5 お勉強の時間ですよ
サロンには勉強机が用意されていた。
前世から、家庭学習はリビングが一番と知っている。だがローテーブルでは低すぎた。
今の私は床に座ることができないのだから。
客間にも勉強にちょうど良い机がない。
最初は私の部屋で勉強机を二人で使おうと思ったのだけど、父に却下された。
勉強机はサロンの中央に配置され、イスが二つ並んでいる。
「しばらくは落ち着かないと思いますが、勉強に机やイスは大事なのです」
まずはテキストの文章を音読。
文字は表音文字のみだけど、文体は会話文と少し異なるから読む練習は必要。
次は簡単な単語の書き取り。2語や3語の文章を作成。
そして計算。
9歳って前世の小学生で言ったら3年生くらいだけど、まだ引き算だ。
王子は2ケタ以上の引き算ができなくて困っていた。
「コインを持ってきてちょうだい」
侍女に用意しておいた財布を持ってきてもらう。
この国の貨幣は十進法が使えたから、繰り下がりの概念を銀貨と銅貨を使って説明するのだ。
「10の位を小銀貨、1の位を大銅貨と考えて下さい」
上の位から借りてくる概念を貨幣で説明する。
「10の位からい1借りると言うことは、小銀貨1枚を10枚の銅貨に両替することと同じですの」
じゃらじゃら銅貨を取り出す。
「銅貨13枚から5枚を引く感覚ですのよ」
「そうか! 答えは28だ」
「正解ですわ」
そこからは少年もスムーズに計算できた。
「よく頑張りましたね」
授業後、私は殿下の頭をなでなでする。
計算が苦手で逃げ出してばかりの王子だったのに、無事に時間いっぱい勉強したのだ。これくらいはほめなくては。
まあフワフワの金髪を堪能したいだけかもしれないけど。
そこで座学は終了。おやつを食べて休憩だ。
「次の礼儀作法は別々ですわね」
作法など男女別の講義は別れて受ける。
私は自室で、殿下は引き続きサロンだ。
「終わりましたら、素敵な殿下を見せて下さいね」
成果を見せる相手がいればモチベーションも上がるから。
「うる、わしいレジーナ嬢、招待に感謝、をもうしあげます」
つっかえつっかえだったが、殿下の言葉遣いは上達した。
「まあ、ご丁寧なあいさつをありがとうございます」
私もドレスの端をつかんでヒザをまげる。
来てやった、と比べれば格段な進歩じゃない。
殿下もホッとしている。
「それじゃ、一緒に遊ぼうぜ!」
うん、すぐ戻っちゃったね。
殿下の『遊ぶ』は大体動き回ることだ。
公爵家の庭園を、スミからスミまで探検する。
私が知らない所まであったよ。自分が住んでいる屋敷だって言うのに。
まだ子供の体なのに、私はすぐ疲れ切ってしまう。貴族女性の運動不足はあなどれない。
私にとっても王子と一緒にいるのはいいことなのかも。
金貨と銀貨の交換比率は1:20に設定しています。本当は銅貨も20進法の設定ですが、分かりやすく10進法の貨幣もあることにしました。小銀貨1枚=銅貨10枚=半銅貨20枚です。




