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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
4/9

04 ビカム・ア・狂師①

狂師としての初仕事です。04~06まで続きます。






 ハチオウジ市日野区、豊田駅の近くにあるアパート「メゾントンチキ」四〇四号室。


 ジリリリリリリリリ、目覚ましの大きな音が鳴り響く。高取は目覚ましを止めた。ベッドから身体を起こす。ガランとした部屋を眺めると虚しさを振り切るように立ち上がった。


 今までならいつまで寝てるの? そう明るく声をかけてカヨコが起こしてくれた。そこから一緒に朝食を作って、一緒に食べて、一緒に家を出て、お互いの職場に向かった。ささやかだが満ち足りた日々だった。だが、カヨコはもういない。高取は正規教諭になる夢も捨てカヨコの仇を討つ為に狂師きょうしの道を進んでいる。今では非常勤講師は夢への通過点ではなく狂師の隠れ蓑としてしか認識していない。


 カヨコの写真に手を合わせると高取は身支度を整えて家を出た。ヘルメットを被り原付に乗ると西八王子にあるハチオウジ市立高尾木高校に向けて走り出した。風が頬を掠め、蛍光色のジャンパーを揺らす。春が近づいているのか身を切るような風ではない。


 高取が信号待ちをしていると拡声器を使った大声が聞こえてきた。


『・・・・・・政府の弱体化がフシモリや巨大企業の横暴を許している。今や政府は巨大企業の言いなりだ! 低賃金を許すな! 生活改善! 生活改善!』


 真横の歩道を鉢巻をしめた集団がプラカードを掲げながら行進していた。集団は方向からフシモリの本社に向かっているのだろう。高取はそれを冷めた目で見ていた。信号が青になるとスロットルをまわした。原付は集団を追い越して車道を駆け抜けた。


 前方に日本大災害の影響で大地が隆起し複雑な形状に変形し、巨大になった高尾山が見えた。現在では隆起したことで危険地帯となり、古代の遺物も出土したことからフシモリが出資した官民による研究機関「愛研常識あいけんじょうしきの会」が高尾山を管理していた。高尾山の中腹にある研究施設のパイプやタンクが陽光に反射して光を放っている。


 暫くして高校に着いた高取は原付をとめてヘルメットを脱ぐと脇に抱え歩きだした。


「おはようございます」


 生徒が元気に声をかけるが高取は生徒を一瞥し頭を軽く下げて、呟くような挨拶で応じた。


「おはようございます・・・・・・」

 

 背後から生徒の囁きが聞こえてきた。


「高取の奴、変わったな」


「仕方ないじゃない、あんな事があったんだから」


 高取は気にせず校舎に入った。職員室に行くと淡々と授業の準備を進め、教室へと向かった。同僚は復職当初は気にかけて話しかけてきたが人を寄せ付けない高取の雰囲気もあり、会話が自然と減っていた。


 教室に着くと虚ろな目で生徒を見つめた。生徒のざわめきが収まると高取は両肩をピクピクとさせて呟いた。


「それでは授業を始めます」


 高取は前回の復習を終えると新たに黒板にチョークを走らせた。


「ヒー・ファウンド・ア・コックローチ・イン・ヒズ・カップ・オブ・ヤキソバ・ヌードルズ」


 黒板に書いた文字を読み上げた。


「これは過去形ですね。彼はカップ焼きそばの中にゴキブリを見つけた、という意味になります」


 淡々とした声が教室に沈む。生徒達の一部が小声で私語をしているが高取は振り返らず、さらに板書を続けた。


「ア・コックローチ・ワズ・ファウンド・イン・ザ・ヤキソバ・カップ・ヌードルズ」


 高取は死んだ目て生徒を見渡しながら、文字を読み上げた。


「これは受動態ですね。カップ焼きそばの中でゴキブリが見つかった。はい、次に進みます」


 数人の生徒がさらに私語を始め、後ろの席では机に突っ伏す影が増えていく。退屈と気まずさが混ざった空気が、じわじわと教室を満たしていった。


 高取はそれを気にせず、関心は放課後に向けられていた。





「始めるぞ」


 暗くなった多摩川の河川敷で高取は後藤と向かい合った。後藤と共に狂師として戦うと決めてから、仕事終わりに高取は超人として気の使い方を習っている。


「十分間集中始め!」


「はい」


 高取は答えると肩幅に足を開き、拳を握り力を込めた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 高取の中心から光の膜が湧き出て、全身を包んだ。その状態で三分経つと軽く汗が滲み出してきた。


「気の力を身体になじませたら、各部位に気を注力させろ! 攻撃と防御の要だ」


 頭、胴、腕、足と順番に気を集めることを意識する。五分過ぎると手足が痺れ、八分経つと全身が震えてきた。十分が過ぎると高取は倒れた。息が上がっている。


「慣れてきたな。立て、次は私と立ち合え」


 高取は起き上がり、息を整える。そして、脇を閉めて構えた。


「しっぺ返し!!」


ジャキィン! ジャキィン!


 鋭い金属音が響く、両腕に装着されたアームカバーの袖から二対の刃が勢い良く突き出した。高取のように気を刃のような形で具現化するものや気を光のように飛ばすもの、単純に気で身体を覆い身体能力向上する等、超人の能力発現は多種多様である。共通しているのはイメージを強くすることで能力を強化、向上させる特性を持つことである。その為、能力に名を与え言葉で発することで能力を引き出す者が多い。


「私を殺す気で向かって来い」


 後藤は両手を広げて高取を誘ってきた。高取は刃を構え、後藤に向い走ると右腕の刃で後藤に斬りつけた。後藤が掲げた右手の周囲が振動で歪み丸い光となった。


「ふん!」


 ギィィィン! 高取の刃を後藤が手の丸い光で受け止めた。


「ハァァ!」


「ふん!」


 左の刃で斬りかかるがまたしても、後藤の丸い光が受け止める。


「ハァァ!」


「ふん!」


「ハァァ!」


「ふん!」


 高取は右左の刃を次々に繰り出すが全てが受け流される。


「馬鹿者! お前の攻撃は全て効かん。もっと能力のイメージを高めろ!」


 高取は刃を振りながら、右足で蹴りを仕掛ける。それを後藤が左足で払う。バランスが崩れた高取の胸に後藤が三角形を作った両手を突き出す。


「ホゲェェェェ!」


 両手の三角形が振動で歪み、光が放たれると高取の胸に勢い良く叩き込まれた。


「ぐあぁぁぁぁ」


 高取は葦の葉を折りながら、五メートルほど吹き飛ばされ倒れた。起き上がろうとするが、後藤が飛びかかり、拳を振りかざした。


「!?」


 高取は頭に衝撃を感じ、目の前が暗くなった。



「気がついたか?」


 高取は意識を取り戻し、立ち上がった。後藤が多摩川の暗い川面を眺めている。


「私の力はまだまだですね・・・・・・。こんなことではいつまで経っても前に進めません・・・・・・」


「そこまで悲観するな。超人として覚醒しても気をうまく扱えず無能になる者、暴走する者に比べればコントロールはマシだ。それにお前の憎しみが具現化した刃・・・・・・しっぺ返しか。成長させれば強力な武器になる」


「・・・・・・ありがとうございます」


プルルルルルル


 後藤が携帯端末を手にとった。


「後藤だ。・・・・・・わかった。すぐに行く」


 通話を終えると後藤が高取に向きなおった。


「仕事だ。お前も来い」





『・・・・・・以上、日野区中央公園で行われたフシモリが援助する孤児院のお祭りの様子でした。いかにフシモリがこのハチオウジに貢献した優良企業であることがわかりますね。次のニュースです。八日未明、多摩区のハチオウジモノレール駅付近で男女二名が通り魔に襲われ、釜飯かまめしタクオさん二十七歳は格子状の物体で押し潰され死亡、妻の釜飯トウゲさん二十五歳は意識不明の重体です。警察では被害者の回復を待って犯人の特徴を聞き出すとのことです。続いてはフシモリ通販部提供によるテレビショッピングです』


 BARヤギの店内。プツン、カウンター内のテレビに映しだされていた映像が消えた。テレビの下にいる米山がタオルで額を拭うとカウンターに座る高取、後藤、コールマンに視線を向ける。


「説明していいかな。この一年前の事件の被害者、釜飯トウゲさんに接触したが依頼するって決めてくれたよ。半金で二十五万円貰ってる」


 米山は超常犯罪被害者に接触し、依頼を取り付ける役目を果たしている。 


「この金額だと犯人の目星はついてるのね?」


 コールマンが金髪の髪の中に刺しているボールペンをいじりながら訊ねた。


「もちろん。釜飯さんは襲われたとき、犯人の顔を見ている。釜飯トウゲが結婚する前にストーカーのように張り付いていた多木たきリョウマという男だ。超人に覚醒してチャンスを伺ってたんじゃないのかな。タクオさんを殺した後、釜飯さんが多木の能力で鉄格子に捕らわれた時、偶然にも警察が来た。おかげで多木が逃げて救われた。警察も目撃しており、解決は早く済むはずが突如、捜査を中断したんだ」


「なんで過去のストーカーもわかっていて、警察も目撃しているのに捜査を中断したんですか?」


 高取が訪ねると米山が首を振った。


「いいかいこの多木は今、民間軍事会社である自宅警備員の社員をやっている。経営陣に警察幹部の天下りがいる組織だ。多木の親は金持ちだ。超人となった息子を守るために泣きついたんだろうな、奴らが警察に圧力をかけたんだよ。それから能力を認められたのか多木はこの会社でも汚い仕事を請け負っているみたいだしね」


「腐ってますね・・・・・・民間軍事会社ですか・・・・・・」


 高取は怒気を含ませて呟いた。


 治安の悪化した日本では自衛の為、武器使用規制が緩和された。それと共に民間の武装組織も許可され、多くの民間軍事会社が創設された。


 ハチオウジ市内でも自宅警備員、ブカツドー、多摩連合、アケッパナシセキュリティー等、複数の民間軍事会社がしのぎを削っていた。


「民間軍事会社ということは多木はプロか。ある程度の腕前はあるな。よし・・・・・・高取、お前が仕留めろ」


「後藤さん、まだ高取には早いんじゃない。私がやるわ」


 コールマンが高取を見て言った。


「そうだ。まだ、後藤さんの修行も途中じゃないか」


 米山も心配そうに高取を見やる。


「高取、どうだ?」


「構いません、私がやります。この男を倒せないようでは黒いフードの男も倒すことができません」


 高取は後藤を見据えて言った。後藤が頷くと一度、目を伏せて再び高取を見つめた。


「高取、一応言っておこう。この多木を見てもわかるように超人の力は魔力を秘めてる」


「魔力・・・・・・ですか」


「そうだ、超人の力を使えば常識では考えられない現象を起こす事ができる。例えばそういった力を持った者が気に食わない奴を自分が罪に問われずに殺すことができるとする。初めの一人は衝動的に殺すかもしれないが・・・・・・罪に問われなければ別の気に食わない奴も殺そうと思うかもしれない。そうしていつの間にか超人の力に飲み込まれる」


「私もそうなると?」


「そう思っておいた方が戒めになる。狂師もある意味では気に食わない奴を殺す超人、多木と同じ穴の狢だ」


 後藤が無感動に言いながら高取だけでなくコールマンと米山にも視線を向けた。


 後藤の言葉は高取に重くのしかかったが、心の奥底ではカヨコの仇を討てるのなら力に飲み込まれても構わないと思っている自分がいた。高取は拳を握りしめると様々な思いを振り払い、今は多木を倒すことに集中しようと決めた。



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