第25話 過去の贖罪
「来ていただいてもよろしいですね?」
「……はい」
何か嫌な予感は感じつつもヤジマの提案を断ることはできなかった。マキアは大通りから一本横に入った裏路地でヤジマと向かい合う。
ヤジマは無駄話が好きなタイプではないのか、あるいはマキアと長く話したくないだけなのか、それともそのどちらもとかは分からないが、結論から話し始めた。
「マキアさん。あなたにはセルバン殺害、その他従業員二名殺害の責任を取って頂きたい」
「セルバンの殺害? やったのはマガツモノだろ」
マキアは動揺しながらも冷静に言葉を選びながら答えた。ヤジマはこの程度の返しなら想定していたと言わんばかりに、すぐ切り返す。
「確かに……現場にはマガツモノの痕跡が残っていました。セルバンの死体も一部食べられていました。しかし、戦闘の痕跡があった。他の作業員には弾痕も残っていました」
「……それがなんだと」
「現場にM-36カルディンが残っていました。調べるのは大変でしたが、あなたの指紋が見つかりました」
「だからっておれが殺したと?」
「確証はありません。しかし現場の証拠からあなただと限りなく近い証明ができます」
「じゃあできないんじゃねえか。勝手な言いがかりは困る。それに、あんたのところのホームページを見る限り、あの事件を隠蔽してるじゃねえか」
「ええ……かなりの苦労をかけなければあなたが犯人だと証明はできません。それに証明するとなれば事件を公表しなければならず、我が社は損害を被ります。あなたの処分にそこまでの時間と労力をかけるのはこちらとしても望ましくない」
「だったら――」
「だからといって生かしておくのも、こちらとしては色々と問題があります」
江東社はすでにマキアが犯人だと調べがついていた。しかし証明するためには面倒な手順を踏まなくてはならない。その上に証明する過程の中で解体現場で起きたマガツモノの被害の詳細を報告しなければならない。そうなれば会社のイメージが下がることは明白。
社会責任も問われるだろう。
たった一人の処分にそこまでの労力はかけられない――そうマキアは考えていた。
「あなたが殺したセルバンは社長とも繋がりがありました。詳しくは言えませんが、まあまあな関係であったようです。そのセルバンが殺されたとあって社長は怒っていますよ」
「だから責任を取らせると?」
「ええ。ただ社長も社長で現実主義者なのでリスクを計算した上で、ですが」
事件を公表するリスクなどを考慮した上で、マキアに正当な裁きを下すのは諦めた。
それと、とヤジマは理由を付け加える。
「あなたに弱みを握られている、というのもよろしくない」
マキアにはあの事件という弱みを握っている。リスクはあるし、今のところやる意味もないが、その気になれば江東社のイメージを傾けることができる。
江東社としてマキアのような潜在的な危険は排除しておきたい。それも今回動くに至った理由の一つだった。
「じゃあどうするってんだ。今ここでおれのことを殺すのか?」
「まあ……あなたの答え次第ではそうなります。しかし私としてはあまり手荒なマネはしたくない。穏便に行きましょう、穏便に」
ヤジマは一度スーツを正した。
「マキアさん。私についてきてください。そうすれば今は穏便に済みます」
「今は、な」
「街中で殺人となると色々と根回しが必要ですから、できれば話を飲んでもらいたいのですが……」
ヤジマは話ながら通信端末をマキアに向ける。
画面には食堂で働くメーテラの写真が写っていた。
「随分と小さいハンターオフィスじゃないですか。こちらとしては無関係の人まで巻き込みたくはない。だからハンターオフィスを脱退してから私達のところに来て罪を償ってください」
「脅してんのか」
「それ以外に見えますか?」
「おれ以外の奴にまで危害を加えようってのか」
「いえ、分別はあります。あくまでもあなただけ。しかしもし……話を断るようならば……ということです」
マキアは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて、歯を噛みしめる。ベストな選択肢を脳内で探しながら。しかしヤジマはマキアに十分な時間は与えない。
「もしこの場で了承がいただけないのでしたら、もう帰ることは叶わないでしょう。今すぐ決断してください」
「断ればうちのメンバーを襲撃するのか」
「そうですね。もしかしたら、待機……させているかも、しれませんし、断ったら動きだすかも、しれません」
「外道が」
「こうして話を持ち掛けている時点で譲歩しているのですがね。外道などと……勘違いにもほどがあります」
そもそもとしてある程度のリスクを取り、マキアに不意打ちを仕掛けなかった時点でヤジマは譲歩している。
わざわざ話し合いをしてやっているのだ、というのがヤジマの立場だ。
「ッチ」
舌打ちをしてマキアは考えていた。
元はといえば自らが撒いた種だ。メーテラを巻き込むわけにはいかない。
その上で、マキアは結論を出した。
「確か……ハンターオフィスを脱退してから、だったな」
「ええ。でないとレイダーズフロントに厄介をかけられますから」
「分かった。電話してもいいか」
「ご自由に」
一息置いてから、マキアが通信端末を取り出した。
掛ける先は当然メーテラだ。今は働いているので出てくれるか分からないが、できれば出てもらいたい。
そう思いながら電話をかけて十秒ほど……メーテラは出た。
『どうしたの? マキア。もうすぐで休憩終わっちゃうから手短にー』
『分かった』
マキアはヤジマと視線を合わせながらメーテラに告げた。
『昔の厄介ごとのせいでハンターオフィスを脱退しなくちゃならなくなった』
『ふーん。私は今狙われてるの?』
『おれが話を断れば、そうなる』
『そうなんだ』
話を聞いていたメーテラは「ちょっと待って」と言って少しだけ席を離す。
その間、遠くの方でメーテラと男らしい女性の声をした人物と話している声が聞こえた。
そして話がまとまってメーテラが十秒ほどで戻ってくるとマキアに明るい声で告げる。
『私の心配はナッシング。好きにやっちゃいなよ。どうせ、その厄介ごとってマキアが根本的に悪いわけじゃないんでしょ?』
『分かった。ありがとう』
『モーマンタイ! こっちはこっちでよろしくやってるよーん』
楽しそうなメーテラの声につられて笑いながらマキアは通話を切った。そして生意気な笑みを浮かべたままヤジマを見る。
「ってことだ。提案はお断り。やり合うならさっさとしろよ」
「……面倒なことを。馬鹿しかいねぇな。御望み通り殺してやるよ」
「そうかよ」




