第14話 武器調達
それから五日後。機械系マガツモノの報酬20万リムと生物型マガツモノ計三体の報酬8万リムを足して28万リムが最終的な査定額となった。その内、10万リムが借金返済やその他諸々に使われ、残ったのが18万リム。
本来ならば慎重に使うべき大事な資金。
しかしメーテラは18万リムすべてをマキアの装備調達に充てることにした。
「ほんとによかったのかなぁ……」
マキアは今、新しい装備を買うために武器屋へと向かっている最中だ。
18万リムという大金……本来ならば事務所の設備に投資した方がいい。いつ死ぬかも分からず、結果を残すのかも分からず、買ったばかりの装備を壊してしまう可能性があるマキアには重すぎる金額だ。
果たしてこの18万リムを信頼と捉えてもいいものか。少なくとも、それに見合っただけの活躍はしなければならないだろう。
(ここか……)
立ち止まったマキアの目の前にはありふれた武器屋があった。
名前をアイアンハウス。メーテラが解体用の装備を買うためによく訪れている場所だ。今回はその縁があってメーテラからおすすめされ、ここで新装備を買うことにした。
扉を開けた先は外観からは予測ができないほどに広く見える。壁には幾つもの銃器が掛けられその他にもハンター用装備が並んでいた。店の奥のカウンターにはメーテラの友人でもあり、亜人でもあり、アイアンハウスの店主でもあるレイシュが立っている。
事前にメーテラから話を聞いていたレイシュはマキアの姿を見つけると近くに来るよう手招きをした。
「君がマキアだね? 聞いていた通りの可愛い……いや美人? な顔立ちだね」
「聞いてた通りって……メーテラさんがそう言ってたんですか」
「まあまあそのことは置いておいて」
レイシュは強引に話を切り替える。
「今日は新しい装備を買うって話だけど、何か要望とかある?」
突然の話題変更にたじろぎつつもマキアは素直に答えた。
「常駐依頼で使う予定なので取り回しはそこまでいりません」
「ほうほう。つまりは有効射程距離が長い武器が欲しいと?」
「はい」
「予算はどのくらい?」
「18万リムで全部です」
「ということは弾丸代も加味して銃本体に使えるのは15万が上限ってところかな。君が情報端末……は買えないとして防護服とか買うなら別だけど。どう?」
「銃と弾丸だけで大丈夫です」
「おけおっけ。
レイシュは「なら~」と呟きながらタブレットを操作してマキアに手渡す。
「こんなのどう?」
タブレットには対マガツモノ用の小銃にも狙撃銃にも見える銃が映っていた。
「これは……小じゅ……そげき……?」
「はは。ま、見た目だけじゃわからないよね。それは俗に言うマークスマンライフルってやつ。分類としては小銃と狙撃銃の中間に位置するやつ。名前をNAX4。製造元はストライクホークス社」
レイシュの説明を聞きながらマキアはタブレットに映し出されたNAX4に視線を送る。
「今回は常駐依頼で使う用って聞いてたから狙撃銃にしてみても良かったんだけど、どうしても狙撃銃だと値が張るし、技術が無かったら当てられない。弾も高いし。それに他のハンターが使ってる狙撃銃の方が性能いい可能性もあるし、諸々考慮したらこいつかなって。どう?」
常駐依頼ではハンターが狙撃銃を握っていることが多い。狙撃銃を使うことで他のハンターよりも先にマガツモノを討伐することができるからだ。そのため使っている狙撃銃の性能も高い物が多く、マキアが買えるような対マガツモノ用武器としては最低品質の狙撃銃では相手にならない。
それにマキアは技術的にも他のハンターに劣っている。
安物を買ったところで意味はないのだから、先にマガツモノを討ち取るのは諦めて他のハンターが殺し損ねた個体を殺しきる方向にシフトした方がいい。ゆえに有効射程距離が長く連射もできるNAX4を選んだというわけだ。
理にかなった説明にマキアは感心しながらも、タブレットを眺めていて一つ気になったことがあった。
「あの……これ値段が17万リムになってるんですけど」
タブレットに表示されている価格はマキアが出せる15万リムを越えていた。レイシュはタブレットをマキアから受け取って笑いながら説明する。
「なんだかメーテラを助かってくれるようだから割り引きよ。二万リム分安くしてあげる」
「いいんですか?!」
「ハンターは死に逃げが多いから借金や割り引きなんて絶対にしてやらないんだけど今回は特別。ちゃんとこれからも贔屓にしてね?」
「しますします!」
「良い返事です」
目を輝かせるマキアを見てレイシュは笑うと話を進める。
「これならうちに在庫があるから今日の内に届けられるわ。ただ準備することがあるから今日の夜にまた来て。その時にまた渡すわ」
「分かりました」
「それじゃ、他に何か買うモノはない?」
「ないです」
「じゃこれで終わりね」
「はい。ありがとうございました」
代金の受け渡しを終えてマキアが店から立ち去っていく。
「勝手に死んでメーテラを悲しませないようにね」
「分かってます」
店から出る直前にマキアとレイシュはそう会話を交わした。
◆
五日後、マキアは常駐依頼を受けていた。早朝に向かったのは前と同じ集合場所。広場には何十人にも及ぶハンターと車両が待機している。また銃器の修理や弾丸の販売などを行う出店もあった。
中には香ばしい匂いを漂わせる屋台もある。
しかしこの前の稼ぎはすべてNAX4とその弾代に消えてしまったマキアは泣く泣くスルーをして車両に乗り込む。やることは前と変わらない。車両の荷台でマガツモノを討伐していくだけだ。
今回は武器が大幅にアップグレードされているため前の二の舞にはならない――はず。
(ふうーNAX4ちゃんの状態良し。弾倉は十分。天気良し)
荷台に乗り込んだ後、縁に背を預けて座りながら装備を確認していく。今日までに入念な準備をしてきた。まずはNAX4に慣れるための射撃練習。射撃練習用の弾丸が販売されていたのが幸運で、予想よりも費用を抑えることができた。それでも手痛い出費であったことには変わりない。
使う武器の弾丸が大きくなると練習するだけでも費用がかさむ。
練習した回数自体は少ないが、それでも十分成長できたように感じる。
後は本番で力を発揮することだけだ。
目を閉じて気合を入れる。するとマキアは突然横から声をかけられた。
「おまえ、生きてたのか」
「え、ああ。一応……」
目を開いて横を見てみると前の常駐依頼で会話を交わした亜人がいた。
基本的にハンターは一週間ほど姿を見せなければ死んだものとして扱われる。駆け出しで稼ぐ手段が常駐依頼しかないマキアがその場に姿を長らく見せないのは、引退したか無謀なことをして死んだかの二択。
事実マキアは単独でのマガツモノ討伐という無謀なことを行っていたわけで、彼の推測は正しかった。
「……」
「……な、なんですか?」
彼はマキアの持っているNAX4を見ている。NAX4は前までマキアが使っていた化石のような武器ではない。他ハンターの武器に比べるとまだ劣るかもしれないが、それでも最低限スタートラインに立てるだけの性能をしている。
拡張性にも優れているため改造すれば一線級……とまではいかないが、それでも肩を並べるだけの実力のある銃だ。加えて常駐依頼という任務の性質とマキアの射撃技術のレベルを加味した上でNAX4というのは最高の選択。
前はL-331というお遊びの銃を使っていたマキアを彼は軽蔑すらしていた。しかし今回の一件で『見合った武器を選ぶだけの知識と判断力がる』と僅かに見直した。ただ実際のところそれはレイシュのおかげによるもので、彼はそのことを知らない。そしてマキアもまた彼が自分のことを今の一瞬で見直してくれたことに毛ほども気がついていなかった。
「少し見直した」
「ありがとう、ございます……?」
マキアが首を傾げながら返事をしたところで車両がゆっくりと動き始める。
「ミケだ」
突然、彼はそう言って手を差し出す。認めてくれたのか分からないが、困惑しつつもマキアは手を握り返す。
「マキアです」
「荒野に出たら得物を取り合う敵同士だ。《《女だから》》って手加減はしないからな」
「おんな……まあ、わかった」
マキアの容姿についてどう受け取るかは相手次第だ。デザイナーズベイビーの末裔として完璧に調整された顔は生きやすくするために、相手が都合の良い方に受け取るようできている。男から見れば女に見えるかもしれないし、女から見れば男に見えるかもしれない。逆に男にも女にも見えるかもしれない。
色々と特殊なのだ。
だから、否定はしないし肯定もしない。
ただ答えて荒野に視線を向けるだけだ。




