第28話 厄介な縁
マキアとメーテラがテーブルを挟んで座っていた。今日起きたことについてマキアから最初に切り出して、今ちょうど話し終えたところ。次はメーテラが話す番だ。しかし話を聞く側のマキアは、何故か壊れた機械系マガツモノを修理していた。
テーブルの上で工具を持って壊れた足の関節を修理している。
とは言っても一時的なもので取り合えず動けるまで回復させる程度でいい。
機械系マガツモノはまだ生きている上で、動き出したら勝手に素材を体にくっつけて自己修復する。だから動かせるまででいい。
「え、っと……何をしてるの? マキア」
機械系マガツモノが破壊されたことや助けられたことについては江東社関係の事件を話している時、ついでに話していたため驚かない。問題は修理していることについてだ。
マキアは問いかけられても特に動じずに平然とした態度で答える。
「なんかこういうのは真面目に聞かれると嫌かなと思ったので、楽に話せるように作業しながらやった方がいいかなって」
マキアなりの不慣れな気遣いだった。特に隠していたことなど、話しにくいことは相手が適度に気を抜いて聞いてくれていた方が話しやすいこともある。少なくともマキアはそうだった。
「ちゃんと聞いた方がいいですか?」
「いや、そっちの方が楽だから」
「分かりました。でもちゃんと聞いておくので」
マキアは脚をカサカサと動かす機械系マガツモノの修理に戻る。マキアが別のことをしている間、メーテラは特に急かされずどこから切り出すべきかを考えることができた。
もし真正面から向き合っていれば慌てたり、緊張したりで理路整然とした説明がきていなかったかもしれない。マキアがあくまでも別のことをしているおかげで、上手く思考をまとめられたメーテラは、一度深呼吸をしてから話し始めた。
「私……昔、職能ギルドにいたの」
ハンターを集め組織される『ハンターオフィス』があるように、加工屋を集めて組織される『職能ギルド』という場所もある。他にも身体拡張者の手術などを行う整備屋が集まって組織された『整備ギルド』など、業種ごとで組織されている。そのため、ハンターオフィスは別名としてハンターギルドととも呼ばれることがある。
ハンターオフィスと同様に職能ギルドも企業が部門の一つとして所有しているものがほとんどだが、メーテラが元々いたのはレイダーズフロントの職能ギルドだった。
「私の仕事は他の企業所属の加工屋と変わらない。マガツモノの素材が運ばれて来るから解体して、加工して、武器を作る。レイダーズフロントは他の場所よりもちょっとだけ違うけど、まあだいたいこんな感じ」
「だからあんなに技術があったのか」
「それなりに頑張ってたからね」
レイダーズフロントの職能ギルドに所属していたとなれば、メーテラの技術力も納得できる。企業の職能ギルドとは比にならないほどの素材が日々運ばれて来るのがレイダーズフロントの職能ギルドという場所。
マキアは少し調べて得られる程度の情報しか知らないが、確か職能ギルドに入るためにはハンターがハンターオフィスに入る時と同様に高い技術力が求められたはずだ。
となると当然、なぜメーテラは職能ギルドを辞めたのか、という疑問も思い浮かぶ。
「私が職能ギルドにいたのは六年間。辞めたのが半年前。何で辞めたのかっていうと、単純に職能ギルドで加工屋していくのが嫌になったからってのが一つ。やっぱり組織に所属している以上、上に沿うやり方で加工しなくちゃいけない。素材を見て散弾銃の方がいいな、とか、ナイフの方がいいな、とか思っても上が小銃作れって言ったらそうしなくちゃいけない。それが苦痛だったんだよね。
それともう一つ。仕事柄ハンターと会うことがかなり会ったんだけど……まあ自分で言っていて恥ずかしいんだけど、少しは顔が整っている方だから、ハンターに厄介ごとをかけられることがあってね。その筆頭格がジャンってわけ」
話をある程度聞いてメーテラを取り巻く厄介ごとの全体像が見えてきたマキアは機械系マガツモノに視線を向けながら、何度か頷いた。メーテラはそれを見て話を続ける。
「最初は軽い絡みぐらいだったんだけど、段々としつこくなってきたから、それを申告して私は工房の方に移動になっても、私生活の方でも絡まれ始めちゃって。色々と嫌になったから職能ギルドも辞めて、住居も移したってこと。
このビルも設備も、マキアに最初に渡したL-331も職能ギルド時代に知り合ったハンターから譲り受けたものなの。私が素材を好きなように加工できて、自由にやれる場所が欲しいって知人に相談したら、『じゃあハンターオフィスのオーナーやれば?』って言われてね。まさかこんなに大変だとは思わなかったけど」
軽い気持ちで始めたハンターオフィスだが、ハンターはいないし資金は初期投資で使い切ってしまったりと散々な目にあった。マキアのおかげで少しずつ軌道に乗り始めているが、ハンターオフィスとしては未熟も良いところ。スタートラインにすら立てていない。
そしてやっとスタートラインに近づいて来た……というところでジャンに会ってしまった。
運が悪いことこの上ない。
「ジャンって奴は『シェルパバギー』っていう運輸系の会社のハンターオフィスに所属しているハンターよ。他の企業と比べた時にシェルパバギーは規模として控えめだからハンターオフィスとしての格は低い。それでもハンターオフィス所属のハンターってだけで十分上澄みなの。だから交渉の場についても力で制圧される。面倒な相手であることは否定できないわ」
実際にあんなことになっちゃったし、とメーテラは付け加えた。
「ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」
「いやいや。おれの方がやばいですよ。だって刺客ですよ? こっちこそ本当に迷惑をかけてしまって申し訳ないです……」
マキアが頭を下げると立てるようになった機械系マガツモノが頭に飛び乗った。
ヤジマとの戦闘は機械系マガツモノに命を助けられたこともあり、恩があったのでマキアは注意する気にはなれなかった。仕方なく頭の上に乗せたまま話を続ける。
「どうしますか、これから」
「うーん」
悩むメーテラにマキアは「まずは」と口を開く。
「おれの方を対処しなきゃですね。明らかに危険です」
ジャンは危害を加えるかもしれないが殺人まではいかない。江東社は確実に殺しに来ていた。対処するのならば明らかに後者だ。危険度が違い過ぎる。江東社の問題を始末した後にジャンの問題を始末する。
その順番で行く。
マキアが理由を説明してメーテラの反応を伺った。
「どうですか……?」
「それでいいと思う……けど」
「けど?」
「その……江東社っていうのとどう話し合いをつけるつもりなの?」
「それは……まあ今から考えます。ただ明日までには結論を出す予定です」
江東社に許してもらおうとは思っていない。どちらかが妥協点を探すしかない。江東社としては事件を公表されるのが困ることもあって、マキアに社会的な罰を下すことはできない。
セルバンを殺害した罪を償わせるためには今回のように殺人など違法なやり方しかない。
(ただ……もう一度襲撃を仕掛けてくるか?)
一度撃退されたこともあり相手は慎重になるはず。その上でさらに戦力を用意して殺しに来るかは五分五分だ。もしその選択するのならばマキアを殺すために相当の費用をかけていることになる。
社会的制裁を恐れて事件を公表せず、マキアの殺害を選んだ者が、果たしてそこまでするか。
後に引けなくなって、というのはありえる線だが。
「あ……というよりもう時間です」
「……確かに、そうだね」
時計を見るともうすでに夜になっていた。
ソマリアのところまで行かなくてはならない。
するとメーテラが慌てて口を開く。
「あとソマリアさんについてなんだけど……」
「いや、いいですよ。今日の夜どうせ聞かされるだろうですし」
「まあ、そうだけど……」
「どちらかというと江東社が事務所に襲撃をかけてこないかってことだけが心配です。おれもいないわけですし。何なら一緒に来ます……?」
「あ、その辺は多分大丈夫。このビル一応警備会社に入ってたらしくて、その契約がまだ残ってるから」
高額の保険に入っているため、もし何かあれば一分以内に部隊が駆けつける。加えてシャッターが降りたり、防衛設備が稼働したりと、今日来た奴ら程度なら一分以内にメーテラの元にまでたどり着くことはできない。
マキアと一緒に行くよりも事務所に残っていた方が安全だった。
「逆にマキアのことが心配なぐらいだよ」
「まあ……ソマリアさんの食堂に着いたら連絡しますから、もし連絡が遅れれば、ということで」
「分かった。心配しながら待ってるよ」
「なんで心配してるんですか、おれを信用して寝っ転がってテレビでも見ながらくつろいでてくださいよ」
「マキアの実力じゃ安心できないよ」
ヤジマに殺されかけたことを思い出してマキアは言い返すことができなかった。マキアは弱い。それは認めるべき事実だ。
「そうですね……」
明らかにしょんぼりとした雰囲気を滲ませて呟く姿を見て、メーテラは両手でマキアの頬で触れた。
そして思いきり押し込む。
「あぶっ」
「心配してるのは本当。だけど信頼もしてるから。絶対に死なないでね。あと一人だけで責任を取ろうとしないこと。私にも連絡すること、いいね」
「あい」
頬を両端から押さえつけられているせいでまともな返事はできなかった。ただメーテラはそれで満足したのか満面の笑みになって、マキアを送る。
「じゃ、ソマリアさんは怖いから。くれぐれも失礼のないようにね」
「はい」




