03 高取・ズ・リバイバル③
■
高取は退院後、カヨコの死に伴う手続きをした。カヨコの両親は憔悴しており、高取は彼らを慰めながらも自身は復讐の決意を固めて活動を開始。まず、後藤の行方を探す為に八王子区三崎町の繁華街へと向かった。
ハチオウジ駅を降りると閉鎖中の西急スクエアが目に入り、高取の心に痛みが走る。爆発したフロアには幕が張られ工事が急ピッチで進んでいた。それ以上見ないようにして歩みを進めた。
辺りは暗くなっているが、三崎町はネオンの光に溢れていた。高取はネクタイを締め、袖無しのセーターの上に蛍光色のジャンパーを羽織り、腕には花柄のアームカバーを着用した仕事着で探索している。この方が客引きも声をかけやすく、情報を得やすいと考えた。寒さに身を縮めながら高取は繁華街を歩いていく。
「お兄さん! よってらっしゃいみてらっしゃい! 良い娘に会いたいならストライクだよ! 店長の洋余さんが待ってるよ! ヨーヨさん! ヨーヨさん! ヨーヨさん! が待ってるよ!」
派手なスーツの客引きが叫んでいる。
「後藤エイショウというバーのマスターを知りませんか?」
「後藤? それよりストライクに来てよ。お兄さん身なりも良いしモテるよ! さあさあ!」
高取は無駄だと思い客引きを避け、先に進んだ。
「うーんヴァンダム」「コマン道」「息子ガセガール」といった妖しげなネオンの看板の下を仕事終わりのサラリーマン、学生、ヤクザが渾然一体となり歩いている。暗がりに目をやると家出してきたとおぼしき少女が売春の為かサラリーマンに声をかけている。また、ボロボロの服の男が自動販売機に指を突っ込み小銭を抜いていた。
高取は道行く人に後藤の行方を聞くが誰も耳を傾けてくれない。どうすれば良いのか? 焦りが募る。なおも繁華街を歩き続けていると後ろから声をかけられた。
「おーい、あんた、後藤エイショウを探しているのか?」
振りむくと眼鏡をかけた小太りの男がいた。年のわりには白髪が多く、ヨレヨレのワイシャツを着てタオルを首にかけていた。
「知っているんですか?」
「俺の知り合いだ。何か用なのか?」
「助かります。後藤さんには聞きたいことがあるんですよ。ですが八王子区のバーに勤めているという以外に場所がわからなくて」
「俺について来な」
そう言うと小太りの男は歩きだした。高取は藁にもすがる気持ちで男の後について行った。
小太りの男は脇道に入り暗い路地を歩き続けた。暗い路地では怪しい男たちがやり取りをしている。「ハピウケ」という言葉が聞こえてくる。最近、流行っている違法薬物である。話していた男が高取に気づくと、睨み付けて奥の暗がりに消えていった。
尚も暗い路地を進んでいく。その時、後ろから足音が聞こえてきた。高取が振り返ると黒い影が走って近づいていた。とっさのことに驚いて身体が固まった。
影は紫色のハート型バイザーが嵌められた黒い仮面を装着していた。身体は黒い特殊なスーツで覆われているが体格から女性だとわかる。
「なんです!?」
瞬間、目の前に仮面の女が迫る。
「はっ!」
右足から鋭い蹴りが放たれた。高取は避ける間もなく側頭部に蹴りを受けて壁に激突した。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
高取は痛みに絶叫をあげた。さらに仮面の女はよろめく高取の顔面と腹に次々と拳を打ち放った。
「はっ!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「はっ!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
防御をとる暇もなく高取は打たれ続けている。その様子を小太りの男はだまって見ていた。
仮面の女がボディーブローを繰り出す。
「げほぉっ!」
重い拳が腹部に入り、鈍い音が響くと高取は血を吐き、壁に沿って倒れた。高取は腹を押さえて痛みに耐えながら相手を睨みつけた。
仮面の女は頭の後ろに右手を伸ばし、ボールペンを取り出した。
「ボールペンソード!」
ブゥーーン、ボールペンから光が迸ると剣のような形で固定された。
「ここまでよ。死になさい」
仮面の女は無慈悲にも光るペンを振り下ろした。高取はとっさに右腕で顔を庇う。その刹那、このまま死ねばカヨコのもとに行ける、楽になれるという思いが頭を掠める。だが、カヨコの仇を討たずに死ぬことは許されない、仇を討つという憎悪がそれを打ち消した。こんな所では絶対に死ねない。
高取の悲痛な想いに答えるように身体の内側から強烈な光が溢れだした。
「!?」
そして、高取の両腕が熱を持った。熱を持つ腕の中心から二本の冷たく細長いものが生えて皮膚に触れる。その瞬間、
ジャキィン! ジャキィン!
金属音と共に両腕に着けているアームカバーの袖からそれぞれ二本の金属のようなものが突き出た。鋭い刃物を思わせるメタリックな色と質感をしている。高取は訳も分からずに光るペンに向けてその刃を掲げた。
ガキィン!! 激しい音がして刃が光るペンを受け止めた。
「うわぁぁぁーー!」
さらに高取が力を込める。じりじりと押し返す。仮面の女が光るペンを引いた。
「これは!?」
高取はようやく自らの腕から生えた刃に驚いた。それも束の間、仮面の女が攻撃を仕掛けてくるのが見えた。高取は本能的に相手に刃を振り下ろす。
光るペンが受け止め、さらに刃を振り上げて斬りつける。再び光るペンが受け止めた。高取と仮面の女は互いに刃と光るペンを打ち続け、金属音が響く。
高取は必死に刃を振り上げて対抗した。刃と光るペンが弾かれて一瞬の空白ができると高取は力を込めた一撃を放った。呼応するように仮面の女も光るペンを勢い良く斬りつける。
パーーン! という音と共に刃と光るペンが勢い良く弾かれた。すかさず仮面の女は光るペンを引くと高取に足払いをくらわせた。足払いを脛にくらった高取はバランスを崩し倒れそうになる。
「ぐっ!」
高取は両足を踏ん張るとなんとか倒れずに堪えた。その隙に仮面の女は後ろへ下がり距離をとった。高取は刃を相手に向けて構え、睨み付けた。両肩がピクピクと動く、高取のイライラした時の癖である。
「やられる訳にはいかないんですよ! ・・・・・・しっぺ返しをくらわせてやる!」
仮面の女も構える。
「そこまでだよ。コールマン」
見守っていた小太りの男が言った。コールマンと呼ばれた仮面の女は頷き、構えを解いた。高取は困惑したように両者を見やる。小太りの男が近づいて言った。
「すまないね高取さん。後藤さんに言われてやったことなんだ」
「後藤さん!? どういうことです?」
コールマンが黒い仮面を外すと前髪をくるりと巻いて立たせた欧米風の顔が現れた。コールマンはミディの金髪を振ると仮面を脇に抱えた。
「事故であなたは超人に覚醒した。後藤さんに言われてあなたを襲ってその事に気づかせてあげたのよ。能力を見たかったけど少しやりすぎたようね、ごめんなさい。これで何故あなたが後藤さんに声をかけられたのかわかったでしょ?」
高取はコールマンに言われて改めて二対の刃を見た。ようやく自らが超人であるという事実に驚いた。意識を集中すると二対の刃は角度を曲げたり、引っ込めることができた。また、身体の中心に熱い力を感じた。これがあの後藤の言っていた気の力なのだろうか。
「自分のことが分かったか? 俺は米山スドウ、彼女はジャネット・コールマン。俺たちは後藤さんの仲間だ」
小太りの男がコールマンの横に立ち言った。
「一体・・・・・・何者ですか、あなた達は?」
「私たちは狂師」
「きょうし?」
米山が手を差しのべた。
「後藤さんのもとに案内しよう」
■
路地の暗がりに「BARヤギ」と書かれた電光掲示板が設置されている。その横に地下へと続く階段があった。高取は米山とコールマンの後に続き、階段を下りていった。
階段を下りると目の前に汚い扉があり「CLOSE」の札が掲げられている。気にせず米山がドアを開けた。薄暗い店内は縦に細長く、カウンターが八席あるだけの作りだ。客席側の突き当たりにトイレがあり、カウンター内の突き当たりにはドアがあった。
バーテン姿の後藤がカウンターの中で酒を作っている。手を止めて高取たちを見た。
「高取コウジ、よく来たな」
「あなたは一体何者なんですか? 何故、私が超人に覚醒していることに気づいたんです?」
「疑問はわかる。まずはカウンターに腰をおろせ。酒を作ってやろう。話はそれからだ」
米山、コールマン、高取の順でカウンターに腰かけた。高取は置いてあったおしぼりでコールマンに殴られた顔の傷を拭うがすでに血は止まっていた。
高取の前にウイスキーのロックが置かれた。後藤は同じものを自らとコールマン、米山の分を作るとグラスを掲げた。
「まずは乾杯だ」
高取は訳のわからぬまま、とりあえず乾杯し、ウイスキーをいっきに飲みほした。アルコールが喉に染み、冷えた身体が温まった。
「約束通り、どういうことなのか話を聞かせてください」
後藤も一杯飲むと話し始めた。
「良いだろう。まずは私がなぜ、君を選んだのか。君の入院した永星病院の今井は私の友人でね。今回の事故の受け入れ先になっていたことから、情報をもらった。被害者の中で君だけが回復が異常に早かったというが、これは超人の特徴の一つだ。気の力で回復が早まるのだ」
「あなたは最初からこの事故に目をつけていたということはこうなることを知っていたんですか?」
「落ち着け、私がこの事故に目を付けたのは今井から黒いフードの男が爆発を起こしたという証言を聞いたからだ。超常事件は闇に葬られるのが常だ、超人の起こした事件を立証することが困難だからな。警察も一部の有志が超常犯罪対策に乗り出して、全国に対策班を設けている、市警だと特殊戦術室が動いているが機能しているのは一部だ。それでも超常犯罪を隠蔽したい勢力が多数を占めていて、うまくいっていない。超常犯罪の大抵が犯人に正統な裁きをくだすことができない」
「そんな・・・・・・じゃあ、野放しになっているということですか? それに解決が難しいのはわかります・・・・・・ですが隠蔽なんて・・・・・・」
「超人の力は金になる、利用したい権力者が多いのだ。だから公権力である警察にまかせる訳にはいかない。ただ超人に対抗するには同じ超人でないと戦えない。そして、私のこの理念に賛同してくれる者でなければならない。そこで私は超常事件の被害者で超人に覚醒した者達を探し・・・・・・お前を見出だした」
「私は・・・・・・あなたの言うような正義の味方になるつもりはありませんよ。私はただ、カヨコの仇である黒いフードの男を探しだし・・・・・・殺したいだけです」
「それで構わんよ。だが、君は手加減したコールマンにあしらわれる程度の力しかない。そんな状態で黒いフードの男を殺せるかね? 彼はあの規模の爆発を起こせる強力な力を持っている」
「それは・・・・・・」
高取は後藤を睨むが俯いた。
「我々は未解決の超常犯罪の被害者から金をもらって怨みを晴らしている。金をとるのは怨みを晴らす被害者にも覚悟を背負ってもらうためだ。覚悟のない者の怨みは晴らさない。仇を討つということは人を殺すことだ。覚悟が必要だ。米山とコールマンは君と同じように超常犯罪の被害者であり、超人に覚醒した者達だ。超常犯はまた、犯行を繰り返す。他の被害者の怨みを晴らしながら、お前の仇も探せるかもしれない。もし、我らと共にくるのならばお前に超人としての気の使い方を教え、得られた情報も提供しよう。あくまでもお前一人の力で戦うつもりなら止めはしないが勝算はほぼないと私は見る。どちらを選ぶ?」
「・・・・・・」
高取は自らの手を握りしめた。後藤の言うように今のままでは到底、黒いフードの男を倒すことはできないだろう。また、伝手もない。
後藤の申し出が仇を討つ近道だとはわかる。しかし、自らと同じように超人により大切な者を奪われた被害者の無念を晴らす為とはいえ人の命を奪うことができるのか? だが、人の命を奪うことを躊躇するようなら黒いフードの男を殺すこともできないのではないか?
高取の額にじわりと汗が滲んだ。全てはカヨコと見ることのなかった我が子の仇を討つ為に覚悟を持てるかどうかにかかっている。
「私たちはあなたと同じよ」
コールマンが高取を見つめて言った。米山も頷く。いつの間にか高取のグラスにウイスキーが注がれていた。
「・・・・・・」
高取はグラスを持つと再び、ウイスキーを飲み干した。目を閉じてじっと考える。頭の中では黒いフードの男とカヨコの顔が交互に浮かぶ。カヨコとの出会いと楽しかったい日々が甦る。そして、生気のないカヨコの手の感触。高取の閉じた両目から涙が一筋流れた。高取は迷いを振り切り目を見開いた。
「・・・・・・わかりました・・・・・・あなた達と共に戦いましょう」
後藤は両手をカウンターにつくと高取の顔をじっと覗き込んだ。
「怨みを晴らす為に相手を殺す。こんなことは狂ってないとできん。だから、狂師だ」
「狂師・・・・・ですか」
呟くように高取は言った。




