表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
9/9

09 エビル・レディ・スクリブルズ・オン・ピープル③

高取とコールマンによる任務。07~09まで続きます。





 立川区「千輪商事株式会社せんりんしょうじかぶしきがいしゃ」。事務所には多くのデスクで構成された島があり、その一角で緒竜おりゅうワリコはデスクに向かい受注入力をしていた。ふいに横にある休憩スペースのドアが開き、テレビの音声が流れてきた。


『死の年、あの未曾有の大災害によって隆起した大地から、突如として現れた結晶体、その名も聖石せいせき! まるで鉱石のような姿をしながら、実は高エネルギーを秘めた未知の物質なのです。聖石を採掘できる地帯は留燃りゅうねんと呼ばれ、化石燃料の枯渇に頭を抱える人類にとって、まさに救世主となり得る存在。しかし! その価値に目を付けたのは国家ではなく・・・・・・企業でした。国が大災害で疲弊する中、新エネルギーをめぐり熾烈な企業間闘争が勃発! そして意外にも、優位に立ったのは日本企業だったのです。今日の特集は・・・・・・』


 休憩室から細身のひっつめ髪をした女性が大股で出てきた。ワリコは横目で彼女を確認しながら、モニターに向かってキーボードを叩いていた。


「ワリコさん! あなた何してるの! 午前中までにハゲランスへの出荷を終わらしてって言ったでしょ!」


 ひっつめ髪をした女性、押入おしいれニノヨが大声で叱責すると先程食べていたであろう、煎餅の食べカスがキーボードにふりかかった。怒りを噛み殺して、ニノヨに振り向いた。


「申し訳ございませんでした。すぐに対応します」


 ワリコは先輩のお局社員であるニノヨに頭を下げて謝った。するとニノヨは手近にあった書類を手に取り、くしゃくしゃに丸めた。


「あっ!?」


 軽い衝撃があって気が付いたが、彼女はワリコの頭に丸めた紙を打ちつけたのだった。


「早くやってちょうだい!」


 ニノヨは気がすんだのか、再び休憩スペースへと向かった。頭を上げたワリコは長い髪の間から、後ろ姿のニノヨを睨み付けた。


 ワリコは屈辱に耐えながら、ニノヨが良い気になってるのは今のうちであり、いつでも殺せる、と心に言い聞かせた。今はニノヨや会社のムカツク奴らを殺さないのは疑われないようにしているだけだ。


 休憩時間になり、ワリコは行きつけのシミーズに行った。コーヒーを飲みながら携帯端末を操作してトイッターに書きこんでいる。トイッターは一回二八〇文字までトイートという投稿ができるSNSである。ワリコは独身でありながらもアカウント名「ママ友」で投稿をしている。この名前は独身でモテない鬱屈を晴らし、自尊心を満たす為であった。


 ニノヨへの憎しみをこの前はスープを溢した男で発散していた。次のストレス発散の対象を満員電車でワリコにぶつかった女を血祭りにあげようと決めた。まずはフォロワーに意見を聞いてみることにした。


ママ友『みなさんに選んでもらいます。今日、満員電車でいつも見かける派手な女が意図的に私にぶつかってきました』


 ピコンという音と共にトイートを投稿した。


ママ友『一、許して何もしない。二、許せないからアバズレと書いて殺す。さぁ選んでください』 


 さらに投稿した。ワリコは会社のストレス発散のために最初は綺麗な家に落書きをして家主の困った顔を見ることで満足を得ていた。また、あるときはトイッター内の架空の殺人をすることで満足を得た。そんなある日、落書きをしていると突然、超人に覚醒した。そして、気の力でスプレーが強化され壁を破壊してしまった。慌てて逃げたが捕まることはなく安心したワリコの行動はどんどん大胆になる。そこからストレス発散の対象をじょじょに物から動物、人へと移していった。


「二が多いわね。フフフ、また殺せる」


 ワリコはぎらついた瞳で携帯端末を眺めた。休憩が終わると午後の仕事が始まった。ニノヨがまた、ワリコに難癖をつけてはいびってきたが、心は平穏を保っていた。自らをバカにした次のターゲットをいかにして殺すかを考えることで暗い楽しみを感じていた。


 ようやく仕事が終わるとすぐに会社を出て、駅へと向かった。新青梅線に乗り、中神駅で降りると自宅のある住宅街へと歩いていく。ソーラーパネル付きの和風モダンの一軒家が建ち並んでいる。近道をする為に脇道を入ると周囲には誰もおらずワリコのヒールの音だけが響いていた。


 前方にある工事予定地から人影が現れた。ワリコは不審に思いながら影を観察した。人影に微かな街灯の灯りに照らされ、黒い仮面を被った男であることがわかった。仮面の中央に赤いV字型シールドが嵌められている。


 ワリコは歩きながらも警戒して気を高めていった。男の顔がこちらに向けられると赤いシールドにワリコの姿が映った。男との距離が近づいたので男を避けるように進路を変えると男も合わせて移動した。ワリコは立ち止まり、いざとなれば自分の身は守れると思い、あえて不審な表情を出して問いかけた。


「何か用ですか?」


 仮面の男が真っ直ぐにワリコに顔を向けた。





「ミズ緒竜ですね?」


 黒い仮面を装着した高取はワリコの前に立ち塞がった。目の前の女が下らない理由で罪のない若者の未来を奪ったと思うと高取の血は沸騰した。


「なんですか? あなたは」


 ワリコが不審そうに尋ねた。高取は拳を握りしめワリコに答えようとした時、ワリコの背後から黒い仮面を装着したコールマンが歩いてきた。


「狂師よ」コールマンが言うのへ、ワリコが振り向いた。


「狂師? なんだか知らないけど、不審者ね! 警察に訴えるわよ!」


「ハハハハハハハハハ! 警察ですか? それは面白いですねぇ。あなたこそ警察に訴えられるべき存在じゃないですか? ミズ緒竜」


 ワリコが高取を睨みつけた。


「なんですって!? 私が何をしたっていうの? デタラメ言ってんじゃないわよ!」


「私たちはあなたの罪を知っているのよ。色々と調べさせてもらったわ。あなた・・・・・・シミーズでバイトをしていた椰子オチタさんを殺したわね?」


 ワリコがコールマンに振り向いた。


「ミズ緒竜、トイッターでフォロワーだけが見れる投稿であなたにスープを溢した彼を殺すかどうか尋ねましたね?」


 高取はワリコを問い詰めていく。


「だから? なんなの? その人が殺されたからって私がやった証拠はあるの?」


 高取は怒りから両肩をピクピクと動かした。


「証拠はこれから見せてもらいます・・・・・・まったくどうしようもない人ですね。あなたのように人を馬鹿にしたものはいつか・・・・・・しっぺ返しをくらう!!」


 ジャッキィン! ジャッキィン! 高取の両腕に装置されたアームカバーから二対の刃が突き出した。


「まさか!?」


 ワリコは驚きの声をあげる。


「力を持つ者はあなただけじゃないということよ。ボールペン!!」


 ブゥゥゥゥゥゥゥン! コールマンが仮面に挿していたボールペンを引き抜き、光の刀身を伸ばすと光るペンを作り出した。


 ワリコが高取とコールマンを交互に見ながら、怒りの表情を浮かべた。


「あらそう・・・・・・天が授けた才能をこんな下賎な奴らが持っているのね・・・・・・そんなのは許せない! それに私のことが知られると生活に支障が出るわね・・・・・・二人とも消えてもらおうかしら」


 そう言うとワリコがバッグの中からカラースプレーを二本取り出し、バッグを投げ捨てた。同時に高取とコールマンは前後から走りだす。


 ワリコが髪を振り乱しながら両腕を伸ばし、スプレーを構えると、前後に照準を向けた。目を見開き、笑みを浮かべ、スプレーを噴射した。


「落書きぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 プシューー! プシューー! スプレーの噴射音が響き、高取は防ぐように両腕の刃を掲げた。


 ジジジジジジ、スプレーのガスが刃に直撃し、バーナーで炙るような音が響いた。コールマンもワリコの強化されたスプレーを光るペンで受けていた。


 高取は刃で受けて防ぎながらも走って近づき、ワリコとの距離を縮めていく。奥でコールマンも光るペンで防ぎながら迫っている。


「ふん!」高取とコールマンが前後から攻撃範囲まで迫ろうとした瞬間、ワリコがその場で垂直にジャンプ。


 民家の屋根へと着地し、地の利を得たワリコが高所からスプレーを噴射した。再び激しい噴射音と共にスプレーが襲う。ドォォン、高取の足元をスプレーが直撃するとコンクリートの破片が飛び散り、地面を穿った。攻撃をかわすように高取とコールマンもジャンプしてワリコへと殺到する。


 高取は空高くジャンプしながら一気にワリコにせまり、右の刃で斬撃を繰り出した。


「ギャッ!」


 高取の腕に肉を切り裂く感触が伝わった。ワリコが咄嗟に躱すも、脇腹を浅く抉ることに成功した。彼女はその衝撃から、崩れそうになるバランスを取るため強く足を踏みしめ、瓦の破片が舞った。


「ぐ!!」


 斬撃を終えた高取はワリコの後方へと着地すると勢いで屋根の端まで滑るように瓦を蹴散らした。


 体勢を立て直したワリコが高取にスプレーを向けようとした時、今度はコールマンが屋根に着地、光るペンを素早く振り上げた。


「あっ!?」


 ワリコは左のスプレーを噴出しようとしたがそれより早く、光るペンがスプレー缶を捉えて左手から缶を弾き飛ばした。すかさず、コールマンは左足で蹴りを放つ。


「うげぇぇ」


 コールマンの蹴りが傷を負ったワリコの脇腹に直撃した。コールマンは脇腹にめり込んだ左足をさらに強く押し込んだ。


「くらいなさい!」


「ぎぇっ!」ワリコが屋根から射出されるように地面に叩きつけられ、土埃が巻き上がった。


 それを見届けた高取は屋根から跳躍、空き地へと着地。コールマンも離れた位置に着地した。


 高取はそのまま、見通しの悪い土埃の中を音もなく進んだ。前方にいるワリコが身体を起こし、立ち上がった。


「ぐ・・・・・・なんで私がこんな目に合うの! 私は選ばれた存在よ! ストレスを解消して楽しませる為に天が私に力を与えてくれたのよ! 私にはムカツク人を殺す権利があるんだわ! それを邪魔するなぁぁぁぁぁぁ」


 ボロボロになったワリコが、土埃を切り裂きながら、右手のスプレーを屋根へと向けるのが見えた。


「なんでよぉ!?」


 屋根の上にいたはずの二人の姿が見えないことに驚いたのかワリコが叫んだ。高取は土埃に身を隠しながら、その光景見ていた。隙あり、高取が攻撃モーションに移ろうとした時、ワリコの後ろに影が見えた。


「どこにいったぁぁぁぁぁぁぁ!」


「そんなに殺すのが楽しい?」


 ズゥゥン、ワリコの背後から光るペンが突き出した。コールマンが音もなく近づいていたのだ。


「・・・・・・!?」


 振り返るワリコをコールマンの仮面が無表情に見つめていた。


「あなたのストレス発散で殺された人の痛みを知りなさい!」


 コールマンは背中から腹を貫いた光るペンを捻った。


「ぐぇーーっこの!」


 ワリコが右手のスプレーを背後のコールマンに噴きかける為、後ろに向ける。ここだ、高取は一気に跳躍して刃を振り上げた。


 ジャキィィィン! 高取の刃が一閃。鋭い音を響かせスプレーを持ったワリコの右手首が刃で切断され、肉片と共に宙を舞った。


「ギャァァァァァァァァァ」


 ワリコの右手首から勢い良く血が吹き出す。ドチャ! と湿った音と共に右手が地面に落ちた。


「なんでぇぇぇぇぇ私はぁぁぁぁぁこんな目にぃぃぃぃ」


「緒竜。あなたにはわからないでしょうね。もう良いわ」


 コールマンはそう言うと光るペンをワリコから引き抜いた。


「ぎっ」


 腹の傷口から血が吹き出る。再びコールマンは光るペンを構える。


ドズゥン!


 光るペンがワリコの背中から心臓を素早く貫き通した。


「なんで、私が!?」


 ワリコがコールマンを睨み、一言発すると目の光が消えた。光るペンを引き抜くとその場に崩れ落ちた。


 高取は死体となったワリコを見下ろした。ワリコの黒い血が地面に滲み出した。


「超人の力を手に入れた者は自分が選ばれた者であるとか、優れた者だという妄想を抱くわ。でもね、この力はただの呪いよ」


 コールマンが呟くと光るペンから光が消えた。


「呪い・・・・・・ですか」


「見なさい、この女に力がなければ空想の中で済んで他の者に害悪を与えることも、こうやって私たちに殺されることもなかったのよ」


 高取の胸にコールマンの言葉が重くのしかかる。超人の力さえなければカヨコは死ぬことはなかった。だが、超人の力がなければカヨコの仇を討つことができない。


 高取は暗い表情で刃から滴るワリコの血を見つめていた。





 夜の静けさが、家の中をじっと包む。


いつもならオチタの笑い声が聞こえていた場所に、今は何もない。目の前には、矢迷値が淡々と消えた痕跡だけが残っていた。


 カニエは矢迷値から戦闘画像とワリコの発言、防犯カメラやトイッターの内容を見せてもらうと残りの五十万円を支払った。矢迷値は金を受け取ると、奴は裁かれるべくして裁かれた、と言い残して去っていった。


 カニエは座敷にしゃがみ込み、手のひらで顔を覆った。心の奥で何かが空っぽになった音が、かすかに聞こえる。


「終わったのね。オチタを殺した奴はもう・・・・・・いない」


 隣でノキオが頷く。カニエの胸の奥は軽くならない、息子は戻らないし、あの悲しみも、消えてはいない。ただ、怒りがひとつ消えただけだ。


 カニエはゆっくりと立ち上がり、仏壇の前に座る。

息子の写真を見つめる目に、涙が自然とあふれる。


「私たちこれで良かったのよね」


 ノキオは隣で、黙ったまま座っている。


「もしかしたら、何もできずに終わったかもしれない。それよりは・・・・・・オチタの無念だけは晴らしてやれたんだ・・・・・・それが全てじゃないか?」


 ノキオがカニエの肩を抱き寄せた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ