第17話 違和感の正体
車両が出発して十分ほどしてマキアたちはマガツモノと戦闘になっていた。基本的にリュシアとリナは発砲せず傍観している。稀に巨大なマガツモノが出てくると狙いを定めることもあるが、ほとんどは話していたり……マキアを見ていたり。
「あの……やりにくいんですけど」
マキアが照準器から目を離してリュシアを見る。
視線を向けられていても弾丸を当てることはできた。しかしどこかむず痒い気持ちを覚えるのもまた事実。マガツモノを倒しきったのを確認してマキアはすぐに横を見た。
「そんな……見ないでもらえませんか?」
「あ、ごめんごめん。頑張ってるようだからつい気になっちゃって。邪魔しようと思ってたわけじゃないのよ」
「ならいいですけど」
マキアとリュシアが一言二言会話を交わしてすぐマガツモノの居場所が職員のアナウンスによって報せられる。
マキアはマガツモノの方向を確認して自分の担当している範囲ではないことが分かるとNAX4から手を離す。しかし今日の調子であればまたすぐにマガツモノを撃つ機会があるだろう。
予想よりも弾倉の減りが早い。
午前の常駐依頼で弾を使い切ることはないだろうが、午後の分には足りないので昼休憩を使って買い足しておかなくてはならない。
バックパックの中を見て残りの弾倉を確認したマキアが前を見る。するとマキアが担当する範囲内にマガツモノが現れたことを伝えるアナウンスが流れた。マキアはすぐにNAX4を構えて照準器を覗き込む。
「でっか……」
照準器に映っていたマガツモノは中型に分類される個体だった。大型ではないにしろ都市周辺は小型が多く、中型は見慣れていない。常駐依頼を行っていてもあまり合わない敵だ。
(それも三体……か)
中型のマガツモノが三体ほどいた。あれほど巨大となるとNAX4で殺しきれるかどうか分からない。バックパックの中にある弾倉をすべて使い切った上で全弾を急所に当てることができれば殺せる。
しかしそれだと弾代と討伐した分の報酬とでつり合いが取れない。
ただ、どうせ他のハンターと協力して倒すことになる相手だ。
「あれだったら私達も手を出していいよね」
突然、横にいたリュシアが狙撃銃を構えながら問いかけてくる。彼女たちは他のハンターと力の差が大きすぎて場違いだったということもあり、マガツモノの討伐を自制していた。
しかし今回現れたマガツモノのレベルと乗っているハンターのレベルを鑑みて、自分達が参加しても文句は言われないだろうと参加を決めた。その際、マキアに聞いたのは確認というよりからかう目的もあった。
マキアは敵の距離が有効射程距離にいないことを確認してから、照準器から目を離して横を見た。
「いいですよ……っていうか、わざわざ確認取らなくても、好きにやればいいと思いますけど」
「あらそう? 好きにやっちゃっていいの?」
「ま、まあ……」
彼女たちが本気でやれば隣にいるマキアの稼ぎはまず無くなる。好きにやって欲しくはない、というのが本音だ。ただ今更発言を撤回することもできないので、曖昧に肯定だけして照準器を覗き込んだ。
リュシアはマキアの様子を見て微笑むと隣にいるリナと目を合わせる。
「ま、じゃあ私達は一体だけ貰おうかしら」
「一番左のやつだね、おっけー」
二人は軽く合図を出しただけで完璧に動きを合わせ、一糸乱れぬ射撃を行う。使っている武器の性能が高い事もあり、まだ周りが発砲する前に一体を仕留めきる算段だ。
二人の射撃は頭部などの急所を集中的に狙い、一発も外さずに撃ち殺す。
使った弾丸は二人合わせても十発程度だっただろう。単純に技術と武器の性能が違いすぎる。彼女たちが続けて二体目に狙いをつけず照準器から目を離したことに、マキア含め他のハンターは胸を撫でおろしつつ、自分達も標的を狙う。
有効射程距離内に入ったマガツモノに向けてマキアが射撃する。
(……やっぱ中型になると厳しいな)
NAX4は値段の割に威力が高い武器だが、敵が中型となると厳しいものがあった。L-331ほどではないが、あれを使っていた時を思い出すぐらいには弱さを実感する。
(まあ……無いものねだりか)
ハンターとして経験も技術も未熟な状態で性能の高い武器を使えば楽にマガツモノを倒せるだろうが、実力のほとんどを武器に依存している以上、絶対に将来どこかで躓く。
装備の性能と経験や技術は出来るだけ同時にあげていく方がいい。
(次……)
弾倉を交換したマキアはすぐ次の目標に狙いを定めた。
◆
午前の常駐依頼が終わりリュシアとリナが車両から降りた。今日の仕事はこれで終わりということもあってリュシアは晴れ晴れとした気持ちで背伸びをしている。
「ふぅー新鮮で楽しかったけど、暇だったわね」
ハンターオフィスに助っ人として働いている時は質の高い敵をもっと多い数相手にしている。車両に乗って弱いマガツモノを駆除するだけの任務はよく言えば安全だが、同時に退屈でもあった。
リナはそんなリュシアの肩に手を置いて車両から飛び降りる。
「今日は試し撃ち兼休養日ってところだから、明日の仕事に備えましょ」
「そうね~ぼちぼちね~」
二人が軽く会話を交わしたところで車両からマキアが降りてくるとリナが近づいた。
「今日はありがとうね」
「ありがとう……って。おれ何もしてないですけど」
「リュシアが色々と迷惑かけたみたいだからさ」
「気にしてませんけど」
「そっかそっか。それなら良かったよ。君はこれからどうするんだい?」
「午後の常駐依頼があるのでそれの準備をする予定です」
「午後もやるんだ。頑張ってるね」
リナが突然マキアの頭に手を置いて撫でようとする。マキアはそれを察知すると猫のように後ろへと身を屈めて避けた。
「な、なんですか……」
「いや、つい。ごめんね」
謝るリナに後ろからリュシアが肩を組む。
「そうだよリナ。女の子の頭を撫でるのは良くないよ」
「え、男の子じゃないの?」
二人の意見が食い違った。
「え?」
「え?」
顔を見合わせた二人が答えを求めるようにマキアを見る。マキアの性別の事に関しては詳しく話すと長くなるし、デザイナーズベイビーの子孫である可能性がある以上、攫われて人体実験される危険性を考慮して人の多いこの場所で話すことはできない。
それと単純に話すのが面倒だった。
「別にどっちでもいいですよ。おれもう行くので」
これ以上突かれると面倒だから、マキアは何か言われる前にそそくさと人混みの中へと消えて行った。




