第21話 色々と大変
バルキリアコーポの車両に救出されたマキアとミケが広場へと帰ってくる。他のハンターは殆どが死傷していたり重症であったりと、五体満足で生き残っていたのはマキア達を含めて片手で数えられるほどしかいなかった。
バルキリアコーポの仕事はあくまでも機械系マガツモノの破壊であり、殴った際に骨が砕けた右の拳の治療は行われなかった。
ミケから貰った包帯で右手をぐるぐる巻きにしているだけ、という瑣末な状態だ。あと少しすれば本格的に腫れてきてさらに痛くなってくる。
右手を押さえながら広場へと帰ってきたマキアとミケを出迎えたのはヴィクターという人間の男だった。
仕立ての良いスーツを羽織り、少しばかり髭を蓄えた貫禄のある男だ。彼はミケを見てからマキアを見て、それから包帯が巻かれた右手と、一通り一瞥してから口を開く。
「あんなことがあって疲れていると思うが話がある。ついてこい」
機械系マガツモノに襲われたことで精神的にも肉体的にも疲労している。加えて車両から投げ出された時に破損した装備のことなど、心配事がある中ですぐにでも家に帰りたいというのが本音だった。
しかし状況的に断れるはずもなく、マキアもミケも渋々ヴィクターの後についていく。案内されたのは仮設テントの中だった。
仮設テントの中には簡素な椅子とテーブルが置かれていて、ヴィクターは奥に座るとマキア達にも座るよう促す。
「まずは座ってくれ」
マキア達が座ると後ろから職員が来てテーブルの上にペットボトル飲料を置く。
「こんなもので悪いが、こちらも立て込んでいてな。呼んだのは報酬のことについてだ」
ヴィクターは一度前置きをしてから簡潔に話を切り出す。
「今回の件についてレイダーズフロントは一切の補償金を出さない。これが結論だ」
マキアは少し表情を歪めて右手を見る。今回の戦闘で右手の骨にはひびが入った。しかし治療費は出ない。ハンターは自己責任が基本だからだ。今回の常駐依頼も死ぬ可能性、負傷する可能性を承知のことハンターたちは受けている。
たとえ機械系マガツモノに襲われるという予想外が起きたとしても、車両が動かなかったという不具合が起きたとしても、それに対する補償金の類は一切支払われない。
これが常識だ。
当然、マキアもミケも補償金の類が払われないことは承知していた。
もしかしたら、という期待ことあったもののセルバンの言葉に大きな動揺や落胆は無い。
そしてヴィクターという男がこの事実を伝えるために来たとは思えない。わざわざ通告する義務などどこにもないのだから。つまり、彼は別の用件があってマキアたちを呼んだということになる。
ヴィクターはマキアたちが特に驚かず補償金の話に納得したのを確認してから、本題を切り出す。
「特に重要な用件ってわけでもないんだが、一応現場責任者として説明義務があるから説明しておく。一度しか説明しないからよく聞いておけよ。あ、質問はアリだ」
ヴィクターはそう前置きをして話し始めた。
「今回の常駐依頼の報酬について、先の戦闘で自動収集機器が破壊されたこともあってすぐに報酬を割り出すのが難しくなった。データはレイダーズフロントと共有してるから復元自体はすぐにできる。
ただよりにもよって機械系マガツモノだからな。報酬の割り出しに時間がかかる。その上、他のハンターが死んだ分は山分けだからさらに面倒だ。だから今回の常駐依頼の報酬を渡すのが遅くなるってことだ」
機械系マガツモノは生物系マガツモノに比べて報酬が数倍にも跳ね上がる。報酬を選定するデータを集めるための自動収集機器が車両の損壊に伴って一部破壊されてしまったためさらに報酬の算出が難しくなった。
また、常駐依頼においてハンターが死んだ場合は、そのハンターが殺した分の報酬を荷台に乗っていたハンターたちで山分けになる。今回は死亡者が多く、重症を負っている者も多い。保険に入っていなければそのまま荒野に捨てられて死に絶えるだろう。
つまり生き残りは片手で数えるしかない。
その少ない人数で報酬を山分けするため少し面倒な計算をしなくてはならない。
「っていうことで、報酬を渡すまで三日ほど時間を取る。それでもいいか」
すぐに返さなければならないような借金はマキアとミケにない。三日遅れる分には構わない。
「大丈夫です」
「右に同じく」
二人の返事を聞いたヴィクターは一度頷いてからマキアを見た。
「話はここで終わりだ。負傷しているようだしこの辺で切り上げよう。一応こっちにも非があるってことで面倒な手続きはこっちでやっておく。後日申請すれば通るようにしておくから、今日は早めに帰っておけ」
今回の件でレイダーズフロントにも非があった。マガツモノの出現報告が多くなっていることを知りながら、従来の車両数と人員で通常通り回していた。もし少しでも対策をしていればこうはならなかっただろう。
一応、バルキリアコーポ然り、いつでも救助できるよう体制を整えてはいたが。
「ありがとうございます」
椅子を立ったマキアは礼儀正しく一度お辞儀をして挨拶を述べてから天幕を出る。ミケは軽く頭を下げてマキアの後についていった。仮説のテントに残されたヴィクターは、ミケたちと入れ替わりで入ってきた秘書の女性から資料を受け取る。
「アメリア、現場の状況は」
ヴィクターの言葉にアメリアはすぐに応答して答える。
「機械系マガツモノの駆逐は終わりました。現在はバルキリアコーポの支援部隊主導の元、機械系マガツモノの死体を回収しています」
「バルキリアコーポの上層部は何て返事をしてきた」
「急な救援依頼を請けた上に相手は機械系マガツモノ、弾丸の費用や人員に負傷も出ているため機械系マガツモノの死体をすべて寄越せ、と」
「妥当だな」
だが要望をすべて飲むわけにはいかない。ハンターを統括する機関としてハンターオフィスに舐められるような態度を取るのは先々で問題を引き起こす。状況を鑑みるに一部条件を飲まなければならないが、その他の条件に関しては話し合いの余地がある。
機械系マガツモノの素材をすべて無料であげます、とはいかせない。
「分かった。後はこっちで調整しておく。アメリアは現場の処理に方に回ってくれ。バルキリアコーポとはこっちで話をつける」
「分かりました」
失礼します、と頭を下げてアメリアが仮設テントから立ち去る。
一人残されたヴィクターは椅子を傾けてだらけた体勢のまま渡された資料に目を通す。
数十枚ほどの資料に一瞬で目を通していきペラペラとめくっていく。
「……」
ある資料を見た時、ヴィクターの手が止まった。
資料は今回生き残ったハンターのことについて書かれている。特にマキアに関してのことが書かれているページで目が留まった。
「ハンターになったのは最近……だが成長は早い……」
過去に一度、レイダーズフロントに大量の素材を売りに来ている。
「所属しているのはテイカーロッジ…………ああ?」
テイカーロッジという名前が引っかかった。責任者の欄を見てみるとそこにはメーテラの名前がある。
ヴィクターはそこでさらに表情を歪めた。
「話には聞いていたが……ほんとにあんなガキが? マキアって奴なにかあるのか?」
ヴィクターは先ほど会ったばかりのマキアの顔を思い出す。まだハンターとして歴が浅いためハンター証を作る際に多くの情報を記入していない。
(まあ……この調子でいけばランクもすぐに上がるか……その時に詳しく問い詰めればいい)
ヴィクターはマキアの名前を頭の片隅に入れると資料をめくった。




