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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
2/9

02 高取・ズ・リバイバル②





 冬の透き通った夜空を炎が赤く照らし、煙が星を塗り潰した。炎と黒煙は西急スクエアビル十一階から巻き上がっている。ウーーウーー・・・・・・ピーポーピーポー・・・・・・ファンファンファンファン・・・・・・サイレンを鳴らして消防車、救急車、ハチオウジ市警の装甲パトカーが何台も集まってきた。歩道では人々が集まってビルを見上げている。人々の吐く白い息がそこかしこに見える。


「キャァァァーー!!」


「ミーチューバー、ギンピカによる実況中継やってみたー! パチパチパチパチ!」


「わー! すごーい!」


「不謹慎だぞ」


「トイッターの書き込みすごいな」


「助けてーー!!」


「おーい! 炎をバックに写真撮ろうぜ!」


「お母さんが中にいるの! 誰かーー!!」


 集まった人々が口々に喚く。


 ようやく装備の整った消防士がビルの中に入っていく。警官は規制線を張り、マイクで集まる周囲の人々に呼びかける。


『こちらハチオウジ市警です! 危ないですから・・・・・・』


『クービ、クビ、クビ、クビになる・・・・・・』


 家電量販店「クビカメラ」から音声広告が響く。


『・・・・・・押さないで! 近づかないでくだ・・・・・・』


『れつぎょ♪ うぉんちゅーしーまへー♪ あーうぉにのねぇー♪  そうちゅわなごーしっまいなろうへー♪ わーなわなちゅー・・・・・・』


 消費者金融「武高尾ぶたかお」のビルからは自社のCMソングが響く。


『市民の皆さん! 離れて・・・・・・』


 警官による呼びかけが周辺から流れる大音量の広告に紛れてしまう。


バララララララ


 消防のヘリが空から爆発現場に近づき、立方体が投下された。立方体の上部からはプロペラが展開、自律飛行で爆破現場へと向かった。これは消防士が現場に到着する前に状況確認と初期消火を実現するフシモリの災害支援ドローンである。ドローンが炎の中に入っていき、AIが情報解析し、リアルタイムに消防士へと伝える。消防士の突入経路を指定し、経路に沿って消火剤を噴出した。


 その下では騒ぐ若者達以外の大抵の人々は事故現場を一瞥するだけで、疲れた顔で駅に向かっている。


 炎に照らされた周辺ビルに目を向けると「健康の定説 ライフウェーブ製薬」「カラオケかん」と書かれたビルのネオン看板が毒々しく輝いていた。カラオケ棺に設置された巨大モニターからは広報映像が流れている。


『ハチオウジ市民の皆さんへのお願い。犯罪のない美しい町にしましょう。その為には市民の皆さん一人一人の自覚が必要です。我々、フシモリは死の年、日本大災害と復興に尽力し、これからもハチオウジ市のパートナー企業として皆さんの生活を支えていきます』



 ここはハチオウジ市、東京都二十三区以外の市町村が合併した巨大な市である。


 時は一九九九年に遡る。この年、世界各地で大地の震動と隆起現象を伴う大災害が断続的に発生し、甚大な被害をもたらした。災害の原因は特定できず、人類は恐怖し発生した年を「死の年」と呼ぶようになった。


 当時の日本は災害被害を免れた数少ない国であった。日本は率先して各国の復興活動に協力し、そこから日本の技術が急速に発展し、世界で躍進する日本企業が増えることになる。


 二〇一五年、今度は日本全土でも死の年と酷似した原因不明の災害が発生し、日本大災害と呼ばれた。この災害により日本は多くの人命を失い、国土は荒廃し、深刻なダメージを受けた。


 しかし、死の年以降、日本の技術が発展していたことで日本大災害に際しては、多くの日本企業が復興事業で躍進した。特に八王子市では革新的なサイボーグ技術とドローン技術を持つ企業、フシモリが復興に尽力。これに影響され八王子市周辺で様々な新興企業が発展していった。


 同時に規制緩和による柔軟な企業活動と誘致を行い、復興と発展を加速させる実験都市計画が始まった。これにより八王子市を中心に都内の市町村が合併、区として再編成された経済特区ハチオウジ市が誕生した。


 東京都ハチオウジ市はフシモリと関連企業の煌びやかな成長の反面、災害後に治安が急激に悪化した日本でも特に犯罪率の高い都市になっている。


 その為、市民の目には西急スクエアの爆発も日常の出来事としか映っていない。





 高取が目覚めると病院のベッドに寝ていた。体中に包帯を巻かれ、腕には点滴が刺さっていた。ベッドの横では女性の看護師が見つめている。


「良かった。意識が戻りましたね」


「ここはどこです?」


「ハチオウジ市立永星病院しりつながほしびょういんです。あなたは事故に巻きこまれてここに運ばれてきたんですよ。痛みはあると思いますが、順調に回復してます」


「事故・・・・・・カヨコ・・・・・・カヨコはどこです? 結婚一周年の記念でレストランにいたんです。子どもができたんです。私よりもカヨコは大丈夫なんですか?」


「・・・・・・先生を呼んできますね」


 そう言うと看護師は病室から出ていった。看護師が閉めた扉を見つめながら高取は思い返していた。


 黒いフードの男がレストランの入口を吹き飛ばして入った光景が浮かんできた。喧騒に包まれるレストラン、黒いフードの男は指を光らせると突然、轟音と衝撃が襲った。次に浮かんだのは瓦礫と炎の中で痛みと共に目覚めた光景だった。痛みの中で感覚が甦るとカヨコの手を握っていることに気がついた。そこからの記憶は闇に包まれている。カヨコは一体どうなったのか? 高取はにわかに恐怖を覚えた。カヨコとお腹の中にいるまだ見ぬ子どもに何かあったと思うといても、立ってもいられない。


 数分後、病室に中年の白衣を着た男とさきほどの看護師が入ってきた。


「お目覚めになりましたか。担当医の今井です。お身体大丈夫ですか?」


 今井と名乗る医師がずれた眼鏡を手で直しながら尋ねた。


「ええ。私のことは良いです。それよりも妻のカヨコはどこです? 無事なんですか? 妊娠してるんです」


「・・・・・・残念ですが・・・・・・奥様は事故でお亡くなりになりました。お悔やみを申し上げます」


「亡くなった? ・・・・・・何を言っているんです・・・・・・そんなことあるわけないじゃな・・・・・・!?」


 高取は思い出した。切断されたカヨコの手を。しかし、自らが思い出した光景を信じられなかった。そんな訳がない、結婚一周年の記念日、その日に子どももできて、カヨコと幸せな毎日が待ってるはずなのだ。だが、瓦礫の中で握っていたカヨコの軽く冷たい手の感触が甦ってきた。その瞬間、高取の思い描いていた幸せが全て砕け散った。はじめに高取は声にならない叫びをあげ、それがじょじょに言葉になっていく。


「カヨコォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」

 

 高取は声の限り叫んだ。





 数時間が経った。声も涙も枯れ果てた高取は焦点の合わない目で天井を見つめ続けていた。ドアが開き、人の気配がした。


「高取コウジさんですね」


 ベッドの横にスーツを着た二人組の男が立ってた。長髪で髭面の男が歩みより話しかけた。


「私はエフン、ハチオウジ市警のエフン、安堂あんどうですエフン」


「同じくハチオウジ市警の井土いどです」


 高取はハチオウジ市警を名乗る二人組を横目で見た。


 ハチオウジ市警。ハチオウジ市内を管轄する警視庁とは独立した組織だ。特別に設けられたハチオウジ市公安委員会の元で都道府県警と同様の権限を持ち、増加する犯罪に迅速かつ柔軟な対応がとれる様に創設された。


 安堂はエフンと咳払いすると長髪をかきあげた。


「まずはエフン、奥様につきましてはエフンご冥福をお祈り致します。簡単に今回の事故を説明させて頂きますエフン。レストランヒロスエのガス設備の老朽化によってエフン、ガスが漏れ、火に引火して大爆発を起こしましたエフン。負傷者二十一名、死者十八名のエフン、大惨事となりました」


 話を聞いた高取は目に光が戻ると同時に怒りを感じはじめた。


「ガス・・・・・・爆発? ・・・・・・私は見たんです。黒いフードの男の指が光って爆発を引き起こしたんですよ。そいつは・・・・・・どこです?」


「事故を生き残られた方からも同じような話を聞きましたがエフン、恐らくはエフン、事故によるショックで何か勘違いをエフン、したんでしょう」


 寝ている高取の両肩がピクピクと動く。


「勘違いじゃありません! 私は見たんです! そいつが・・・・・・妻を殺したんだ。勘違いはあなただミスター安堂!!」


「こんな状況でエフン、混乱しているのはエフン、わかりますが消防の報告からもエフン、今話したことが事実なんですエフン、どうかご理解くださいエフン、井土君エフン、あれをお渡ししなさいエフン」


「高取さんこちらに今回の顛末が書かれた書類がありますのでお目通し願います。申し訳ございませんが、次の被害者の方の所へ行かなければならないのでこれにて失礼します。お大事にしてください」


 そう言って書類を机に置き、足早に病室を去った。



 高取はカヨコを失ったショックと爆発の真相についても納得がいかぬまま、茫然自失の日々を過ごしていた。


 病室で天井を見つめているとドアの開く音がした。定期診断だと思い気にとめずにいると黒縁眼鏡を掛けた初老の男が覗きこんできた。


「お目覚めかな」


「誰です? あなたは」


「私は後藤エイショウ。八王子区三崎町でバーのマスターをやっている」


「バー? それが何の用です? それに見ず知らずの方がなんで病室にいるんです?」


「色々と伝手があるのでな。あの爆発事故について真実を知りたくはないか?」


「!? ・・・・・・真実・・・・・・どういうことです」


超常犯罪ちょうじょうはんざいを知っているか? 常識を越えた力によって引き起こされた不可解な未解決事件だ」


「ええ・・・・・・この前の圧死事件もそうですよね」


 後藤が面長な顔に表情を浮かべず頷いた。高取はいつの間にかどう見ても不審な後藤の話に耳を興味を持つようになっていた。


「その通り。この事故も同じだ。被害者の話では黒いフードの男の指が光って爆発が起きたといっているみたいだが、それこそが超常犯罪だ。警察は幻覚だとして相手にしていないが、奴らは真相を知っていながら、特定機密統制法の名のもとに隠蔽し独自に対処している」


「どういうことです?」


後藤が壁のパイプ椅子に座る。


「この超常犯罪を起こしているのは超人と呼ばれる存在だ」


「ただの都市伝説じゃないんですか。違法なサイボーグ改造をした者達が起こしてると報道されてます」


「ふっ、それは混乱を起こさないように配慮された稚拙なカバーストーリーだ。起源はいつかはわからない。しかし、確実に言えることは日本大災害以降にハチオウジ市を中心にして関東で覚醒する者が増えた。今では世界的にも増えている。とはいえ、ハチオウジ市は桁違いに多い」


「なぜ・・・・・・」


「それはわからない。覚醒の基準も不明だ。あるものは命の危機にさらされた時、また、あるものは何の前触れもなく超人に覚醒する。生命体を成り立たせる気という力がある。普段は生命維持に必要な量だけしか使えないようにリミッターが掛けられている。だが、超人はそのリミッターを越えて気の力を使える者だ」


「そんな・・・・・・信じられませんね・・・・・・」


「では、あの爆発はどう考えるんだね? ガス爆発か?」


「それは・・・・・・」


「まぁあ良い、超人の存在を信じさせるとしようか、見ろ」


 そう言うと後藤は立ち上がり、両手で握り拳をつくり、両足を開いた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 気合いを入れると後藤の胸を中心に光が灯り、拡大していく。ついには全身を光の膜が覆った。


「どうかな」


 高取は言葉を失い、その光景を見ていた。後藤が放つ光は黒いフードの男が作りだした光に似ていた。


「一体、何なんです・・・・・・それは」


 後藤は構えを解くと光は消えた。


「言っただろ。これが気だ。そして、私も超人だ」


 後藤は入口に向かって歩いていく。


「待ってください! なぜ私にそんな事を伝えたんですか?」


 後藤は振り返ると眼鏡の位置を直し見つめた。


「いずれわかる。また、お目にかかろう、その時に全て話す」


 後藤は病室を出ていった。





「骨が・・・・・・これは驚いた。高取さん、あなたはとても運が良い、奇跡ですよ」


 高取はベッドで寝ながら、大袈裟に言う今井を見た。


「・・・・・・何が運が良いんです・・・・・・」


 今井は白髪交じりの髪を振り乱し、眼鏡の奥にある細い目を見開くと興奮気味に話した。


「あなたの回復力ですよ。あの事故であなたと同程度の重症の患者様はまだ、意識すら戻っていない。しかし、あなたは二日で意識が戻り、一週間で傷も塞がり、全身の骨折も元に戻りつつある」


 高取は視線を天井に戻して思いを馳せた。カヨコとお腹の子どもを失って生きる意味がない自分が生き残って何が奇跡なのか。


 高取は奇跡という言葉に憎悪を憶えた。だがと思い返す。自らが生き残ったことに唯一意味があるとすればカヨコの仇を討てるということだけなのだろう。ならばその為に生き続けるしかない。


 鍵はあの後藤エイショウという男、まずは後藤を訪ねる。そこからはどんな手を使っても黒いフードの男を見つけだしてこの手で殺す。高取は憎悪に燃える眼で自らに誓いを立てた。



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