内を見せながらマキアに噛みつく。


「――っぶない」


 シートに体を密着させて咄嗟に避けるのと同時に、狭い操縦席の中で小銃を取り回し銃口を化け物の頭に向ける。本来ならばM-36カルディンにマガツモノの頭蓋を砕くほどの力はない。

 しかし相手が小型のマガツモノであること、超至近距離からの射撃であること、全弾をほぼ同じ個所に命中させたこと、などの要素が積み重なった結果、撃ち出された弾丸はマガツモノの頭部に穴を空けた。

 

「次ッ――!」


 息絶えたマガツモノの死体が窓を突き破ってぶら下がったまま、今度は重機の操縦桿を握り締める。


(故障してるじゃねえか!)


 だが重機は動かない。

 この事件が起きる前にセルバンから重機が壊れたから修理してくれと話を受けていた。

 どうやら運悪くエンジンが故障中の個体を引いてしまった。


(だから新しいの買えって言ったのによ!)


 全力で悪態をつきながら足元付近に設置されたボタンを三回連続で押し込む。

 非常用に緊急用のために、高い馬力が必要になった時のために、別個搭載された液体状の電源装置であるエネルギーパックを消費することで、解体用重機は一時的に出力を大幅に増加させる。

 このボタンはその機構を起動させるため。


 直後、別電源によって一時的に機能が回復した重機が、凄まじい出力と共に動き出す。

 先端についたチェーンソーのような刃が高速で回転を始め、全力で操縦桿を操作すれば、足場と操縦席との間にある回転機構が回転する――と共に、マガツモノの一体が巻き込まれ肉塊ミンチになる。

 続けて本来の速度の倍以上で振り回された解体用の刃がマガツモノの肉に突き刺さる。マガツモノ解体用に使用されるだけあって刃の鋭さや加工はそれ専用のもの。加えて出力が大幅に上がっている今、刃は一切の抵抗なくマガツモノを両断した。


「はぁ?! もうぶっ壊れたのか?!」


 一難去ってまた一難。

 操縦桿が動かない。

 古い製品であるのに加えてエネルギーパック機構という普段は使わない機能の手入れが十分にされていなかったこともあり、故障は加速する。まずは足場と操縦桿の間にある回転機構が壊れ――動かなくなる。それに伴って操縦席が倒れ傾く。

 一時的に動きが鈍った瞬間、反対側の窓からマガツモノが窓を突き破って頭を突き出す。

 操縦桿を握り締め、突如起きた故障に意識を割かれていたマキアは対処に遅れた。鋭い牙が右肩の肉を抉り、血が噴き出す。


「――っがいでぇ」


 右腕が動かない。

 小銃を左手だけで構え引き金を引く――のは間に合わない。狭い操縦席の中で取り回し、正確に狙いを定められるかも怪しい。瞬時の判断でベンズナイフを取り出して肩に噛みついたマガツモノの眼球に突き刺した。

 そして頭上からベンズナイフを突き刺し脳を破壊する――のと同時に、正面の窓を突き破ってもう一体のマガツモノも操縦席に飛び込んだ。

 

「うぉおおがああ」


 肩に噛みついたマガツモノはベンズナイフによって脳を破壊されたことで息絶えている。しかし肩に噛みついたままで、右腕が動かせない。左手でベンズナイフを引き抜き正面から飛び込んできた個体の対処するのも間に合わない。

 咄嗟に正面から飛び掛かってきたマガツモノの眼球を左手で抉り取って、片目の視力を奪う。

 そして片目の視力を失い、見えなくなった片側へと体を動かし死角となった場所から左手だけでもう片方の眼球も握り潰した。


「まだ死なねえのかよ――ッッ!」


 眼球を抉り取り視力を失った程度で生物は死なない。本来ならばその時点で勝ちは決まったようなものだが、狭い室内であれば視界が確保できずともマキアの場所は把握できる。

 視力が無いながらもマキアの首元に噛みつこうと大口を開けた―――が、噛みついたのは先ほどマキアの肩に噛みついていた仲間の死体だ。


(くそくそくそ、いてぇ!)


 マキアが避けるために肩の肉ごと無理矢理引きちぎってマガツモノの死体を噛ませのだ。大きく抉れた肩の痛みは大量分泌されたアドレナリンでも消すことはできない。意識が飛びそうになるほどに強烈な痛みに顔を歪ませながら死体の頭部からベンズナイフを引き抜く。

 そして正面から突っ込んできたマガツモノを見た。

 すでに視力は無く、自らが今マキアの肉を食べているのか仲間の肉を食べているのか見分けがついていない状態。その無防備な姿に向かってベンズナイフを振り下ろす。


「―――っ、はぁ……はぁ」


 脳を破壊され、息絶えたマガツモノが力なく操縦席の中に転がる。


(おれ……何体殺した……何体いた……?)


 痛みと興奮で思考が上手くまとまらない。

 

「これで……最後か?」


 呟いてみたはいいものの、安心はできない。

 動かない右腕を必死に動かしながら小銃の弾倉を装填し、付近を警戒する。

 獣の息遣いや遠吠えは聞こえない。流れ出た血が地面に滴る音と重機が軋む音が響くのみ。

 窓を突き破ったまま息絶えたマガツモノの死体が重力に従って落下する。その落下の仕方は確かに重力に導かれていたものの、僅かに違和感があった。違和感につられてマキアが窓を見る。

 その瞬間、割れた窓縁に捕まるようにして手が張り付いた。

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