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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)


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第10話 新しい仕事

「こんなのでごめんね。仕事してもらったのに」


 リビングとして使っている三階の広間で食卓についたメーテラが、対面に座るマキアに手を合わせて謝る。テーブルの上にはタッパーに詰められた料理が並んでいた。これはメーテラが早朝から昼にかけて働いている大衆食堂の残りを貰って来たものだ。

 テイカーロッジの社長としてメーテラは、社員であるマキアにこのような食事しか振る舞えないことを詫びるが、いつもごみのような……というよりごみも食べていたマキアからすると目の前の料理たちは十分豪華品だ。


「いえ……おれには十分すぎますけど」

「そうならいいけど」


 そうして二人はご飯を摘まみながらテレビを見て今日の報告を行った。


「今日……常駐依頼どうでした?」

「一応……3600リムです」

「すごいじゃん!」

「そ、そうですか……?」


 常駐依頼で他のハンターとの力の差を痛感してしまったマキアは素直に喜ぶことができなかった。対してハンターという命の危険のある仕事をしてきた上にお金まで稼いできたことに対してメーテラは感心している。

 二人の間には認識のずれがあった。


「たぶん……他のハンターは今日だけで……多くて5万リムぐらいは稼いでます」


 マガツモノを少し殺した程度のマキアが3600リムも貰えたのだ。マガツモノを複数体討伐しているようなハンターならばマキアの数倍……いや数十倍は貰っていてもおかしくはない。

 例えば、とマキアは頭の中に亜人の少年を思い浮かべる。

 彼の稼ぎが仮に5万リムだとして、持っている装備を見る限り、弾代もかなりかかるだろうから少し稼ぎが出る程度だ。おそらく5万リムよりも稼いではいるだろうが、ハンターはマガツモノを討伐するために専用装備を購入する過程で、通常の倍以上の費用がかかる。

 それを加味した上での報酬。

 そしてそれを考慮に入れた上で、マキアの報酬は微々たるものだった。


「ということで、今日は弾代を考えたら稼ぎはないです」


 3600リムという稼ぎがどれだけ少ないものかマキアは懇切丁寧に説明する。メーテラは常駐依頼に参加しておらず、当然ながらハンターの実情は知らない。マキアの説明を聞いた上で、メーテラはそれでもマキアのことが『すごい』と感心していた。

 マキアはその様子を見て、自分がいまどれだけ最底辺にいるのか説明するためにもう一度口を開く。


「まあ……今言った5万リムもハンターの中じゃかなり低いですけどね」


 常駐依頼を受けるようなハンターは駆け出しがほとんどだ。腕利きのハンターのほとんどは企業のハンターオフィスに所属している。そこで支給された高性能な装備を使いながらマガツモノを討伐する――というのが理想的なハンター像だ。

 上を見ればキリの無いハンターの世界でマキアは最底辺。

 

「ってことです。頑張りますけど……おれが稼げるようになるのはかなり後になるかもしれないです」

「きっと大丈夫だよ」

「どこからその自信が……根拠はあるんですか? というかハンターのことよく知らないようですし、なんでハンターオフィス作ったんですか」

「え……まあ」


 目を逸らして渋い顔をするメーテラは何かを隠している様子しか感じられなかった。しかし追及しようとも思わないのでマキアはスルーして話を変えた。


「メーテラさんはどうだったんですか」

「ん? それはまあぼちぼちだよ。一応いつでも使える状態ではあるから、あとは設備次第だね」


 つまりはあと資金さえ集まればいい。


(いや……あとおれもか)


 設備が整ったとしてもマキアがマガツモノを狩れなければ素材を持ち帰って来ることができない。

 やはりハンターとしての経験が圧倒的に足りない上に装備も無いマキアには、この役割は荷が重すぎる。


「やっぱりおれ以外のハンターを勧誘した方がいいんじゃないですか」


 テイカーロッジというハンターオフィスを本格的に稼働させるためにはマガツモノを討伐できるだけのハンターが必要になる。マキアだけではとても務まらない。それに今後を見据えた時、マキアがハンターとして一人前の活躍ができたとしても単純に人数が足らない。

 しかし雇うためには金銭面の問題が付きまとう。それに大した実績のない明らかに地雷なハンターオフィスに入るというハンターを見つけるのも難しい。またその人物が実力のあるハンターである確率は無に等しい。

 そういうわけもあってメーテラは苦笑した。


「うちはもう手一杯だよ~。だってマキアに払う給料も無いんだよ?」

「まあ、衣食住があればいいですよ」


 マキアはすでに前に住んでいた家を解約してこの職場に寝泊まりしている。食事もこうして無料でもらっている。給料こそ支払われていないものの衣食住は確かにあった。

 前の職場での環境と暮らしを考えれば給料がなくとも、今の暮らしの方が心に余裕がある。


「またそれ~?」

 

 衣食住さえ整えられていれば他は気にしない、というマキアの『最低限』。メーテラにしてみれば明らかに地雷でしかないテイカーロッジに入ってくれた上に給料の支払ないもなくていいという破格の条件だ。

 申し訳なさと、マキアが今の状態に満足していることもあって甘えてしまいそうになる不安感から、メーテラは口を尖らせて言う。


「何か不満があったら言ってね。最低限できることはするから」

「じゃあL-331以外の武器ください」

「むむ」


 マキアの話からL-331がマガツモノ討伐用の装備としては最低限の性能すら持ち合わせていないことは聞かされている。新しい装備を社長として支給したいところだが、マガツモノ討伐用の装備は高い。備蓄をすべて叩けば最低限のモデルぐらいは支給できるが、それだと今後のことが成り立たなくなる。

 

「うーん。今は厳しいかも……」

「ですよね」

「うう、ごめんなさい。ちょっと友達に何かないか聞いて来るよ」

「別にいいですよ。少しいじわる言っただけです」

「むむ……」


 難しい顔をして黙り込むメーテラは何かを思いついたかのように顔をあげてマキアを見た。


「じゃあさ色々と設備とか仕入れてるところから今あるトラックを売って中古のトラック新しく買ってこよっか」

「それ……いいんですか?」


 今あるトラックを売って新しいトラックを買ってくるという案には賛成だ。だがトラックを修理する代金と、購入にかかる費用のどちらが上かが重要だ。もし購入費用の方が高ければそんなことしなくても、マキアは常駐依頼で稼ぐ。

 それに良い射撃練習にもなる。

 マキアの疑問を読み取った上でメーテラは説明する。


「大丈夫です。故障こそしていますが修理したら動かせる程度の中古トラックです。それもなんと少し修理すれば直ります。今あるトラックを売却したお金と修理代金を合算した費用と購入金額は同じくらいになると思います。それにもともとはハンターオフィスで疲れていた中古のトラックらしいので設備はそれなりに整ってます」


 マキアたちは自分達で修理できる分、トラックが故障していても修理代金を浮かせることができる。

 マキアとしてはトラックを買い替えたとて現場では有効活用できないため、その提案に完全に乗り気というわけではない。ただ話が本当であればそちらの方がいいのは事実だ。


「それなら……まあ」

「でしたら今すぐ買いに行きましょう」

「え?」

「こうしている間にも売れてしまうかもしれません」


 メーテラはご飯を胃に詰め込むとすぐに支度を始める。


「い、今から行くんですか?!」

「そうですとも。マキアは疲れてるでしょうから、ここで待機していてください。この社長がすぐに話をまとめてまいります」


 すさささ、と呟きながらメーテラが外へと出て行く。


「えぇ……」


 マキアは一人取り残されたリビングで困惑することしかできなかった。

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