8 ピンク髪の少女
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少女は頬を真っ赤にさせてオーディナルに頭を下げた。
「お坊ちゃまこの御恩は忘れません。あたしフローラルって言います」
「フフン、ボクはオーディナルだ薬が買えて良かったな」
得意顔の王子をほほえましく見守っていた私だが、少女の名前が引っかかった。
(フローラルってこの世界の物語で私をおとしめる男爵令嬢の名前だったな)
目の前の少女はどう見ても貧民で貴族には見えない。
(ああ、あの令嬢も生まれは庶民だったか。孤児院にいたのを魔力が強いからって男爵家に引き取られたんだっけ。あれまさか‥)
少女の髪は薄汚れているが、ピンクだ。
(こいつ、やっぱりフローラル・ガーデンじゃん)
かわいい顔をしながら下種い性格で、オーディナル他何人もの側近を篭絡し、レジーナに冤罪を着せる女。
私の頭がクラっとした。
(関わりたくねー。こいつ嘘ばっかりつくヤバい奴じゃん。母親だって本当に病気何だか)
確認しなくては。薬は別の場所で転売するのかもしれない。
「リズ、あの子について行って殿下が騙されていないか調べて」
私は女性騎士のリズに調査を頼んだ。
「了解です」
殿下と少女には高価な薬を持って一人で出歩くのは危険だからと言い訳する。
屋敷に戻ってしばらく遊んでいるとリズが戻って来た。
彼女によればフローラルには本当に病気の母がいる。
(つまりこれから病気の母親が亡くなって、孤児院に入るのね)
であれば、母親が死ななければ少女が孤児院に行くことはなくなり、男爵家の養女となって学院に入学することも防げるはずだ。
(だったらフローラルの支援をした方が私にとっては得じゃん!)
主人公の敵を支援するのは断腸の思いだが、それでオーディナルにヤバい虫がつかなくなるなら願ったりである。
「リズ、わたくしがフローラルさんのお家に行くのは可能かしら?」
突然の提案に女性騎士はとまどった。彼女が判断できることじゃなかったわ、うん。
「そうね、お父様の許可がいるわね」
これは親に聞かなくては。
「お父様、私今日かわいそうな子と出会いまして」
不憫な少女の話をし、彼女の母親を見舞いたいと伝える。
「レジーナちゃんの優しい気持ちは大切だけど、その子だけ助けるのが良いこととは思わないね」
父はちゃんとした大人だ。
貧民の救済がテーマならそちらが正しいだろう。
だが私がやりたいのは冤罪回避で、ただの自己保身だからねぇ。偽善上等!
ごねまくって許可を得る。
そして緊急イベントにはもちろん王子もついて来た。
「こんにちはフローラルさん、突然の訪問を許してくださいな」
「は、はい!」
「いやっしゃいませ、ゲフッゴホゴホ」
フローラルが住んでいるのはすき間風が入りこむあばら家だ。
貴族からしたら物置より貧相である。
ただの箱にしか見えないベッドから病人が体をおこした。
いつもうるさいオーディナルが目を丸くして口をつぐんでいる。
「お母上のお見舞いに来ましたの。こちら受け取ってくださる。あなた、こちらへ」
私はメイドに大きなバスケットを粗末なテーブルへ乗せるよう指示した。
中身はパンの塊と紙に包んだ小ぶりな丸鶏、卵が10個にリンゴとイモが4個ずつ。
「栄養を取りませんと病気は良くなりませんわ。スープなら食欲がなくても食べられるはずよ」
メイドは勝手にかまどに寄り、空の鍋に水を張る。
他人の家なのにお構いなしだ。鶏を鍋に沈めイモの皮をむくと、細かく切って火にかけ塩をふる。
「え」
母子があっけに取られている内に、メイドはリンゴの皮もクルクルむいた。
「どうぞ、果物でしたらノドに通るはずです」
「ありがとうございます」
あたふたしながら病人はリンゴを口に入れる。
その間にレジーナは家の中を観察した。
(足りないものだらけね。食料の他に燃料だわ)
前世の知識だけでは分からないことが山積みだ。
「ああ、おいしい」
「お母ちゃんが食べてくれた」
リンゴは無事飲みこめたらしい。
有能なメイドは水をくんできてタオルを冷やしている。
私は護衛の1人に指示して使い走りに出した。
スープが煮え卵を混ぜる頃には、新しい毛布と薪の束が届いている。
「わたくしたちがいたら落ち着かないでしょうから、これで失礼するわ」
小屋を出るとフローラルがパタパタ出てきた。
「こんな親切にしてもらえるなんて。お父ちゃんが死んでからお母ちゃん働きづめで、本当にありがとう、ございます」
フローラルは泣いていた。
物語のこの子が性悪だったのは、赤貧や両親を亡くした孤独のせいかもしれない。
レジーナは看病に慣れていないので対応が雑です。飯食って暖かくしていれば病気なんて治るって考え。




