第13話 予想外の収入
「そこに正座しなさい」
「はい……」
夕暮れ時、テイカーロッジの拠点に帰ってきたマキアはメーテラに怒られていた。
「私……危険なことはしないようにって言ったよね」
「はい……」
一人でマガツモノ討伐を行うための許可を得る時、マキアはメーテラから『危険なことはしないように』、『すぐ逃げるように』言われていた。メーテラからみれば信じて送り出してマキアに裏切られた形になる。
服はボロボロで血も流している。首に至っては一部肉が抉れてさえいた。それに荷台も一部切断されている。
「何その怪我、何が起きたの」
「それは……」
マキアが荷台に積み重なったマガツモノの死体を見る。計三体の生物系マガツモノと一体の機械系マガツモノの死体だ。
「そこにある」
「言わなくてもいいです、もう分かってるので」
「あ、はい」
弁明をする前に言論を弾圧されてしまった。
「確かに……三体のマガツモノを討伐したのはすごいことです。機械系マガツモノに関しては……まあ助けてもらったらしいので、あとでお礼をしておくように」
でも! とメーテラは続けた。
「危険を侵し過ぎです。キツイことを言いますが、自分の実力を分かってますか?」
「分かってます」
「分かってるならなんでこんなことになってるんだい!」
パン、と軽く頭を叩かれる。
「まったくもう……まああなたのことだから……冷静に考えて『いける!』って判断した結果、予想外のことが起きてこんなことになったんでしょうけど。その予想外に対処できないようじゃ、やっぱり実力が足りてないってことです」
ぐうの音も出ない。
マキアは口を閉じることしかできなかった。
「ということで、しばらくは常駐依頼で特訓するように。分かりましたね」
「はい」
「よろしい」
ふん、と満足げに鼻を鳴らすとメーテラは振り返って荷台に乗せられた肉の塊に目を向ける。
「常駐依頼を受けると言っても武器が無いのではお話になりません。ということで、新しい銃を買う――ためにまずこの死体を解体してお金を稼ぎましょう」
「大賛成です」
死体処理係時代のスキルが使えるぞ、とワクワクしながらマキアが立ち上がる。メーテラはそんなマキアに釘を刺した。
「怪我をしているので休んでください……と言いたいところですが、早めに片付けないと価値が下がるので、三時間だけ手伝ってください」
「ぜんぜん大丈夫なので全部手伝いますよ」
「さっきの話聞いてました? ああん?」
ぐりぐりと拳で脳天をドリルされる。
「ずみません……」
「まったく、とっとと終わらせますよ」
二人はマガツモノの解体に着手した。
◆
その日の深夜、マキアたちは計三体のマガツモノの解体を終えた。機械系マガツモノに関しては腐敗しないため、また下手に触ると爆発する可能性もあるため触れなかった。
マガツモノは取り合えず主要な素材に分け、血や内臓などは売却できないので捨てる。その他はもう一度洗浄して綺麗にした車両の荷台に詰め込んでいつでも運搬できる状況にしておく。
骨などはまだしも皮や肉はすぐ腐る。
本来ならばここで加工処理もして武器の製造へとシフトするのがハンターオフィスとしては理想の形。しかし解体設備を整えるので精一杯で加工設備を整えられるだけの時間も金も無かったマキアたちは加工の過程は諦めている。
取り合えず解体した素材をレイダーズフロントに売りに行く、それで稼ぐ。
今はその形で着実に資金を溜めていくしかない。
マキアたちは素材を倉庫に置いておくのも場所を圧迫するだけなので解体してすぐ――つまりは深夜に車両を走らせてレイダーズフロントの素材買い取り窓口にまで来ていた。
指定のコンテナに車両を格納し、レイダーズフロントの職員が荷台に乗せられた素材を鑑定し、運び出す。基本的に査定が終わり金額が支払われるのは――素材の数や質によって変動し――早くて三日、遅くて一週間後になる。
「一応、これですべての格納は終了です。何かありますか」
何も無くなった荷台を一度見てからレイダーズフロントの職員が問いかける。マキアは隣を見て社長であるメーテラに委ねた。
「あの……査定額がいくらくらいになるかって、今わかりませんか?」
「査定額ですか……」
レイダーズフロント職員は手元のタブレットを数十秒ほど眺めてから返答を出す。
「今回受け取りました三体分の生物型マガツモノの査定は三日ほどお時間を頂きます。ただ機械系マガツモノに関してはおおよその概算は立てられますが」
「じゃあお願いします」
「分かりました……基本的に今回買い取る予定の機械系マガツモノは小型の中でもさらに小型の部類に入る個体です。機械系としては極小と言ってもいい。ただそれでも機械系は買い取り金額が高いということもあり、査定額の下限が決まっています」
機械系マガツモノは生物型に比べて無駄な加工を経ずとも武器に加工しやすい上に性能を簡単に引き出すことができる。同じマガツモノでも機械系というだけで査定額には最低限の保証がつく。
マキアたちが売却したのは極小のマガツモノであり査定額がこの最低限の保証である可能性が高かった。
「機械系マガツモノの査定額が20万リムになります」
「「えっ?」」
予想外の査定額にマキアとメーテラの二人が濁音交じりの声を漏らす。そして二人は顔を見合わせた。
「こここ、こんなに貰ってもいいのかな……?」
「だ、だだだ大丈夫じゃない……ですかね?」
前職の死体解体処理の一か月分の給料よりも高い。あの小さい機械系マガツモノ一体の金額だけで。
驚く二人を見て職員は微笑まし気に声をかける。
「今すぐお金が必要そうなら機械系マガツモノの査定を優先して終わらせることができます。その場合は報酬のお渡しが一日から二日ほどになります。どうしますか?」
マキアは常駐依頼に行くために武器が必要だった。
メーテラは借金を返すために今すぐ金が必要だった。
マキアのは最悪遅れてしまっても構わないが、メーテラのはそうはいかない。
査定を優先することで報酬が下がることが無いのならば言うことは一択だ。
「じゃあお願いします」
メーテラは喜々とした表情でそう述べた。




