第24話 立て込んだ色々
「これ、どうするんですか」
次の日、マキアはリビングのテーブルに座ってメーテラを問いただしていた。昨日は夜遅いこともあって、マキアの疲労が限界に達していたこともあって、機械系マガツモノを金庫のような場所に保管することで意見を合意させた。
しかしマキアが昼頃の起きてみるとなぜかテーブルの上に機械系マガツモノが鎮座していた。それも掛かっているいる音楽に合わせて体を揺らしてさえいる。この明らかに異常な光景にマキアは起きてすぐまた気絶するような事態に陥りかけたが、どうにか意識を保ちメーテラと話し合いの場につくことができた。
メーテラはというと機械系マガツモノは勝手に脱走したらしく、朝起きたら機械系マガツモノがテーブルの上にいたらしい。さすがのメーテラも肝を冷やしたが今は慣れていつもの調子に戻っている。
マキアとメーテラは機械系マガツモノを挟み込むようにテーブルの対面に座っていた。
「勝手に脱走するとか、やっぱ処分した方がいいですよ」
「そうは言っても、私一人の時も襲われなかったし……ね?」
「ね? じゃないですよ。加工屋として肩入れしたくなる気持ちも少しは理解できますけど、危険ですからね? 機械系マガツモノ自分を信じさせるよう何か変な電波だしてるんじゃないんですか?」
「それはないよ。昨日ある程度調べたじゃん」
「まあ……そうですけど。相手は機械系マガツモノですよ? おれたちが観測できないだけかもしれませんよ」
「そこまで言ったら全部警戒しなくちゃいけなくなるよ」
「全部警戒しなくちゃいけないんですよ」
マキアとメーテラが話している間も機械系マガツモノは音楽に合わせてノリノリで踊っている。
さすがに目障りだ。
「止めますよ」
メーテラの通信端末から流れていた音を止める。すると機械系マガツモノは途端に勢いを失ってへたり込む。
「メーテラさん。おれが起きてくるまで何してたんですか? というかなんで音楽が流れてたんですか?」
「まあ……色々と触らせてもらったり核を見せてもらったり、音楽はアラームが鳴った時にこの子が躍ってたから、そのまま流してあげてただけ、だけど?」
話を聞き終わったマキアはテーブルに拳を打ち付けて頭をガンガンとぶつける。
「危険だッッ――っておれ言ったッ、のに!」
「まあまあ」
「なーんであなたが窘める側に回ってるんですか」
突っ伏すマキアを労わるように機械系マガツモノもなぜか頭を撫でる。
「触るなマガツモノ」
手で追い払って頭を上げる。
「それで……これからどうするんですか」
「私はこれから仕事ですので。マキアは?」
「おれは右手が治ってないのであんま動けませんよ」
「じゃあ――」
「機械系マガツモノを頼むって言うつもりじゃありませんよね。思いっきりマチェーテで切りますよ」
「な、なら職場に持っていくしか……」
「やめてくださいよ。もし見つかったら都市に罪に問われますよ。こいつ機械系マガツモノにしか……というかそうなんですし」
「ならどうすれば……」
「ならどうすれば……って」
破壊するしかない……そう言いかけたところでマキアは口を閉じた。どうせこのまま話していても平行線のまま変わらない。どこかで誰かが折れるしかない。そして現状を鑑みるにそれはマキアの役割なのだろう。
「分かりました……だったらおれが見ておくので」
「ほんとですか?」
「何かやったら破壊します」
「うぐ……それなら仕方ない」
話し合いが一段落したところでメーテラが壁に掛けられた時計に目をやる。ちょうど出勤時刻になっていた。
「あ、もう行かないと」
「はい。いってらっしゃい」
疲れた顔でそう呟いてマキアはメーテラを見送る。
メーテラがいなくなったことで部屋にはマキアと機械系マガツモノだけがいる状態だ。ここでメーテラとの約束を破って機械系マガツモノを破壊するのが最も良い選択ではある。
しかし流石に約束した手前、メーテラと自分をマキアは裏切りたくなかった。そのため機械系マガツモノの破壊を選択肢から消した。
(そういえばマチェーテのことについて聞きそびれたな)
現実逃避も兼ねて軽く別のことを考える。
機械系マガツモノを断ち切ったマチェーテの出来は見た目からは想像できないほどに凄まじい。
当然、見た目だけでも一流の加工屋が作ったものであると腕利きのハンターや同業が見れば分かる。しかしそうであったとしても機械系マガツモノを切断できるほどの完成度を誇っているようには見えない。
使っている素材は小型の生物系マガツモノの粗悪品。
それでいてこのマチェーテを作り上げた。
メーテラに関してよく知らないが、こうなるといよいよ気になってくる。
直接聞きはしないが。
「それで……」
現実逃避はここまでにして、マキアはテーブルの上にいる機械系マガツモノに視線を向ける。
三角形の脚をピンと張ってまるで背伸びでもしているような体勢で機械系マガツモノはマキアを見ていた。やはり、敵意は無いように見える。
「どうしたもんか……」
ため息を吐いた。
すると機械系マガツモノはゆっくりと近寄る。マキアはその姿を注意深く観察しながら逃げずに見ていた。
機械系マガツモノはテーブルの上にあるマキアの右手に近づくと、前足を包帯の上に置いた。鋭く尖った足の先端ではなく、折り曲げてその側面で慰めるように撫でる。
「心配? ……いやいや」
その様子を見ているとマキアのことを心配しているような気がしてきた。
これまでマキアは飛び掛かってきた機械系マガツモノを叩き落としたり、追い払ったりしてきた。慰めてくるこの様子を見るとなぜか過去の自分の行いが胸に突き刺さる。
絶対に悪くないのに。
「そもそもお前……何食うんだ?」
機械系マガツモノは言語を認識しているかのようにマキアの呼びかけに応じた。
テーブルの上を歩いて地面へと飛び降りて、それから階段近くに置いてあったオイルとマガツモノの素材の破片を足先で突く。
「それか?」
うんうん、とでも言いたげに機械系マガツモノが体を上下させる。
(っていうか……言語理解できるとあぶなすぎるだろ)
ため息を吐きたくなるような事実に気がついて頭を抱えつつ、マキアはどうにか前を向く。
「なんだ言葉が分かるようだから忠告しておくが、勝手なことしたら破壊すからな」
機械系マガツモノはテーブルの上へともう一度やってきてマキアと目を合わせながら頷いた。
「それと、もし資金繰りに厳しくなったらバラして核を売る」
機械系マガツモノは微妙な反応を見せた。ひっくり返ったり足を折り曲げて悲しみを全力で表現している。
マキアはそれを無視して人差し指を立てた。
「おれから言いたいのはそれだけだ。危害を加えなければおれは何もしない。分かったか?」
機械系マガツモノは脚の一本を上げて了承のポーズを取る。それを見てからマキアは立ち上がった。
「何か変なことすんなよ」
治療中だからと言って一日中家にいるわけにはいかない。時間を有効活用しなければ。
確かメーテラが言うには一部機材の修理や消耗品の買い足しがまだった。暇な時にこうした面倒な雑用は済ませておいた方がいい。
「行きますか」
買い出しに向かおうとマキアが玄関へと向かう。そのマキアの後ろを機械系マガツモノが当然のようについていく。
まるで子が親についていくように。
「家から出るな。ついてくるな。分かったな」
一度振り返って注意して機械系マガツモノがリビングの方へと戻っていくのを確認すると外へと向かった。
◆
「オイル類はこれでおっけーか。あとは機材の修理……夕食は……まあいいか」
買い出しを終えたマキアが事務所へと帰っていた。片手には手提げ袋が握られている。
入っている物が機械の修理関係の物品なので、量こそ少ないもののかなり重い。
倉庫にある頑丈な手提げ袋を持ってきてよかった。
「あーでも……」
家に帰っている途中でふと機械系マガツモノのことを思い出す。
家の中をめちゃくちゃにしていたり、人を殺していたりなど、面倒ごとを引き起こしていなければいいが。
そうなると反って、機械系マガツモノが家からいなくなってくれていた方が助かる。
記憶の片隅へと存在を追いやることができるからだ。
(まあ……)
所詮は希望的観測。
期待しすぎない程度に期待しておこう。
そうして機械系マガツモノのことなどを考えながら歩いていると、前から歩いてきたスーツ姿の男にすれ違いざまに声をかけられた。
「マキアさん。お話があります」
初対面の知らない人物から名前を呼ばれたマキアは男の方に振り向いて半歩ほど離れた。
「な、なんだ。なんで名前をしってる」
「あちらの裏路地まで……来ていただいてもよろしいですか?」
「なんでだ」
「単刀直入に申し上げます。私は江東社のヤジマと申します。此度はセルバン殺害の件についてお話申し上げたく、お声をかけさせて頂きました」
「……まじか」
江東社はマキアが以前勤めていた、マガツモノ解体業者の名前だ。




