9 為政者として
「平民はみなあんな暮らしをしているのか?」
帰りの馬車でオーディナルがつぶやく。ショックを受けたようだ。
「彼女たちは特に貧しい部類でしょうね。我が家としても炊き出しくらいはしているはずですが」
帰宅後、執事のクラークにたずねると、炊き出しは月に1回だけであった。
「グランツ公爵家は定期的に行っている分、良心的ですね。他の貴族家は冬に数回程度ですから」
「王家は?」
オーディナルが自信なさげに問う。
「炊き出しは存じませんが、都には貧民院も孤児院もございます。陛下は常に国民を考えていらっしゃいますよ」
王子はうつむく。支援がたりないことが分かったのだろう。
「みんな助けられればいいのにな」
「殿下のお心がけは素晴らしいことですが、しょうがありません」
確かにしょうがない。大勢を食べさせるには資金がいる。
働き手が丈夫であればそこまで困窮しないのだろうが、転落した人間を救い上げるのは前世の社会でも苦労していたのだ。
それでも私はオーディナルの言葉を反芻し、ハッとした。
私たちは将来人の上に立つ。
なのに今まで私が考えていたのは、自身の身の振り方だけだった。
でも断罪を回避して女公爵となるのなら、その後のことも見据えなければ。
(私は良い統治者になれるのだろうか)
王子は難しい話にすぐ飽きて周囲をケンケンしている。
「レジーナ見て見て、片足だけで部屋からここまでこれたぞ」
「うわあすごいですね」
落差にはがっくりだけど、できるだけ棒読みと思われないようほめなきゃ‥
意味などなくとも子供は共感して欲しいんだよな。
(私も殿下も知識や経験が足りなすぎるのよ)
勉強方法をさらに見直すことにした。
そして考えこんだ私は、画期的なアイテムを思いつく。
「オーディナル様、今日はこのカードで遊びませんこと」
私は厚紙を切って文字を書いたカードを取り出した。
「ん、王子とか公爵とか書いてあるな。数字も」
王子は新しい物には食いつきが良い。
「はい、これを混ぜて1人五枚ずつ配ります。お互いに1枚ずつ出して、権力数の高い方が勝ち。権力数の差が相手のダメージになります」
つまりは対戦型トレーディングカードゲームだ。
「婚約により伯爵令嬢の権力アップ、ボクの勝ちだ」
「ふ、甘いですわ。特殊カード婚約破棄を発動、この効果で婚約による効果は無効化。つまりはわたくしの勝利!」
勝負は白熱した。
ルールも手作りでライフを100にしたけど、増減させて試したい。
スゴロク形式で人生を考えるゲームや、町づくりのゲームを作っても良いだろう。
遊んでいる最中に新しいアイデアがどんどん降って来た。
社会問題については、使用人のうわさ話を調べることにする。
庶民の生活を少しでも身近に感じたい。
殿下には誰にもバレないで情報を集めるゲームと説明した。
「おもしろそうじゃん」
うん、すぐ納得してくれるよね。
(原作ではこの素直さが利用されたのかな。少しは人を疑ってくれ)
「メイドたちの間では護衛騎士のマイクが人気のようね」
「馬丁見習いが馬のニンジンをかじっていたぞ。うまそうだったからボクもちょびっと食べたんだ。でもあれマズイぞ」
ロクな情報が集まらない。
「出入りの業者も張るわよ」
裏口付近にひかえ、八百屋に肉屋が何を持ってくるかの調査する。
こちらの方が市井の様子が分かった。
「ふんふん、冬の間はミルクもバターも高いのね。春になったら卵も安くなると」
「じゃあ今食べているのはミルクも卵も高いんだな」
前世ではスーパーになんでもあるからそこまで気にしなかった。
(旬の野菜くらいは知っていたけどさ。知識だけ多くても実体験は少なかったのよね)
1人心の中で反省する。




