おまけ1 オーディナルの独白 前
留学中の王子エピソードです。
子供の頃の僕はバカだった。
ろくに勉強はしないし、好きな子にも乱暴に接してしまう。
兄上や姉上は立派なのに、どうして自分だけこんなに愚かなのだと自己嫌悪していた。
婚約を結んだレジーナはそんな僕にいつも優しい。
僕を公爵邸に呼んで勉強を教えてくれる。
彼女といると心が安らいだ。僕のことを好きだと何度も言ってくれる。
このまま結婚して、ずっと幸せに暮らすと信じて疑わなかった。
あいつに会うまでは。
同じ年頃の子供たちを集めた園遊会で、レジーナは知らない少年と仲良くなる。
アルベール・カステル。年上の外国人だ。
彼は僕より背が高く、頭も良く、たぶん顔も良い。
レジーナはアルベールにうっとりしていた。
そんな風に僕を見たことは1度もなかったのに。
嫉妬で心が苦しくなる。
「お前さ、アルベールとばっかり話しすぎ」
ついレジーナにきつく当たってしまう。
「レジーナだってボクがフローとばっかり仲良くしてたら嫌だろ」
「もっと大きくなってからなら嫌かもしれませんね。婚約者の立場を取られちゃうかも」
安心する。彼女も僕が取られるのは嫌なのだと。
でもレジーナの言葉には少し引っかかった。
「子供はいいのかよ」
「小さい時にずっと一緒だった相手を好きになることはないらしいので」
ショックだった。
(じゃあレジーナはボクを好きにならないじゃないか)
そして思い知る。
彼女の好意は母や姉のそれと同じであることに。
僕は婚約者に1人の男として見られていなかった。
(どうすればいいんだ? ずっと一緒がダメなら、しばらく離れれば大丈夫なのかな?)
『小さい時からずっと一緒』がダメなら、まだ僕たちは出会って3年もたっていない。
巻き返しは可能なはずだ。
僕は留学を決意する。
行先はアルベールの国にした。
競争意識もあったし、あの国の男は我が国より優雅で女性に人気があると聞いたから。
前準備もなく決定したから大変だった。
マナーや所作の授業ではいつも最下位。
一般教養も知らないことばかりだった。
入学してから3年ほど、僕はかなりヤサグレていたと思う。
レジーナの手紙を楽しみにしているのに、他の子にも目移りしてしまった。
隣国の王族である僕は女性との人気も高かったのだ。
女の子から誘われればデートもしてしまう。
(別にあいつのためにここまで頑張る必要あったっけ)
目標がゆらぐ。
しかし留学も後半に入った年、アルベールがトーン国から帰って来た。
「やあ、君がオーディナル第三王子だね。美しい婚約者を放っておいて自分だけお楽しみとは」
廊下で女生徒を侍らせているのを見つかってしまった。
からかわれれば罪悪感で心が痛む。
「お気になさらないでね。あの方留学中に婚約者から捨てられて、気が立っていらっしゃるのよ」
「そうそう、さすがに3年も会わなかったら仕方ないけれど。おかわいそうにね」
周りの女の子たちは僕をなぐさめてくれたが、かえってその言葉に肝が冷えた。
(つまり僕も捨てられるかもしれないのか?)
いや、あのレジーナに限ってそんな‥
うんまず僕は恋人として認識されていないのだから、確かなことなど分からない。
自分を棚に上げて婚約者には貞淑を求めるだなんて最低だ。
それでも待っていて欲しかった。
不安に気持ちが押しつぶされる。




